なぜ株価が大きく上がるのか? 一流の投資家が教える「完璧な10倍株」の見つけ方

朋川雅紀
2024年7月9日 15時00分

《株で勝てる人と勝てない人は一体どこが違うのか? 実は、どちらにも「共通点」があります。30年以上の実績をもつファンドマネージャーが「一流の投資家」の条件を明かす【情熱の株式投資論】》

10倍株(テンバガー)とは

株価が上がる銘柄を見つけることが投資の目的ですが、「10倍株(テンバガー)」はめったにお目にかかることはありません。しかし、そこには株式投資のエッセンスがつまっています。

株価が10倍になる、あるいは「株価が大きく上がる」とは、一体どういうことなのでしょうか。

なぜ株価が10倍になるのか

そもそも「10倍株」とはどういうことでしょうか。

・PERとEPSの関係

株価(P)とは、EPS(1株あたり利益)にPER(株価収益率)をかけたものとして計算されます。

  • P=EPS×PER

10倍株とは、株価が10倍になることですから、つまり、「PER×EPS」が10倍になることを意味します。10倍株を詳しく知るために、まずはこの式を分解して説明しようと思います。

この「P=EPS×PER」からは、次の3つの関係が言えます。

  • PERが一定だとすると、EPSが10倍になれば、株価は10倍になる
  • PERが拡大すれば、EPSが10倍にならなくても、株価は10倍になる
  • PERが縮小すれば、EPSが10倍以上にならなければ、株価は10倍にはならない

このことから、「PER(バリュエーション)が高いときに買ってしまうと、株価が10倍になるのは大変なこと」がわかります。

次に、EPS(1株あたり利益)について説明します。EPSとは、利益を発行済み株式数で割ったものです。  

  • EPS=利益÷発行済み株式数

ここでは、他の条件が不変だとすると、次の3つの関係がいえます。

  • 発行済み株式数が一定だとすると、利益が10倍になれば、EPSは10倍になる
  • 発行済み株式数が減少すれば、利益が10倍にならなくても、EPSは10倍になる
  • 発行済み株式数が増加すれば、利益が10倍以上にならなければ、EPSは10倍にはならない

このことから、「発行済み株式数が増加してしまうと、EPSが10倍になるのは大変なこと」がわかります。

・利益とは?

利益は次の式で表すことができます。

  • 利益=売上-支出

ここで、他の条件が不変だとすると、次の3つの関係がいえます。

  • 売上が10倍増で支出も10倍増なら、利益も10倍になる(マージン不変)
  • 売上が10倍にならなくても、支出が売上ほど増加しなければ、利益は10倍になる(マージン改善)
  • 売上が10倍になっても、支出が売上を上回るペースで増加すれば、利益は10倍にはならない(マージン悪化)

このことから、「マージンが悪化すると、収益が10倍になるのが大変なこと」がわかります。

さて、ここでマージンについて説明したいと思います。「マージン」とは、売上とコストの関係を見たものです。

  • マージン(利ざや)=利益÷売上=(売上-支出)÷売上

マージンは競争環境を反映する数字でもあります。つまり、競争が激しい業界ではマージンは低く、独占や寡占状態にある業界ではマージンが高くなる傾向があります。

・売上とは?

続いて、売上は以下の数式で表すことができます。

  • 売上=価格×数量

そして、他の条件が不変だとすると、次の3つの関係がいえます。

  • 価格が一定で、数量が10倍になれば、売上は10倍になる
  • 価格が上昇すれば、数量が10倍にならなくても、売上が10倍になる
  • 価格が低下すれば、数量が10倍以上にならなければ、売上が10倍にはなり得ない

このことから、「価格が低下すると、売上を10倍にするのが大変なこと」がわかります。

・数量とは?

さらに、数量は次の式で表すことができます。

  • 数量=購入頻度×購入者数

そして、他の条件が不変だとすると、次の3つの関係がいえます。

  • 購入頻度が一定で、購入者数が10倍になれば、数量は10倍になる
  • 購入頻度が上昇すれば、購入者数が10倍にならなくても、数量は10倍になり得る
  • 購入頻度が低下すれば、購入者数が10倍以上にならなければ、数量が10倍にはなり得ない

このことから、「購入頻度が低下すると、数量を10倍にするのが大変なこと」がわかります。

・PERとは?

PERは、理論的には「成長率」と「リスク」の関数ですが、その一方で、市場で取引されているPERは「人気」のバロメーターとも言えます。

人気が出て、多くの投資家から買い上げられれば、バリュエーションは拡大していきます。 一方、経済の混乱期には、株価は下落し、PERは縮小します。

完璧な10倍株を探せ!

少々ややこしかったかもしれませんが、ここまでの話をまとめると以下のようになります。つまり、「完璧な10倍株とは、販売価格が上昇し、購入者数と顧客の購入頻度が増え、コストが低下し、発行済み株式数が減少し(自社株の買い戻し)、人気がない(これから投資家に人気が出てくる)企業」です。

【完璧な10倍株】
  • 販売価格が上昇する
  • 購入者数と顧客の購入頻度が増える
  • コストが低下する
  • 発行済み株式数が減少する(自社株の買い戻し)
  • 人気がない(これから投資家に人気が出てくる)

それぞれの項目ごとに、注目すべき企業を見てみましょう。

【販売価格】
  • 手ごわい競合相手がおらず、価格決定力のある企業
  • 商品開発力やマーケティング力に優れ、より高い価格帯の新製品を出すことで、既存の製品からの切り替えを促し、実質的な値上げを実施できる企業
  • 需給がタイトで、値上げを実施できる企業
【購入者数】
  • 販売チャンネルを拡大できる企業
  • 販売地域を拡大できる(地方から全国へ、そして国内から海外へ)企業

【購入頻度】

 ・品揃え・サービスを増やすことで、一人当たりの購入品目数を増やせる企業

【コスト】
  • プロセスの刷新やリストラなどを実施し、コストの削減を実現できる企業
  • 価格交渉力の強い企業
  • 利益につながらない顧客との取引は止められる企業
  • 設備稼働率を引き上げ、1単位当たりの固定費の削減を実現できる企業
【発行済み株式数】

 ・自社株の買い戻しによって、発行株式数が減少している企業

【PER(人気)】
  • 悪材料によって一時的に人気がなくなった企業
  • 悪材料が出尽くし、もうこれ以上、人気がなくなりそうもない企業 

株価が10倍になるためには、通常、景気の拡大だけではない後押し(構造要因)が必要です。そのきっかけになりうるものとして、技術革新、政策/規制(緩和)、人口動態、環境問題、社会(価値)観などがあります。        

また、「新しい何か(今までと違う、あるいは、今までにない)」を見つけることは、10倍株のヒントになります。それは、新しい市場であり、新しい製品であり、新しい地域・国です。

大化けする可能性を含んだ10倍株候補を見つけるためには、世の中の動きに敏感でいることが重要なのです。 

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[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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