3倍の初値も久々に出た! しかしマザーズ指数は有終の美を飾れず、苦戦は続く【IPO通信簿】
《「確実に儲かる」として個人投資家に人気のIPO株投資。しかし近年、そんな「夢の時代」にも陰りが……。IPOで上がる株と下がる株は何が違うのかをデータから読み解きます》
11月6日からの新指数のスタートにより、その役目を終える東証マザーズ指数。しかし、10月は4か月連続の下落となり、有終の美を飾ることができませんでした。新興市場の苦戦が続く中で、12銘柄がIPOを果たした10月のIPO市場を振り返ります。
役割を終えたマザーズ指数
10月は日米ともに主要株価指数が下落しました。新興市場の動向を示す東証マザーズ指数も同様に下落しており、月足で見ると7月から4か月連続の下落となりました。さらには、10月の下落幅は7~9月に比べると大きくなりました。
10月の下落の結果、マザーズ指数は2022年6月の安値水準に至り、もう一段の下落があると安値を更新することになります。11月に入って反発を見せるか、それとも、さらにに下落が加速するか、年末相場に向けてマザーズ指数の行方が注目されるところですが……。
そんなマザーズ指数は、11月6日から「東証グロース市場250指数」に変わります。マザーズ市場自体はすでに存在しておらず、実体に合わせて指数の内容も変わるため、今後これまでのマザーズ指数との比較は参考情報となります。
11月からの指数の変化を機会に、新興市場の上昇を期待したいところです。
2023年10月IPOランキング
9月に10銘柄のIPOが行われ、年間のIPOの後半戦がスタートしました。そして10月は、12銘柄のIPOが行われました。昨年の9銘柄に比べて3銘柄増えており、マザーズ指数の下落はあったものの、IPO件数は堅調な推移を見せています。
10月にIPOを果たした12銘柄について、公開価格に対して初値がどれだけ上昇(あるいは下落)したかを表す「初値騰落率」のランキングを見てみましょう。
公開価格に対して初値が2倍以上になる「初値騰落率100%超え」は1銘柄だけ出ています。とはいえ、8~9月は0銘柄でしたので、回復を見せたと言えます。
一方、初値が公開価格を下回る公募割れが5銘柄発生しており、公募割れ比率は約4割です。公募割れ比率は7月は約4割、8~9月は約3割、そして10月が約4割という推移を見せており、マザーズ指数の低迷とともに、高水準で公募割れ銘柄が発生しています。
10月の初値騰落率も苦戦が続きました。
10月に話題を集めたIPO銘柄
10月は、IPO市場で人気のAI銘柄のIPOはありませんでした。その中で話題となったのは、旧・日立グループの半導体製造装置メーカー大手・KOKUSAI ELECTRIC<6525>のIPOです。また7月以来の初値騰落率200%超え銘柄としてキャスター<9331>が登場しています。
ファンド子会社だが堅調な株価形成に
・KOKUSAI ELECTRIC<6525>
10月25日上場/東証プライム市場/公開価格1840円
→初値2116円/初値騰落率15%
KOKUSAI ELECTRIC<6525>は、2018年に上場が廃止された半導体製造装置メーカー大手の旧・日立国際電気であり、再上場案件です。IPO時点で約7割の株式をファンドが保有する、筆頭株主となっています。
過去の業績と今季の業績予想は以下のとおり。
- 2021年3月期:売上収益1780億円、営業利益600億円、当期利益330億円
- 2022年3月期:売上収益2454億円、営業利益706億円、当期利益513億円
- 2023年3月期:売上収益2457億円、営業利益560億円、当期利益403億円
- 2024年3月期(予想):売上収益1800億円、営業利益291億円、当期利益202億円
業績は2022年3月期がピークで、今期(2024年3月期)は前期比で利益がほぼ半減する予想です。また、ファンドが筆頭株主であり、公募はなく全株が売出によるIPOでした。
旧・日立グループの企業で半導体製造装置メーカー大手という投資家受けする銘柄の一方で、業績及び株主状況は向かい風の中でのIPOとなりました。
結果は、初値騰落率15%(公開価格1840円→初値2116円)で、まずまずの着地となりました。主幹事証券の野村証券をはじめ幹事証券会社を総合証券にしぼり、海外中心の売出を行ったことが功を奏する形となっています。ただし初値の時価総額は4875億円に留まり、5000億円に一歩届きませんでした。
なお、IPO後も株価は上昇が続き、11月17日の終値は3140円。ファンドが筆頭株主のIPO案件ながら、IPO後も堅調な株価形成がなされています。
時価総額を抑制して初値騰落率200%超え
・キャスター<9331>
10月4日上場/東証グロース市場/公開価格760円
→初値2319円/初値騰落率205%
キャスターは中小企業とリモートワーカーのマッチングによるバックオフィス業務代行などを行う、本社を宮崎県西都市に置く企業です。
過去の業績と今季の業績予想は以下のとおり。
- 2020年8月期:売上高14億円、経常利益▲1.9億円、当期純利益▲2.6億円
- 2021年8月期:売上高22億円、経常利益▲3.5億円、当期純利益▲3.3億円
- 2022年8月期:売上高33億円、経常利益▲1.6億円、当期純利益▲1.4億円
- 2023年8月期(予想):売上高41億円、経常利益0.1億円、当期純利益0億円
2019年8月期から増収が続いており、2022年8月期には売上高30億円を突破し、2023年8月期は売上高40億円の突破が予想されています。しかし、2018年8月期から赤字が継続中です。2023年8月期は収支均衡が予想されており、収支均衡のタイミングでIPOが行われる形となした。
ファンド子会社ではないものの、筆頭株主はVCファンドであり、VC比率は6割を超えています。
IPOの結果は、公開価格760円に対し初値2319円となり、初値騰落率は205%です。公開価格に対し約3倍の初値でIPOに成功しました。
リモートワーク関連というIPO的には良好な業種的立ち位置にあり、公開時の時価総額約15億円という低い時価総額(初値の時価総額44億円)の設定もあり、初値は公開価格を大きく上回りました。
ただしIPO後の株価は下落傾向にあり、11月17日の終値は1435円で初値を割れています。まだ公開価格の約2倍の株価は維持しているものの、初値天井に近い状態です。
IPO後、10月12日に発表した2024年8月期予想決算は売上高47億円、経常利益1.0億円であり、株価がどのように業績を織り込んでいくかが注目されます。なお、VC比率が高いため、今後のロックアップ解消のタイミング及びその後の株価動向には注意が必要です。
新たな指数がスタートするもIPO市場は小休止
例年12月のIPOのピーク時期を前に、11月は一旦IPOが小休止となります。2023年も11月は3件のIPOに留まる予定です。
しかしながら、マザーズ指数が廃止され、東証グロース市場250指数がスタートします。低迷が続く新興市場ですが、東証グロース市場250指数の幸先良いスタートを期待しながら、12月のIPO本格化を待ちたいと思います。