株式投資は“ざっくり”でいい? 長く続けるために必要な「開き直り」の極意

朋川雅紀
2025年3月10日 13時00分
A baseball player swinging the bat, eyes focused on the ball

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時には「開き直り」が必要

株式投資には、時に「開き直り」が必要かもしれません。

どんなに時間をかけてマクロ経済、株式市場、個別企業などの動向を調べたとしても、株式投資に必要な全ての情報が手に入るわけではありませんし、全てのことが完璧に理解できなければ株で儲けることが出来ないというわけでもありません。

もともと株式投資というものは、「不確実性」というリスクを取ることで、その見返りとしてのリターンを得るわけですから、株式投資への努力は“ほどほど”のところで十分である、と開き直るべきだと思います。

たとえば、会社の経理業務においては、1円単位まで合わせることが必要です。その合理性としては、次のようなことが考えられます。

  • 正確性の確保……1円の誤差が積み重なると大きな金額のズレを生む可能性があります。正確な帳簿を維持するためには、1円単位の精度が重要です。
  • 監査対応……外部監査や内部監査では、正確性が重要視されます。1円単位の誤差も見逃さずに修正することで、監査対応がスムーズに進みます。
  • 信頼性の向上……会社の財務情報が正確であることは、投資家や取引先からの信頼を得るために重要です。細部まで正確に処理することで、財務報告の信頼性が向上します。

しかしながら株式投資においては、1円単位まで合わせるような発想に合理性はありません。

株式投資には、“ざっくり”、“おおよそ”、“大枠”といった発想のほうがしっくりきます。理にかなった投資手法であれば、長期的には結果が付いてくるわけですから、個々の取引結果については、「そんなこと知らない」という鈍感さも必要ではないでしょうか。

「継続的な努力」は間違いなく必要ですが、株式投資の勉強(知識の習得、企業の調査・分析など)を続けることが苦痛になってしまえば、元も子もありません。長く(死ぬまで)続けるためには、学ぶ楽しさや、自分が投資家として成長している実感を味わうことのほうが重要ではないでしょうか。

どんなに頑張っても全てのことを明らかにすることは出来ないわけですから、どんと構えて、自分のペースに合わせて、気長に取り組めばいいと思います。

結果よりも「いいスイング」を

では、株式投資における「開き直り」とはどういうことなのか、具体的に考えてみたいと思います。

プロ野球選手のヒーローインタビューなどで、「開き直って打席に立ったのが、いい結果につながったと思います」などを言うのを聞いたことがありませんか?

おそらく、打席に立った選手としては「もちろん諦めの気持ちは一切無く、かといって目先の結果だけにとらわれず、自分が出来ることだけに集中して、それで結果が出なくても仕方ない」というようなニュアンスだと思います。

株式に投資するという行為は、野球で言えば「ヒットを打つ」というより、「いいスイングをしようとして打席に立つ」ことと同じ行為と言えます。

「効果的な開き直り」の例

そんな株式投資における「開き直り」という言葉は、様々な解釈が可能です。状況や個人の投資スタイルによって、その意味合いも変わってくるでしょう。

ここでは、効果的な「開き直り」と言える例を説明したいと思います。

・短期的なパフォーマンス

株式市場は日々変動し、短期的な値動きを予測することはなかなか難しいものです。長期的なスタンスで投資をする場合、短期的な株価変動に一喜一憂しないことが重要です。

・特定の銘柄のパフォーマンス

自分が投資した銘柄全てがうまくいくことは、まずありません。ポートフォリオ全体としてうまくいけばいいと割り切りましょう。6〜7割がうまくいけば十分だと思います。

特定の銘柄のパフォーマンスを過度に気にする必要はありません。前提となる業績に問題がないのであれば、たとえ市場の物色対象になっていないとしても気にすることはありません。分散の観点からも、他の保有銘柄と異なる動きをする銘柄も保有し続ける意味はあると思います。

・特定のスタイルのパフォーマンス

株式投資には様々な投資手法が存在します。市場環境によっては、ある特定の投資手法の結果がなかなか出ないケースがあります。自分に合った投資スタイルを確立したのであれば、周りの雑音に振り回されずに自分のスタイルを貫くことも重要です。

「開き直り」の危険な落とし穴

その一方で、「開き直り」の意味を誤解してしまう危険なケースがあります。

・ずさんなリスク管理

開き直ることは、リスク管理をしなくていいことにはなりません。リスクを軽視するなど、決して相場を甘く見てはいけません。十分なリスク管理を行わずに投資を進めることは、とても危険な行為です。

・怠惰な姿勢

そもそも開き直りというのは、「勤勉」が前提です。日々の努力を怠ることは意味しません。投資に関わるストレスを極力排除するために開き直る、ということです。

株式投資における「開き直り」は、使い方次第で有効なツールにも、危険な落とし穴にもなり得ます。自分の投資スタイルや性格を理解し、リスクをしっかりと把握した上で、適切な「開き直り」を実践することが重要です。

[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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