終値はもう重要ではない。逆張りのテクニカル指標があてにならなくなった2つの理由(1)

伊藤智洋
2022年6月17日 14時30分

realstock1/Adobe Stock

《テクニカル分析で勝ち続けるには、結局のところ何が必要なのか? 20年以上にわたって値動きと向き合い続けるテクニカルアナリストが、その本質について考え直す【テクニカル分析・再考】》

逆張りのテクニカル指標があてにならない理由

今回は、「逆張りのテクニカル指標」があてにならなくなったことについて書いてみたいと思います。

ここで対象にするのは「テクニカル分析の当てはまりのいい銘柄」です。具体的には、指数関連銘柄や先物、為替、CFD等が中心となります(「テクニカル分析の当てはまりのいい銘柄」について詳しくは過去の記事をご参照ください)。

さて、逆張りのテクニカル指標があてにならなくなった要因は、2つあります。1つ目は、取引時間が長くなったことで、2つ目は、高速取引が増えたことです。

取引時間が長くなり、終値が重要でなくなった

株価指数先物取引は、大阪取引所で1988年に開始されました。

最初の取引時間は、日中の9時〜11時、12時30分〜15時10分でスタートしています。2007年には、株価指数先物のイブニング・セッションが開始されました。日中の取引が終了した後、16時30分〜19時の時間帯でスタートし、2008年に取引時間が20時まで延長されています。

その後、2010年に23時30分まで延長され、2011年7月にナイト・セッションという名前となって3時まで延長。2016年には、日中取引の開始時間が8時45分となって、ナイト・セッションは5時30分まで延長されます。

現在は、225先物/オプションの日中の立会時間は8時45分〜15時15分、夜間の立会時間が16時30分〜翌日6時となっています。日中の終値から夜間の始値までの取引できない時間帯が1時間15分しかなくなり、ダウ平均株価の立会が終了するまで、225先物の取引が可能となっています。

このことで、プライム市場(旧・東証1部)に上場している銘柄の中でも市場全体の値動きの指標となっているような銘柄では、終値の重要度が薄れていると考えられます。

ナイト・セッションが可能にしたこと

市場全体の指標になっている銘柄に、短期で利益を得ることを目的として買いを入れているとします。

その晩のアメリカ市場の動向によって、翌日の市場全体が弱気に推移する可能性がある場合、2010年以前であれば日中の終値で手仕舞いして、アメリカ市場の動向を見極めてから、翌日また仕掛け直すことを考えていました。

しかし2010年以降は、そのまま買いを維持して、アメリカ市場が実際に弱気の流れを作る可能性のある状況へ入ったら、ナイト・セッションで225先物の売りを仕掛けることで市場全体の弱さにも対応することができます。

翌日の市場全体が弱くなっても、自分が持っている銘柄が下値堅いなら持株を維持して、再度上昇を開始する場面で全体として大きな利益を得ることができるのです。

こうした取引が可能になったことで、2011年にナイト・セッションが3時まで延長された時点で、市場全体の指標になっている銘柄とそうでない銘柄には、値動きに違いがあらわれているという見方ができます。

終値に込められる「思い」は薄まった

テクニカル指標として広く使われているものに、オシレーター系の指標があります。

オシレーターとは「振り子」「振り幅」といった意味で、オシレーター系指標は「相場の行き過ぎ(買われ過ぎ・売られ過ぎ)」を示すテクニカル指標の総称として使われています。代表的な指標としては「RSI」や「ストキャスティクス」などがあります。

これらオシレーター系指標の多くは、終値を使って「相場の行き過ぎ」を見ています。

例えば、特別な材料が入った日や、明確な状況の変化がチャートにあらわれているような場合、その日の終値というのは、場が終わってからの取引できない時間帯のリスクを考慮した手仕舞いや新規の取引が一斉に入ることで値が作られます。

相場の行き過ぎは、慌てて取引を実行せざる得ない状況であらわれる現象です。手仕舞いするほかに選択肢がないなら、引け間際に慌てて手仕舞いを考えるでしょう。そうした取引が殺到した結果として、指標が「行き過ぎ」を示すわけです。

しかし、取引できない時間がほとんどなくなったことで、海外市場の動向を確認してから、それに対応する取引を実行できるのであれば、慌てて取引を考える必要などなくなります。冷静さを保てるなら、判断の基準も変わるでしょう。

つまり、取引時間の終了はもはや市場参加者を慌てさせる材料にならなくなった、ということです。そのため終値を使った計算は、以前よりも、市場参加者の思いが薄まった結果になっていると考えられます。

オシレーター系指標はもう目安にならない?

オシレーター系指標が、逆張りのテクニカル指標としてあてにならなくなったことは、AIによる高速取引が増加したことで起きていることからも、よくわかります。不安や恐怖を抱くことのないAIが、逆張り投資家の思惑を狙い撃ちして利益をさらってしまうのです。

そのことについては次回、具体的な取引例を挙げながら解説します。取引時間が長くなり、取引できない時間帯のリスクが減ったことに加えて、AIの高速取引が相場の有り様を変えてしまっている現実をお伝えできればと思います。

[執筆者]伊藤智洋
伊藤智洋
[いとう・としひろ]証券会社、商品先物調査会社のテクニカルアナリストを経て、1996年に投資情報サービスを設立。20年以上、毎日の値動きを見続け、相場予測についての記事を執筆。『株価チャートの実戦心理学』『ローソク足チャート 究極の読み方・使い方』『テクニカル指標の読み方・使い方』『勝ち続ける投資家になるための株価予測の技術』など著書多数。現在は、自身が運営する「パワー・トレンド」でも、先物市場や仮想通貨などの情報を動画等で配信中。
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