なぜ株価が大きく上がるのか? 一流の投資家が教える「完璧な10倍株」の見つけ方
《株で勝てる人と勝てない人は一体どこが違うのか? 実は、どちらにも「共通点」があります。30年以上の実績をもつファンドマネージャーが「一流の投資家」の条件を明かす【情熱の株式投資論】》
10倍株(テンバガー)とは
株価が上がる銘柄を見つけることが投資の目的ですが、「10倍株(テンバガー)」はめったにお目にかかることはありません。しかし、そこには株式投資のエッセンスがつまっています。
株価が10倍になる、あるいは「株価が大きく上がる」とは、一体どういうことなのでしょうか。
なぜ株価が10倍になるのか
そもそも「10倍株」とはどういうことでしょうか。
・PERとEPSの関係
株価(P)とは、EPS(1株あたり利益)にPER(株価収益率)をかけたものとして計算されます。
- P=EPS×PER
10倍株とは、株価が10倍になることですから、つまり、「PER×EPS」が10倍になることを意味します。10倍株を詳しく知るために、まずはこの式を分解して説明しようと思います。
この「P=EPS×PER」からは、次の3つの関係が言えます。
- PERが一定だとすると、EPSが10倍になれば、株価は10倍になる
- PERが拡大すれば、EPSが10倍にならなくても、株価は10倍になる
- PERが縮小すれば、EPSが10倍以上にならなければ、株価は10倍にはならない
このことから、「PER(バリュエーション)が高いときに買ってしまうと、株価が10倍になるのは大変なこと」がわかります。
次に、EPS(1株あたり利益)について説明します。EPSとは、利益を発行済み株式数で割ったものです。
- EPS=利益÷発行済み株式数
ここでは、他の条件が不変だとすると、次の3つの関係がいえます。
- 発行済み株式数が一定だとすると、利益が10倍になれば、EPSは10倍になる
- 発行済み株式数が減少すれば、利益が10倍にならなくても、EPSは10倍になる
- 発行済み株式数が増加すれば、利益が10倍以上にならなければ、EPSは10倍にはならない
このことから、「発行済み株式数が増加してしまうと、EPSが10倍になるのは大変なこと」がわかります。
・利益とは?
利益は次の式で表すことができます。
- 利益=売上-支出
ここで、他の条件が不変だとすると、次の3つの関係がいえます。
- 売上が10倍増で支出も10倍増なら、利益も10倍になる(マージン不変)
- 売上が10倍にならなくても、支出が売上ほど増加しなければ、利益は10倍になる(マージン改善)
- 売上が10倍になっても、支出が売上を上回るペースで増加すれば、利益は10倍にはならない(マージン悪化)
このことから、「マージンが悪化すると、収益が10倍になるのが大変なこと」がわかります。
さて、ここでマージンについて説明したいと思います。「マージン」とは、売上とコストの関係を見たものです。
- マージン(利ざや)=利益÷売上=(売上-支出)÷売上
マージンは競争環境を反映する数字でもあります。つまり、競争が激しい業界ではマージンは低く、独占や寡占状態にある業界ではマージンが高くなる傾向があります。
・売上とは?
続いて、売上は以下の数式で表すことができます。
- 売上=価格×数量
そして、他の条件が不変だとすると、次の3つの関係がいえます。
- 価格が一定で、数量が10倍になれば、売上は10倍になる
- 価格が上昇すれば、数量が10倍にならなくても、売上が10倍になる
- 価格が低下すれば、数量が10倍以上にならなければ、売上が10倍にはなり得ない
このことから、「価格が低下すると、売上を10倍にするのが大変なこと」がわかります。
・数量とは?
さらに、数量は次の式で表すことができます。
- 数量=購入頻度×購入者数
そして、他の条件が不変だとすると、次の3つの関係がいえます。
- 購入頻度が一定で、購入者数が10倍になれば、数量は10倍になる
- 購入頻度が上昇すれば、購入者数が10倍にならなくても、数量は10倍になり得る
- 購入頻度が低下すれば、購入者数が10倍以上にならなければ、数量が10倍にはなり得ない
このことから、「購入頻度が低下すると、数量を10倍にするのが大変なこと」がわかります。
・PERとは?
PERは、理論的には「成長率」と「リスク」の関数ですが、その一方で、市場で取引されているPERは「人気」のバロメーターとも言えます。
人気が出て、多くの投資家から買い上げられれば、バリュエーションは拡大していきます。 一方、経済の混乱期には、株価は下落し、PERは縮小します。
完璧な10倍株を探せ!
少々ややこしかったかもしれませんが、ここまでの話をまとめると以下のようになります。つまり、「完璧な10倍株とは、販売価格が上昇し、購入者数と顧客の購入頻度が増え、コストが低下し、発行済み株式数が減少し(自社株の買い戻し)、人気がない(これから投資家に人気が出てくる)企業」です。
【完璧な10倍株】
- 販売価格が上昇する
- 購入者数と顧客の購入頻度が増える
- コストが低下する
- 発行済み株式数が減少する(自社株の買い戻し)
- 人気がない(これから投資家に人気が出てくる)
それぞれの項目ごとに、注目すべき企業を見てみましょう。
【販売価格】
- 手ごわい競合相手がおらず、価格決定力のある企業
- 商品開発力やマーケティング力に優れ、より高い価格帯の新製品を出すことで、既存の製品からの切り替えを促し、実質的な値上げを実施できる企業
- 需給がタイトで、値上げを実施できる企業
【購入者数】
- 販売チャンネルを拡大できる企業
- 販売地域を拡大できる(地方から全国へ、そして国内から海外へ)企業
【購入頻度】
・品揃え・サービスを増やすことで、一人当たりの購入品目数を増やせる企業
【コスト】
- プロセスの刷新やリストラなどを実施し、コストの削減を実現できる企業
- 価格交渉力の強い企業
- 利益につながらない顧客との取引は止められる企業
- 設備稼働率を引き上げ、1単位当たりの固定費の削減を実現できる企業
【発行済み株式数】
・自社株の買い戻しによって、発行株式数が減少している企業
【PER(人気)】
- 悪材料によって一時的に人気がなくなった企業
- 悪材料が出尽くし、もうこれ以上、人気がなくなりそうもない企業
株価が10倍になるためには、通常、景気の拡大だけではない後押し(構造要因)が必要です。そのきっかけになりうるものとして、技術革新、政策/規制(緩和)、人口動態、環境問題、社会(価値)観などがあります。
また、「新しい何か(今までと違う、あるいは、今までにない)」を見つけることは、10倍株のヒントになります。それは、新しい市場であり、新しい製品であり、新しい地域・国です。
大化けする可能性を含んだ10倍株候補を見つけるためには、世の中の動きに敏感でいることが重要なのです。