アメリカ株は上がっている? ダウ平均株価を円建てにすると意外な事実が見えてきた

山下耕太郎
2022年5月25日 17時30分

Warakorn/Adobe Stock

アメリカ株を円建てで見る

普段からアメリカの株式市場にも注目している人は多いでしょう。なかでもアメリカ市場を代表する株価指数であるダウ平均株価は、ニュースなどでも必ず紹介される重要な指標です。

ダウ平均株価は通常、米ドル建てで表現されますが、これを日本円に換算(ダウ平均株価×ドル円レート)してみたことはあるでしょうか? たとえばダウ平均株価が30,000ドルで、その日のドル円レートが1ドル=100円だったとしたら、円建てのダウ平均株価は3,000,000円(300万円)ということです。

この円建て換算で、2021年12月終値と直近(2022年4月終値)のダウ平均株価を比べてみます。

ダウ平均株価は2022年の年初来で9.25%の下落(4月末時点)となっていますが、円建てにすると7.54%のプラスとなっていることがわかります。急速に進んだ円安がアメリカの株安を相殺しているのです。

米ドル建てと円建てを比べると、現在のアメリカの株価指数のパフォーマンスには15ポイント以上の差が生じていることになります。この差は必ずしも為替によるものばかりではありませんが、最近の急激な円安がリターンを大きく押し上げていることは間違いありません。

日本からアメリカ株に投資している場合、たとえ保有株の株価(米ドル建て)が下落していても、実は円建てで見たらプラスリターンになっている、という可能性もあるのです。 

円安はどこまで進むのか?

28日の東京外国為替市場ではドル買い・円売りが進行し、一時は1ドル=131円台をつけて、2002年4月以来、約20年ぶりとなる円安水準に達しました。アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は3月に利上げを開始しましたが、一方の日銀は、いまだ金利を抑圧する姿勢を強めているからです。

さらに、5月のFOMC(連邦公開市場委員会)でも0.5%の大幅利上げと量的引き締めが決定され、日米の金利差は広がっています。この金利差を考えると、今後も円安・ドル高のトレンドが継続する可能性が高いと考えられます。

日本では「円安」という側面ばかりが注目されますが、米ドルは日本円だけでなく、主要通貨全体に対して強くなっています。主要通貨に対する米ドルの強さを示す「ドル指数(実効為替レート)」は、4月28日に104近辺まで上昇して、200212月以来の高さとなりました。

ウクライナ情勢の緊迫化や中国における新型コロナウイルスの感染拡大で世界景気の不安が高まり、「安全通貨」とされる米ドルが強くなっているのです。 

当然、米ドルはユーロに対しても強くなっています。FRBは3月に利上げを開始しましたが、欧州中央銀行(ECB)はまだ利上げをしていないからです。

FRBの急速な金融引き締めがアメリカ景気に悪影響を与えるという見方はあるものの、世界経済の不確実性が高まっている現状を鑑みると、米ドルが安全通貨として買われ続ける可能性は高いでしょう。

日経平均株価をドル建てで見る

円安・ドル高が進んでいるため、円建てで見たアメリカ株式市場(ダウ平均株価やS&P500種株価指数など)は堅調ですが、その一方で、「ドル建て」にした日経平均株価は大きく下落しています。

通常の日経平均株価はもちろん円建て表示ですが、ドル建ての計算方法はいたってシンプルで、日経平均株価が30,000円でドル円レートが1ドル=100円なら、ドル建て日経平均株価は300ドル(日経平均株価÷ドル円レート)となります。 

先ほどのダウ平均株価と同じように、昨年末の終値と4月の終値を比較してみましょう。2022年になってからの日経平均株価は、円建てで見ると6.75%の下落ですが、ドル建てにすると21%もの下落になっているのです。

日経平均株価が一定であると仮定すると、ドル円レートが円高になればドル建て日経平均株価は上昇し、ドル円レートが円安になればドル建て日経平均株価は下落します。

日本株に投資している外国人投資家の多くは、ドルで運用しています。そのため、ドル建て日経平均株価の動きは、日本の株式市場で大きな存在感を示している外国人投資家の運用状況や動向を示す指標といえるのです。 

なお、米ドル建て及びユーロ建ての日経平均株価は「日経プロフィル」のサイトで確認することができます。

日本株がグローバル指数から外される日

MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)が算出する「MSCIグローバル・スタンダード指数」は、国際的な投資指標として広く活用されている株価指数です。その構成銘柄は3か月ごとに見直されますが、なかでも月と11月は大きな見直しが行われることで知られています。

株価が下がって時価総額が減った銘柄が除外されるわけですが、今年5月の見直しでは、日本株のうち実に22銘柄の除外が決まり、新規採用はゼロ。除外超過数は世界最多となりました。

MSCIは銘柄評価の際に「米ドル換算」します。日本株は、円建てで見ると他国に比べて下落幅はさほど大きくないものの、円安の影響によって米ドル建てでは20%を超える大きな下落となっているため、指数から除外される銘柄が増えたのです。

「グローバル・スタンダード指数」から除外されると、インデックスファンドの投資対象から外れることになり、売り圧力の要因となります。日経平均株価が今後持ち直したとしても、このまま円安が続くようであれば米ドル建てでは下落が続くことになり、さらなる日本株の地位低下を招く恐れもあります。

ダウ平均株価にせよ日経平均株価にせよ、別の通貨に換算してみると違った景色が見えてきます。日本人投資家にとってのアメリカ市場はどうなのか。日本市場に参加する外国人投資家には日本株はどのように見えているのか。時にはそんな視点でマーケットを見てみることも大切でしょう。

[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
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