バリュエーションを活用すれば、株式市場の「勘違い」を見抜けるようになる

石津大希
2020年12月14日 8時00分

《株式投資に関するニュースや記事などでよく見かける「バリュエーション」という言葉。一応わかっているつもり、でも実は、よくわかっていない……という人は多いのではないでしょうか? これを理解していれば、株式市場の動きに惑わされないようになるそうです》

バリュエーションとは?

株式投資の世界には非常に重要な前提がある。それは「平均的なリターン成長性とリスクを持つ企業は、1株あたり利益の14~16倍の株価が妥当とみられる」ということだ。

簡単に説明すると、こうなる。

  • 今期の1株あたりの予想利益:100円
  • リターン(利益)の成長性:平均的
  • リターンのブレ(リスク):平均的
    →妥当な株価:1,400~1,600円(=利益の14~16倍)

この、利益の何倍の株価がついているかを表すのが「株価収益率(Price Earnings Ratio=PER)」で、具体的には、株価を1株あたり利益(EPS)で割って算出する。だから、1株あたり利益が100円で株価が1,400〜1,600円なら「PER14〜16倍」になる。

「利益の14~16倍の株価がついている」ということは、裏を返せば「株式市場はその株(企業)に対して年間6~7%のリターンを期待している」ということでもある(1株あたり利益の100円を株価の1,400~1,600円で割ると0.06〜0.07円)。

このように、企業の成長性やリスクを踏まえて企業を評価し、妥当な株価やPERを考えることを「バリュエーション」という。スペルは「valuation」で、つまりは「価値を評価する」ということだ。

なぜ、株式投資でリターンを得られるのか?

バリュエーションを考える前提となる「リターン」と「リスク」について補足しておきたい。

株式投資を始めた理由として、きっと多くの人が「資産を増やすため」と答えるだろう。では、なぜ株式投資をすると資産が増えるのか。株式を持つことで資産が増えるパターンは2つある。

  • 配当金もしくは株主優待をもらう
  • 株価が上昇する

例えば、発行株式数が10株の企業が100万円の利益を出した場合、1株あたりの利益は10万円(100万円÷10株)だ。この10万円が、配当金や株価上昇という形で株主資産の増加につながる。つまり、「リターン」だ。

したがって、株主の資産が増えるには「1株あたりの利益(Earnings Per Share=EPS)」が大切になる。

ここで「毎年100円の利益を生む企業」と「100円の利益が毎年10%ずつ増えていく企業」があったとして、それぞれいくらまでなら株式を買いたいと思うだろうか? おそらく、後者のほうがより多くの金額を支払ってもいいと思えるはずだ。これは「リターンとその成長性に注目する」ためだと言える。

「リスクはリターンの源泉」とは

しかし、企業は同じ額の利益を安定して出せるわけではない。100円の年があったり、200円の年があったり、あるいは赤字の年があったりする。それが、投資家にとっての「リスク」だ。投資の世界では、「リスク」は将来の儲けが不確実であることを意味する。

次のような2つの株式があるとする。

  • 毎年確実に100円がもらえる株式
  • 毎年50%の確率で200円がもらえ、50%の確率で何ももらえない株式

この2つは、どちらもリターンの期待値は同じ(1年につき100円)だ。だが、前者は毎年必ず100円もらえるのに対して、後者は200円もらえる年がある一方で0円の年もある。そのため、前者よりも「ハイリスク」ということになる。

投資の世界ではより安定しているほう(つまり、ローリスクなほう)に高い値段がつく。つまり、リスクというのは嫌われるものであり、リスクがあるのならばその分リターンも高くないと割に合わないというわけだ。このことを「リスクはリターンの源泉」と表現することもある。

「買うべき株式」の選び方

ではここで、下のような3つの株式があったとき、どれに投資するのが最良の選択肢だろうか? いずれも1株あたり利益は同じだが、その他の条件が少しずつ異なっている。

【株式A】
  • 1株あたり利益:100円
  • 利益の成長性:平均的
  • リスク:平均的
  • 株価:2,500円
【株式B】
  • 1株あたり利益:100円
  • 利益の成長性:平均以上
  • リスク:平均的
  • 株価:1,500円
【株式C】
  • 1株あたり利益:100円
  • 利益の成長性:平均的
  • リスク:平均以上
  • 株価:1,500円

実際にこのような3つの選択肢があったとき、最終的にどれを選ぶかの判断は人によるが、バリュエーションの観点からいえばBがベストチョイスだ。なぜなら、リスクが平均的で成長性は平均以上なのに、1,500円という平均的な株価がついているからだ。

それに対して、Aはリターン・リスクともに平均的な株式なのにBよりも高い株価がついており、CはハイリスクなのにBと同じ株価になっている。

何か買い物をするときには、品物の「妥当な値段」をイメージするのではないだろうか。そして値札を見て、自分のイメージと比べて「思ったよりも高い/安い」と思うだろう。

株式投資の場合、ここでバリュエーションが生きてくる。バリュエーションから妥当とされる株価と実際の株価(値札)を見比べて「割高/割安」を判断できるのだ。そして、株式投資では「割安を買い、割高を売る」のが原則だ。

株式市場の「勘違い」とは

ところで、「平均的なリターン成長性とリスクを持つ企業は、1株あたり利益の14~16倍の株価が妥当」というのが株式市場の前提なのにもかかわらず、なぜ上記のAやCはそうなっていないのか。それは、株式市場が「勘違い」しているからと言うことができる。

実際のところ、日本には上場企業が3,700社以上あるが、株価が常に妥当な水準になっていることはない。「成長性やリスクを考えれば株価は1,000円くらいが妥当だが、実際は500円(あるいは2,000円)になっている」といったことはよくある。

・ペッパーフードサービス<3053>

「いきなり!ステーキ」を運営するペッパーフードサービス<3053>は、ステーキ店ブームを背景に店舗数を増やし、業績を拡大させた。株式市場もその動きを高く評価し、2017年1月時点で600円ほどだった株価は、10月30日には8,230円の上場来高値をつけた。このときのPERは、なんと135倍。

しかしその後、ステーキ店の売上が軟調となって株価は急落。2020年12月現在は300円前後で推移している。

株式市場が、「いきなり!ステーキ」の人気がそのまま続き、店舗数もどんどん増えていくと想定(期待)したことで、一時135倍というPERをつけたが、結果的にそれは勘違いだったということだ。実際はブームが収まるとともに客足は遠のき、店舗拡大どころか大量の閉店をせざるを得なくなった。

ただし、PER135倍だから勘違いだった、ということではない。

PERに関しては「PERが20倍を超えたら割高」「PERが10倍以下なら割安」といった一律的な説明がされることが多いが、現実には株式それぞれに妥当な株価があり、成長性やリスクを考えればPERが20倍でも割安な株もあるし、10倍でも割高な株もある。時には100倍超えでも妥当かもしれない。

だが、たとえそうであったとしても、決して未来型とは言えない外食産業で、そのブームが本当に今後もずっと続くのか、仮に続いたとしても、果たしてPER135倍は妥当なのだろうかと、株式市場の評価に対して疑いの目を持つことができた投資家は、手痛い損失を喰らわずに済んだだろう。

自分の目で、自分なりの評価を

一体いくらくらいが妥当で、現在の株価は割高なのか割安なのかを判断するには、PERの数字だけではわからない。やはり事業内容や業績、成長性やリスクなどの中身を自分の目で知ることが大切だ。

それによって頭の中に「妥当な株価(またはPER)」の目安を持てば、どんな株価がついていようとも冷静に評価できるようになるのではないだろうか。

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[執筆者]石津大希
石津大希
[いしづ・だいき]外資系投資顧問会社で株式アナリストとして勤務したのち独立。ファンダメンタルズ分析の経験を生かして、客観的データや事実に基づく内容を積極的に発信。市場で注目度の高いトピックを取り上げ、深く、そして、わかりやすく説明することを心がける。
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