損切りは本当に必要なのか? メリット・デメリットと判断のポイント

朋川雅紀
2024年10月28日 12時00分

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損切りは必要か?

ご存じの方も多いと思いますが、「損切り」とは、株式投資において、購入した株の価格が下落して含み損になった際に、持ち株を売却して損失を確定させることです。

そもそも損切りは必要なのでしょうか。そのことを議論する前に、まずは、損切りのメリットとデメリットを整理したいと思います。

損切りのメリット

●最小限の損失

損切りをすることで、損失が膨らむのを防ぐことができます。株価が下がると含み損が増えていくため、見切りをつけて損切りをすることで損失を最小限に抑えられます。

●気持ちの切り替え

含み損を抱えている銘柄は、どうしても気になってしまうものです。そのことで集中力を欠いてしまうこともあります。しかし損切りを行えば投資資金が手元に戻り、新たな気持ちで次の有望な銘柄の発掘に注力することができます。

損切りをしないで放置したままにしておくと、モヤモヤとした気分が続いて、前に進もうとする気持ちがなかなか出て来ないかもしれません。

●節税効果

他の株式の売買で利益が出ている場合、損切りによって損失を確定することで、トータルの利益額を減らし、支払う税金を抑えることができます。

損切りのデメリット

●損失の確定

損切りを行うと、損失が確定してしまいます。ポジションがなくなってしまいますので、たとえ株価が回復しても、その恩恵を受けることはできません。

もし株価が回復すれば、「売らなければよかった」という後悔につながり、精神的なダメージを受けることもあります。後悔という感情は尾を引きますので、とても厄介です。

難しいかもしれませんが、損切りは「保険」と割り切って考えるべきでしょう。

●損切り貧乏

損切りラインの設定を誤ると、細かい損切りを繰り返して小さな損失を積み重ねることで、最終的に大きな損失を被る、いわゆる「損切り貧乏」になってしまいます。

損切り貧乏になる理由としては、損切りのラインが近すぎてわずかな下落でも損切りになってしまったり、下落トレンドの中で頻繁に取引を繰り返したりして、損切り回数が重なってしまうことなどがあげられます。

●分散効果の低減

ポートフォリオの構築において最も重要な視点は、銘柄を分散することによって「リスクの軽減」を図ることです。そのため、株価の動き方が違う銘柄同士を組み合わせることを考えるべきで、一部の銘柄が含み損になっていること自体は必ずしも悪いことにはなりません。

含み損の銘柄を売却することで、似たような値動きをする銘柄だけになってしまうと、何かのショックを受けて、ポートフォリオの価値が大きく下落するリスクが高まってしまうかもしれません。

損切りは“必ず”やるべきなのか?

株式投資において、「利益」は自分ではコントロールできませんが、「損失」はコントロールできます。

利益がどれだけ伸びるかはマーケット次第で、株価がどんどん上げれば、当然、利益もそれにつれて伸びていきますが、自分ではどうしようもありません。一方、損失については、通常の市場の動きをするのであれば、ある水準以下に抑えることは可能です。

自分ができることだけに集中し、「コントロールできることはコントロールする」という考え方に基づく損切りは理にかなっていると言えるでしょう。

実際のところ、投資期間が短いトレーディング(短期トレード)であれば、損切りルールを作って、そのルールを厳格に守っている人は多いようです。その一方で、長期の投資であれば、「◎%下がったら損切りする」といった厳格な損切りルールを決めている人はあまりいないと思います。

資金を回転させて短期間で稼ぐことを目指すなら損切りはすべきでしょうが、中長期的に時間をかけて資産を育てていく投資スタイルの場合、損切りが絶対に必要とは言い切れません。

長期投資家の中には「損切りをしない」と決めている人もいます。特に、つみたてNISAなどの非課税口座でインデックス投資をしている場合などは、そもそも損切りという概念は当てはまらないでしょう。

十分に銘柄が分散されたポートフォリオであれば、短期的な浮き沈みはあっても、長期的には株価は上昇するという前提で行っているわけですから、損切りは必要ありません。

売りの判断をすべき時とは

問題は個別株投資の場合です。見極めは非常に難しいですが、株価の下落が一時的かどうかの判断をしなければなりません。

売るかどうかの判断は、想定している投資期間の中で、将来の株価が現在の株価よりも低くなる可能性が高いときに行う、ということが前提です。本来、売りの判断は、現在の状況が含み益か含み損かは関係ないはずです。

その一方で、投資の目的は、投入金額を上回る金額を回収することです。含み損を抱えているということは、銘柄選択か投資タイミングに問題があったことが考えられます。

結局は、株価の下落が一時的かどうかの判断によります。新たな競合相手の出現などビジネス環境が大きく変化するような事態が起こったなら、一時的な事象ではないでしょうから、売りを検討するのが妥当でしょう。

要は、損切りするかどうかは投資家のスタイル次第、ということです。そして、損切りするのであれば、あらかじめルールを決めて、感情に流されないことが肝要です。

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[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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