株価が「お買い得」な銘柄を探す、たったひとつの方法(前編)
株価はいくらが妥当なのか、知っていますか?
映画プロデユーサーのA氏。次回作の主演として、いま人気急上昇中の某アイドルに出演交渉したところ、提示された出演料は500万円。「さすがに高すぎるな」。まだ大したキャリアもなく、実績もない。「でも待てよ」。もしこのまま大スターになって映画が大成功するなら安いのかも──
これと似た状況に、株式市場ではよく遭遇します。話題の新ビジネスを展開するベンチャー企業で、将来性も感じられる。「でも、いま1株3,000円ってどうなの? さすがに高いんじゃない?」とためらっているうちに株価はさらに上昇して、悔しい思いをすることも。
反対に、「こんな有望株が500円なんて安っ! よし、思い切って大量買いするぞ!」と奮発したら、みるみる株価が下がっていく……なんてことも、残念ながらよくあるわけです。
ユニクロは「高い」? それとも「安い」?
「安く買って高く売る」のが株式投資の基本ですが、問題は、「いくらなら安くて、いくらなら高いのか」。売り出し中のアイドルのように有望だけど未知数という場合、一体どこを目安にして株価の判断をすればいいのでしょうか。
さらに、この疑問は「大スター」についても同じことが言えます。
たとえば、「ユニクロ」を有するファーストリテイリング<9983>はただいま株価絶好調で、12月1日の終値は87,560円。株の売買は100株単位なので、購入するには900万円弱の資金が必要ということになります。さすがにこれは「高い」? でも、もっと上昇するなら「安い」かもしれません。
一方、同じ1日終値で東証1部の株価最下位は、不動産関連のランド<8918>。1株あたりの株価は、なんと10円。これなら1万株買っても10万円の投資で済みます。果たして、この株価は「安い」のでしょうか? それとも、これが「妥当」な株価? はたまた「高い」なんてこともあるのかも?
投資家はどうやって株価を評価しているのか?
株価には「定価」や「平均価格」といったものがなく、数字だけで単純に「安い」「妥当」「高い」を判断することはできません。なぜなら、株価というのは企業に対する一種の評価であり、その評価を下すのはひとりひとりの投資家に他ならないからです。
つまり、その株価が安いか、妥当か、高いかは、見方によって変わる、ということ。
では、世の投資家はどうやって評価を下しているのでしょうか? 言い換えると、何を手がかりにして株価の「安い」「妥当」「高い」を判断しているのか? 実は、その判断材料は人それぞれ多岐にわたるのですが、世界中の投資家が共通して使っている、ひとつの指標があります。
それが「PER」です。
株価を判断する世界共通の指標「PER」とは
PERとは「Price Earnings Ratio」の略で、日本語では「株価収益率」といいます。株価を、企業が生み出す利益をもとに評価する指標で、具体的に言うと、株価を利益で割ることで、その株価が利益の何倍にあたるかを算出します。
- PER=株価÷1株あたり利益(EPS)*
(*1株あたり利益〔EPS〕=純利益÷発行済み株式総数)
例えば、株価2,000円のD社の1株あたり利益が100円なら、2,000円÷100円でPERは20倍、というふうに表現します。つまり、企業が生み出す利益の20倍にあたる株価がついている、ということです。また、別のE社は1株あたり利益が同じ100円で、株価は1,000円だとすると、PERは10倍です。
- D社:2,000円÷100円=PER20倍
- E社:1,000円÷100円=PER10倍
こうして比べてみると、同じ利益額に対して、D社のほうが高い株価がついていて、E社の株価は安いことがわかります。株の世界では「割高」「割安」という言い方をします。株価は数字だけでは判断できないので、「利益の割に高い」「利益の割に安い」という視点で評価するのです。
PERを使った評価をよりわかりやすくするために、M社のPERも見てみましょう。M社の株価は500円で、D社やE社よりも低くなっています。しかし、1株あたり利益は10円なので、PERは50倍。つまり、D社やE社よりも利益に対する株価は割高だということです。
- M社:500円÷10円=PER50倍
- D社:2,000円÷100円=PER20倍
- E社:1,000円÷100円=PER10倍
さらにU社とも比べてみます。株価は30,000円と一見高そうに思えますが、1株あたり利益が2,000円もあるため、PERはD社とE社の中間にあたる15倍です。M社はもちろんのこと、株価2,000円のD社よりも割安、つまりは「お買い得」ということになります。
- M社:500円÷10円=PER50倍
- D社:2,000円÷100円=PER20倍
- U社:30,000円÷2,000円=PER15倍
- E社:1,000円÷100円=PER10倍
このように、PERの数字が小さいほど株価が割安で、大きいほど株価が割高だという判断をすることができます。では、割高・割安の境界線はどのあたりなのかと言うと、「PER15〜20倍」が適正水準で、それより低ければ「割安」、高ければ「割高」、というのが一般的な目安とされています。
- PER20倍以上=割高
- PER15〜20倍=妥当(適正水準)
- PER15倍以下=割安
これが、株式投資において株価を判断する際の基本的な手がかりとなります。
では、これに冒頭で紹介した2社を当てはめてみましょう。ファーストリテイリング<9983>は
株価87,560円に対して1株あたり利益は1,616.05円(今期予想)なので、PERは54.18倍。それに対してランド<8918>は、株価10円で1株あたり利益が0.9円(前期実績)で、PERは11倍です。
- PER20倍以上=割高 ← ファーストリテイリング
- PER15〜20倍=妥当
- PER15倍以下=割安 ← ランド
このようにして、ファーストリテイリングは市場全体の中で見ても割高、ランドは割安、という判断をすることができるわけです。
ユニクロは本当に割高なのか?
ただし、これはあくまでもPER15〜20倍という適正水準に照らし合わせた評価であって、ファーストリテイリングとランドの比較ではありません。なぜなら、両社のビジネスはまったく領域が異なっているため、利益構造も違い、PERのベースとなるEPSを単純比較できないからです。
では、ファーストリテイリングが本当に割高なのかを知るにはどうすればいいかと言えば、それには同業他社と比較する必要があります。「後編」では、今をときめくワークマン<7564>にもご登場いただき、実際の銘柄選びに役立つPERの具体的な使い方を解説します。