株で儲けられない人の習性 「一流の投資家」がいつも考えていること

朋川雅紀
最終更新日:2021-10-08 公開日:2021-10-08

人はいつも合理的には動けない──「行動ファイナンス」概論

 人間は感情の動物である

行動ファイナンス」とは、「人間はいつも合理的に行動するとは限らない」という前提に立って金融市場の動きを考える理論です。

「行動ファイナンス」理論が登場する以前の〝古典的〟な経済学では、そこに存在する人間のモデルとして、常に合理的に、冷静に考え行動するという概念が用いられていました。

「合理的に考えて行動する」ということは、「いつも最大の利益と最小のリスクをもたらすような選択肢を選ぶ」ということです。投資家は常に十分な情報を持っていて、いつも正しい行動をとる存在として扱われていたのです。

しかし、人間は感情の動物です。合理的な判断をいつもしているとは限らないのです。

「行動ファイナンス」の理論では、古典的な経済学がカバーしてこなかった人間の感情的な部分に光を当てています。人間の合理的な意思決定を行うために必要な「冷静さ」は、しばしば「感情」によって打ち負かされてしまうからです。

85万円と100万円。どちらが合理的か?

突然ですが、私からの質問です。考えてみてください。

【Q1】あなたはどちらを選びますか?
  • A:必ず(100%の確率で)85万円がもらえる
  • B:85%の確率で100万円がもらえるが、15%の確率で何ももらえない
【Q2】あなたはどちらを選びますか?
  • C:必ず(100%の確率で)85万円損をする
  • D:85%の確率で100万円損をし、15%の確率で損はしない

ほとんどの方が「A&D」を選んだと思います。「A&D」を選んだ人は極めて〝正常〟です。でも、「A&D」を選ぶことは合理的とは言えません。

合理的な行動とは、「リターンが同じであれば、最小のリスクをもたらすような選択肢を選び、リスクが同じであれば、最大のリターンをもたらすような選択肢を選ぶ」ということです。

では、なぜ「A&D」を選ぶことは合理的と言えないのでしょうか? Q1から見ていきます。Bの期待値は「100×85%+0×15%=85万円」です。したがって、AとBの期待値は同じであることがわかります。

一方、リスクはどうでしょうか?

Aは100%の確率で起こるので、Aのリスクはゼロです。Bは、100万円のこともあれば、ゼロのこともありますので、リスクはゼロではありません。リターンが同じであれば、リスクが小さいケースを選ぶのが合理的です。AはBよりリスクが小さいですから、Aを選ぶことは合理的な行動です。

人はリスクではなく損失を回避する

次に、Q2を見てみましょう。Dの期待値は「▲100×85%+0×15%=▲85万円」です。したがって、CとDの期待値は同じであることがわかります。

では、リスクはどうでしょうか? これもQ1の場合と同じですね。Cは100%の確率で起こるので、Cのリスクはゼロです。Dは、▲100万円のこともあれば、ゼロのこともありますので、リスクはゼロではありません。

リターン(ここでは損失)が同じであれば、リスクが小さいケースを選ぶのが合理的です。CはDよりリスクが小さいですから、Cを選ぶことが合理的な行動です。したがって、「A&C」を選ぶことが合理的な行動といえます。

では、なぜQ1では合理的な選択ができるのに、Q2では合理的な選択ができないのでしょうか?

それは、損失を出したくないからです。普通の人間は、利益に対しては「リスク回避的」なのに、損失に対しては「リスク愛好的」になってしまいます。人間は、損失が絡むと合理的な判断ができなくなるのです。Dを選択する行動は、「リスク回避的」ではなく「損失回避的」とも言えます。

頭ではわかっていても…

それでは、ここでもうひとつ質問です。Q1の質問が次のような内容になったとき、あなたはどちらを選びますか?

【Q3】あなたはどちらを選びますか?
  • A:必ず(100%の確率で)50万円がもらえる
  • B:85%の確率で100万円がもらえるが、15%の確率で何ももらえない

やっぱり、Aを選んでしまいますよね。私もAを選びます。確実に50万円ほしいですからね。

このように、人間は利益に対してはリスク回避的ですから、期待リターンが明らかにAのほうが低い(Aは50万円であるのに対して、Bは85万円)にもかかわらず、Aを選んでしまいます。

それでは、Q2の質問が次のような内容になったときはどうでしょうか?

【Q4】あなたはどちらを選びますか?
  • C:必ず(100%の確率で)50万円損をする
  • D:85%の確率で100万円損をし、15%の確率で損はしない

Cを選ばなければいけないことを頭ではわかっていても、損をしない可能性が少しでもあるDを選んでしまいますよね。

人は損失を極度に嫌がる──利益と損失

利益と損失に対する人間の感情について、もう少し説明したいと思います。

まず、「人間は変化(資産の増減)に対して敏感であるのに比べ、絶対額(資産額)に対しては比較的鈍感である」という話があります。

お金持ちの行動を見ていると、このことがうなずけます。お金持ちに対して、「いったい、あの人はいくら稼いだら気が済むんだ」と感じたことはないですか?

お金持ちはいくらお金を持っていても、それだけでは満足しません。それは、絶対額(資産額)に対して鈍感になっているからです。単純に、お金が増えればうれしいし、お金が減れば悲しい。この感情は、もともといくら持っていたかとはあまり関係ありません。

株価が下がるほどに悲しくなくなる

次に、「利益と損失が発生した場合、利益や損失が拡大すればするほど、その喜びや悲しみが増す度合いが低下する」というお話をします。

例えば、ある株を1,000円で買ったとします。その株が値上がりして1,100円になったときの喜びと、さらに値上がりして1,100円が1,200円になったときの喜びを比較すると、一般的には1,000円から1,100円になったときの喜びのほうが大きくなります。

1,200円が1,300円になった場合は、値上がりに慣れてきて、喜びが増す度合いがさらに小さくなります。

値下がりの場合にも、同じようなことが言えます。1,000円で買った株が900円に値下がりしたとします。そのときの悲しみと、900円が800円になったときの悲しみを比較すると、前者の悲しみのほうが大きくなります。

値上がり期待で株を買っているわけですから、値下がりが起こるとショックを受けます。さらに値下がりすれば、もちろん悲しみは増えますが、その度合いは最初のショックよりも小さいはずです。

そして、さらに値下がりすると、あきらめに近い境地になります。元本(買い値)に戻る可能性がどんどん小さくなるからです。

損失の悲しみは利益の喜びに勝る

また、「損失による悲しみと利益による喜びを比較した場合、損失による悲しみのほうが大きい」ということも言えます。

例えば、ある株を1,000円で買ったとします。その株が値上がりして1,100円になったときの喜びと、その株が値下がりして900円になったときの悲しみを比較すると、900円(100円の損失)になった悲しみのほうがずっと大きい、ということです。

一説によると、損失で感じる悲しみは、同じ金額の利益で感じる喜びよりも2倍から2.5倍も大きいと言われています。

つまり、人間はうれしいことと悲しいことを比較すると、どうしても悲しいことのほうが気になってしまうのです。プロ野球のピッチャーが「ホームランを打たれた打者のことは決して忘れないが、抑えた打者のことはあまり覚えていない」とコメントしたことが、まさに人間の本性を表していると思いませんか。

くやしくて眠れなかったという話はよく聞きますが、うれしくて眠れなかったという話は聞いたことがありません。私自身も、うまくいかなかった投資のほうを鮮明に覚えています。

勝ちたければ売り慣れよう

このように、人間とは「損の実現を避けることを最優先にしてしまい、合理的な意思決定ができなくなる生き物」なのです。本来売ったほうがよいと思われる取引でも、損を確定させたくないという理由だけで売ることができません。

しかし投資においては、売らなければならないものは、損失が発生するか否かに関係なく売却しなければなりません。つまり、株価が下がると思うのであれば、売ればいいだけの話です。

……と、言うのは簡単ですが、実践するのはむずかしいです。

「売りは買いよりむずかしい」とよく言われます。それは、ひとつの取引は通常売りによって完結しますが、買うときは希望や夢が膨らんでいたのに、売りによって一気に現実に引き戻されるからです。

「わかっているのにできない」を克服するには慣れるしかありませんので、みなさんも売り慣れてください。

【情熱の株式投資論】

[執筆者]朋川雅紀
[ともかわ・まさき]個人投資家・株式投資研究家。大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立する。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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