不動産、エネルギー、金融… 日経平均株価の史上最高値を牽引した銘柄たち【3月の高値更新】
《株価の新高値は、銘柄にとっての「自己ベスト」。それは〝伸びしろ〟の表れと言えるのかもしれません。最近ベストを更新して伸びしろを見せているのは、どんな銘柄か。直近で高値をつけた銘柄から、相場の流れを読み解きます》
史上最高値を牽引したのは?
3月の日経平均株価は昨年からの上昇が一服し、利食い売りに押される場面もありました。
しかしながら、買い遅れた投資家による「押し目買い」の意欲は強く、高値圏で推移しました。中旬の日銀の金融政策決定会合や米FOMC(連邦公開市場委員会)といった注目イベントを無事通過し、安心感が広がったこともあり、22日には41,087円の史上最高値(場中)を付けました。
前月末に比べて1203円高となり、3か月連続で1000円以上の続伸を見せる強い展開でしたが、この相場の牽引役となっているのは、どのような銘柄か。3月に高値更新した銘柄の共通点を探りながら、あわせて新安値をつけた銘柄についても取り上げ、相場の空気を読み解いていきます。
・高値更新とは?
相場解説などで頻繁に使われる「高値更新」とは、読んで字のごとく、ある期間内の高値を更新したという意味です。ここに「昨年来」「年初来」「上場来」など期間を表す言葉が添えられて、「年初来高値を更新」などと言われます。また、新たに付いた高値を「新高値」と呼びます。
【株価の高値更新】
- 上場来高値……株式市場に上場して以来の高値。買い方の強い物色が株価に現れているといえる
- 昨年来高値……1〜3月に使われ、前年の1月1日から直近までの期間が対象
- 年初来高値……4月以降に使われ、その年の1月1日から直近までの期間が対象
月末に不動産株の高値更新ラッシュ
3月相場で上昇が目立ったのは、不動産株です。
19日、日銀が金融政策決定会合でマイナス金利政策の解除を決定しました。負債比率が高く、一般的に金利の上昇に弱いとされる不動産株は、2023年は出遅れていましたが、このマイナス金利解除の前後でむしろ買われました。
26日に発表された全国の公示地価の伸び率がバブル期以来の伸びとなったことも、買い材料となりました。
3月の最終取引日となった29日は不動産株の新高値ラッシュとなり、大手の三井不動産<8801>と住友不動産<8830>が上場来高値を更新。三菱地所<8802>と東急不動産ホールディングス<3289>は昨年来高値を上回りました。
さらに、中小型の不動産株にも物色が広がり、いちご<2337>、野村不動産ホールディングス<3231>やサムティ<3244>なども新高値をつけています。
エネルギー価格上昇で資源株が買われる
エネルギー関連株の上昇も目立ちました。
OPEC(石油輸出国機構)などによる減産の動き、ウクライナによるロシア製油所への攻撃などを受け、国際的な指標であるWTI原油先物価格は80ドルを超えて、値上がりが続いています。
11月のアメリカ大統領選挙を巡る思惑も、エネルギー関連株の買いにつながっています。
バイデン大統領は再生エネルギーを志向していますが、トランプ元大統領は再生エネルギーから化石燃料へのシフトを公言しています。3月初旬のスーパーチューズデー(各州の予備選が集中する日)を通過し、共和党の候補者にトランプ氏の指名が確実となったことも材料のひとつとなったもようです。
エネルギー大手のINPEX<1605>やコスモエネルギーホールディングス<5021>は29日に揃って昨年来高値を上回りました。出光興産<5021>は21日、ENEOSホールディングス<5020>は22日に昨年来高値をつけています。
また、石炭の日本コークス工業<3315>も8日に昨年来高値を上回りました。
マイナス金利解除で金融株が上昇
日銀の金融正常化で収益が拡大する金融株も、2月に続き3月も株価は堅調でした。
日銀がマイナス金利政策の解除を決定したのは19日ですが、実際には、事前の報道などで期待が高まっていたこともあり、それよりも10日以上前の8日には多くの銀行株が新高値をつけています。
メガバンクの三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306>、三井住友フィナンシャルグループ<8316>、みずほフィナンシャルグループ<8411>が8日に昨年来高値を更新。ただその後は、昨年末から値上がりしていたこともあり、マイナス金利解除決定後も高値圏でもみ合いの動きとなっています。
8日は地銀各社も新高値ラッシュとなりました。西日本フィナンシャルホールディングス<7189>、ふくおかフィナンシャルグループ<8354>、しずおかフィナンシャルグループ<5831>など地銀の多くが8日に昨年来高値を上回りました。
月の後半にかけては中堅の証券株の高値更新も相次ぎました。株式相場の活況や、円安進行で手数料収入の比率が大手に比べて相対的に高い点も、着目されたようです。また、一部の証券会社が株主還元強化で増配を発表したことも買いにつながりました。
25日には、東海東京フィナンシャル・ホールディングス<8616>や丸三証券<8613>、岩井コスモホールディングス<8707>のほか、最大手の野村ホールディングス<8604>も昨年来高値を更新しました。
金利上昇やデフレ脱却でその他の金融業にも買いが広がり、リース大手のみずほリース<8425>が上場来高値となりました。29日には消費者ローンのアイフル<8515>、クレジットサービスのイオンフィナンシャルサービス<8570>が揃って新高値をつけています。
個別物色で買われた銘柄は?
個別に目立った上昇を見せたのは、ソフト開発のソースネクスト<4344>です。
最近ではインバウンド(訪日外国人)の増加で携帯翻訳機「ポケトーク」の販売が伸びていましたが、8日、これを手がける子会社(ポケトーク株式会社)が2025年の株式上場を目指して準備を始めた、との報道が出ました。それを受けて株価は急伸、12日に昨年来高値を上回りました。
ただ、その後は材料出尽くしもあり、調整が入る展開となりました。
食品物流のC&Fロジホールディングス<9099>は、26日に上場来高値3160円をつけました。21日に、物流のAZ-COM丸和ホールディングス<9090>が1株3000円でTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表。株価はこのTOB価格にサヤ寄せする形で連日ストップ高となりました。
ゼネコン大手の大林組<1802>は25日に昨年来高値1950円をつけ、バブル期の1989年に記録した上場来高値1960円をうかがう動きとなりました。4日に配当方針を強化すると発表し、今期の配当予想を上方修正。その後、株価は上昇基調が続きました。
昨今では、資本効率の改善のため株主還元の強化を打ち出す企業が増えており、海外投資家による日本株買いの大きな材料のひとつとしても捉えられています。
3月に売られた株は?
26日、小林製薬<4967>が昨年来安値4700円をつけました。
もともと原材料価格の上昇やコロナ禍の反動で、株価は2020年末の13120円から下落トレンドが続いていました。そうした中、22日の取引終了後に機能性表示食品「紅麹コレステヘルプ」で腎疾患等が発生したとして自主回収を発表。さらに死亡例が確認されたこともあり、株価は急落しました。
ふるさと納税サイトやDX支援を行うチェンジホールディングス<3962>は、12日に年初来安値1071円をつけました。米アマゾンがふるさと納税事業に参入すると報道され、競争激化への懸念で売られました。DX関連銘柄として2020年に上場来高値6390円をつけて以降、株価は調整が続いています。
次の相場の主役を見つける
業種別で見ると、3月は海運株が弱い動きとなりました。
2023年の秋以降、中東の紅海で武装組織フーシ派による船舶の攻撃があり、海上輸送は混乱状態となっています。そのためコンテナ船の運賃が急騰していましたが、こうした動きが一服したことが要因です。
デンマークの海運大手APモラー・マースクが「運賃上昇の効果は2024年後半になくなる」との見通しを示したこともあり、日本郵船<9101>や商船三井<9104>など上昇していた海運株が売られる動きとなりました。
日経平均株価の動向に注目が集まる中、この先の相場ではどんな銘柄が活躍するのか? 引き続き、高値更新・安値更新の銘柄を中心にウォッチしながら、相場の潮目を探っていきましょう。