「安い株」「高い株」はどう判断するべきか。PERでわかる本当に価値のある銘柄とは
《株で勝てる人と勝てない人は一体どこが違うのか? 実は、どちらにも「共通点」があります。30年以上の実績をもつファンドマネージャーが「一流の投資家」の条件を明かす【情熱の株式投資論】》
「その株に対して、いくらまで払えるか」
「株は売り時が難しい」とよく言われますが、安く買っていれば、売り時に悩むことは少なくなります。損切りする確率が下がるからです。結局のところ、高いときに買ってしまうから、利益を出すのが難しくなるのです。
ここで「バリュエーション」の登場です。「バリュエーション」とは、「その株に対して、いくらまで払えるか」という尺度を表したものです。
ところで、「あの株は安い」とか「あの株は高くて買えない」というのは、どういう「基準」で判断したらよいのでしょうか。
高い年俸を払ってもよい選手とは?
話をわかりやすくするために、ここで、話題を少し変えます。仮に、あなたがプロ野球の球団のオーナーだとします。あなたが高い年俸を払ってもよい選手とはどんな選手ですか? あなたはどんな基準で年俸を決めますか?
【問題その1】
Aという選手の過去3年間の打率はそれぞれ、2割6分、2割8分、そして、3割でした。平均で2割8分です。一方、Bという選手の過去3年間の打率はそれぞれ、2割8分、3割、そして、3割2分でした。平均で3割です。
どちらの年俸が高くなりますか?
- A選手:.260→.280→.300(平均.280)
- B選手:.280→.300→.320(平均.300)
[解答]
他の条件が同じであれば、B選手の年棒が高くなります。これはわかりますよね。B選手の平均の打率が高いですから。
【問題その2】
Cという選手の過去3年間の打率がそれぞれ、2割5分、3割5分、そして、3割でした。平均で3割です。これに対して、Dという選手の過去3年間の打率はそれぞれ2割9分、3割1分、そして、3割でした。平均で3割です。
どちらの年俸が高くなりますか?
- C選手:.250→.350→.300(平均.300)
- D選手:.290→.310→.300(平均.300)
[解答]
他の条件が同じであれば、D選手の年俸のほうが高くなります。両選手とも過去3年間の平均打率は3割で差がありません。では、どこが違うのでしょうか?
それは「安定性」です。C選手は打率に大きな波があるのに対して、D選手は過去3年間、安定して3割前後を出しています。D選手は、いわゆる「計算できる選手」と言えます。
こうして見ると、「安定」して「高い」打率を残した選手の年俸は高くなることがわかります。株の世界もこれと同じです。どんな株だったら、高いお金、つまり高いバリュエーションの価値があるかを考えてみましょう。
PERでバリュエーションを考える
バリュエーションの手法にはいろいろなものがありますが、今回は最もわかりやすい株価収益率(PER)を使って説明したいと思います。具体的には、「妥当なPERの水準」を見つける手がかりを考えます。
- PER=株価÷1株あたり利益(EPS)
まず、企業のEPSの成長率が高ければ高いほど、PERは高くなります。野球でいう打率ですね。したがって、高成長銘柄のPERは高くなります。
また、EPSの変動が少なければ少ないほど、PERは高くなります。
収益の変動を起こさせる要因として大きなものは景気です。そのため、景気の影響を比較的受けにくい生活必需品や医薬品のPERは高くなる傾向にあります。一方、景気の変動の影響を受けやすい素材、エネルギー、自動車、小売りなどのPERは低くなる傾向にあります。
さらに、財務リスクにしろ、ビジネスリスクにしろ、リスクの高い企業のPERは低くなる傾向にあります。上で述べた「安定性」とも深く関係しています。つまり、リスクが低いから、収益が安定するのです。
財務リスクとは「借り入れ」への依存度を示したものです。借り入れが多くなればなるほど、リスクが高くなり、PERは低くなる傾向にあります。それに対してビジネスリスクは「固定費」への依存度を示したもので、航空業界のように多額の設備投資が求められる企業のPERは低くなる傾向にあります。
成長率か? それともリスクか?
では、EPSの成長率とリスクでは、どちらがより重要なのでしょうか。
結論から言います。重要なのは成長率です。成長率が高い企業は投資家から敬意を払われます。
サッカーの試合を考えていただければわかるように、点を取るのは、点を取られないようにすることよりもはるかに難しいことです。点を取られたくなければ、全員がゴール前に集まってディフェンスだけをしていればいいのですから。
企業にとっても、成長をあきらめてリスクを下げるだけであれば、そんなに大変ではありません。設備投資はやめて、借金を返して、ビジネスを縮小すれば、リスクは下がります。
反対に、成長するのは難しいことなのです。毎年ハードルが上げられていくわけですから、「成長し続ける」ことはとても大変なことです。だからこそ、成長し続けている企業には価値があると言えるのです。
相対バリュエーションと絶対バリュエーション
バリュエーションには「相対バリュエーション」と「絶対バリュエーション」があります。
「相対バリュエーション」とは、PERやPBR(株価純資産倍率)、PSR(株価売上高倍率)などで、現在の株価と現在、あるいは将来の収益力、簿価、売上などを比べて、割安か割高かを判断するものです。
- PER=株価÷1株あたり利益(EPS)
- PBR=株価÷1株あたり純資産(BPS)
- PSR=時価総額÷売上高
一方、「絶対バリュエーション」は、お金の時間価値を考慮し、将来のキャッシュフローを割引率で割り引いて理論株価を算出するものです。そして、算出された理論株価と現在の株価を比べて、割安か割高かを判断するのです。
絶対バリュエーションは理論としては優れていて洗練されていますが、現実問題として、将来のキャッシュフローの予測、適切な割引率の算出は難しい作業になります。ですから、私自身はもっぱら「相対バリュエーション」、とりわけPERに頼っているというわけです。
PER、PBR、PSRそれぞれの長所と短所を比較してみましょう。
(1)PERの長所と短所
長所
- 株価を決める最も大事な要因である「企業の収益力」を使って株価を評価している
- 投資家の間で最も広く使われ、理解しやすい概念
短所
- EPSがマイナスの場合には使えない
- 収益(EPS)の数字には経営者の恣意が働きやすい
- 収益の変動が大きく、PERが高いときが買いで、PERが低いときが売りであるため、市況関連企業を評価するには適さない
(2)PBRの長所と短所
長所
- EPSがマイナスのときでも、簿価は通常プラスの数字であるので、赤字企業を評価できる
- 金融機関のように「流動資産」が多い企業を評価するのに適している
短所
- 簿価は収益力を表すものではない
- インフレや技術革新を反映した時価と簿価の間に乖離がある
(3)PSRの長所と短所
長所
- 売上高は収益や簿価以上に経営者の恣意が働かない
- EPSがマイナスのときでも、赤字企業を評価できる
短所
- 支出に対する考慮をしていないため、コスト構造が見えない
バリュエーションは単純な尺度ではない
バリュエーションは、「高い株は避けて、安い株を買う」というような単純な尺度として使うものではありません。たとえ高いバリュエーションであっても、高成長で魅力的な銘柄であれば、当然、投資対象になりうるのです。
一方で、永遠に高成長を続けることを想定するのは非現実的ですから、いつかはバリュエーションの修正が起こることを前提に、企業を観察し続けることが大切になってきます。