【寄稿】新型コロナウイルスでアメリカ大統領選はどうなるか 金融市場への影響を考える
新型コロナウイルスの大統領選への影響を考える
新型コロナウイルスはアジアから欧米に移り、米国で猛威を振るっている。感染拡大がニューヨークを中心に広がり、ロックダウンの状況が続いている。このウイルスによる影響が長期化すればするほど、秋の大統領選への影響が大きくなることは間違いない。
民主党予備選で中道派ジョー・バイデン氏と争ってきた左派のバーニー・サンダース氏は4月8日、選挙戦からの撤退を表明した。秋の大統領選は、現職のトランプ大統領とバイデン候補の一騎打ちとなる。
民主党・バイデン候補を待ち受けるもの
バイデン氏は当初アイオワ州とニューハンプシャー州で大敗し、先行きが不安視されていた。だが、2月29日のサウスカロライナ州で圧勝して勢いをつけた。3月3日のスーパーチューズデーでも、14州中10州で勝利を手にし、一気に本命候補に名乗り出た。
同じ中道派の前サウスベンド市長ブティジェッジ氏、前ニューヨーク市長のブルームバーグ氏もバイデン氏支持にまわり、3月17日に行われた予備選でもサンダース氏に圧勝。以後は、いつサンダース氏が撤退するかに注目が集まっていた。
だが、バイデン氏が本命で決まったとしても、秋の本番でトランプ大統領に勝てるかは未知数だ。民主党に求められるのは1つになることであり、バイデン氏がどこまでサンダース支持者を取り込めるかがカギとなる。そうでなければ、トランプ大統領に有利に選挙戦が進むこととなるだろう。
トランプ大統領側も、そういった民主党の弱点を突く形で選挙戦を進めていくことは想像に難くない。
もともと民主党内部には中道派を中心に、左派のサンダース氏では本選でトランプ大統領に勝てないとの見方が強かった。トランプ大統領としても、バイデン氏ではなくサンダース氏のほうがやりやすかったという認識はあるだろうから、今後は選挙戦に向けて本腰を入れていくことだろう。
バイデン氏は、若者票をどう取り込むかなどの課題はあるが、オバマ政権時の副大統領としての経験を武器に、この4年間のトランプ政権によって生じた課題(移民・難民と白人との亀裂、国際協調主義の衰退など)を強調していくことだろう。
新型コロナウイルス対策をめぐる攻防
しかし、いずれにせよ新型コロナウイルスの問題が秋の大統領選にも大きく影響しそうだ。トランプ大統領は、自動車大手ゼネラル・モーターズに対し、国防生産法を適用し、不足する人工呼吸器の製造を命じるなど、これを一種の有事と捉え、そこでの成果を秋に持ち込もうとする戦略を取っている。
また今後、感染拡大に終息の目処が見え始めれば、政権の危機管理能力も強調してくるかもしれない。
それに対してバイデン氏は、新型コロナウイルス対策でのトランプ政権の課題を突きたいことは想像に難くない。しかし、感染拡大によって、秋の本番までの討論会や支持者を集めた集会なども次々に延期となっており、追う立場のバイデン氏にはアピールするチャンスが大幅に減っている。
それはトランプ大統領にとっても同じことだが、選挙戦で変化を求める側にとっては、事前にどれだけ国民にアピールできるかがより重要となる。
さらに、新型コロナウイルスからの経済回復を如何に進められるかもカギとなろう。トランプ大統領は、感染拡大をできるだけ抑えるとともに、経済的な被害を最小限になるような対策を打ってくる。新型コロナウイルスからの経済回復、これも大統領選を占う上で大きなポイントになりそうだ。
経済と金融市場への影響を考える
国際通貨基金(IMF)は4月9日、新型コロナウイルスの影響で、2020年の世界経済の成長率が「急激なマイナス」となり、1930年代の世界恐慌以降で最悪の経済危機に直面するとの見通しを示した。
世界恐慌は、1929年に米国での株価大暴落で始まった世界的な経済危機で、税収や所得の減少、失業率の上昇などが各国を襲った。欧米主要国は、世界恐慌による影響を少なくするためブロック経済政策を採用し、後にそれが第2次世界大戦を誘発したとも言われている。
以前のように、経済危機が世界戦争に繋がる可能性はないとしても、コロナショックが「第2次世界恐慌」とも揶揄されるように、その影響は世界各国で同時多発的に出始めている。
そして、「米国がくしゃみをすると日本が風邪をひく」と言われるように、米経済の落ち込みはそのまま日本経済を直撃だろう。これは、程度差はあるとしても全業種に影響するリスクだ。
このような状況においては、トランプが勝ったら経済の先行きはどうなるか、バイデンが勝ったどうなるかという視点で大統領選を捉えるよりも、むしろ新型コロナウイルスによって世界経済がどうなるかのほうが重要なポイントになるだろう。
それによって大統領選の勝者が決まる……と言っても過言ではないほどに、大きな問題と捉えていいのではないかと筆者は考えている。