相場の牽引役は半導体だけじゃない 高値祭りの裏で新安値をつけた銘柄も【2月の高値更新】

佐々木達也
2024年3月5日 17時00分

株価の新高値は、銘柄にとっての「自己ベスト」。その記録を新たに更新することは、〝伸びしろ〟の表れかもしれません。直近で高値更新を果たした銘柄から、いまの相場の流れを読み解きます》

バブル期を超えた相場で

2月の日経平均株価は、2023年10~12月期の決算発表シーズンを通過し、企業により明暗が分かれたものの総じて好決算の企業が多かったことから、上昇基調が継続しました。値がさの半導体株などが買われる流れが続き、22日にバブル期につけた最高値39815円を超えました。

その後もバリュー株(割安株)や中小型株などに押し目買いが入り、堅調に推移しています。新NISAもスタートし、高配当利回り銘柄などを中心に、個人投資家の新規資金も今後ますます株式市場に流入することが期待されます。

日経平均株価が1月末比2879円高で終えるなど大幅な続伸を見せた強い相場展開の中で、相場の牽引役となっているのはどのような銘柄か? 2月に高値更新した銘柄の共通点を探りながら、あわせて新安値をつけた銘柄についても取り上げ、相場の空気を読み解いていきます。

・高値更新とは?

相場解説などで頻繁に使われる「高値更新」とは、読んで字のごとく、ある期間内の高値を更新したという意味です。ここに「昨年来」「年初来」「上場来」など期間を表す言葉が添えられて、「年初来高値を更新」などと言われます。また、新たに付いた高値を「新高値」と呼びます。

【株価の高値更新】
  • 上場来高値……株式市場に上場して以来の高値。買い方の強い物色が株価に現れているといえる
  • 昨年来高値……1〜3月に使われ、前年の1月1日から直近までの期間が対象
  • 年初来高値……4月以降に使われ、その年の1月1日から直近までの期間が対象

半導体祭りがやってきた

今の上昇相場の牽引役は、生成AIブームで業績拡大への期待が高まった半導体株です。1月から始まった10~12月期の決算発表でも、今年の半導体市況の回復への期待が高まりました。

特に16日は、様々な半導体関連株が新高値を更新しています。半導体洗浄装置のSCREENホールディングス<7735>、半導体の回路を描画する原板となるフォトマスク検査装置のレーザーテック<6920>、半導体成膜装置のKOKUSAI ELECTRIC<6525>などが、そろって上場来高値を更新しました。

製造装置大手の東京エレクトロン<8035>や検査装置のアドバンテスト<6857>も同様の値動きです。

高値更新後は、生成AIに不可欠な先端半導体を手がける米エヌビディア<NVDA>の決算発表が21日に予定されていたこともあり、それまでの上昇から一転して利益確定の売りが入りました。しかし、注目されたエヌビディアの決算は、ハードルの高かった市場予想を上回る良好な決算結果でした。

その後も、半導体切削装置のディスコ<6146>や搬送装置のローツェ<6323>、材料のシリコンウエハーを手がける信越化学工業<4063>なども新高値となっており、出遅れ銘柄を探す動きが続いています。

金融株の上昇にも勢い

2月相場では金融株も買いに弾みが付きました。19日にはSOMPOホールディングス<8630>と第一生命ホールディングス<8750>、MS&ADインシュアランスグループホールディングス<8725>がそれぞれ上場来高値を更新しています。

SOMPOは15日の決算発表にあわせて、損保ジャパンが保有している約1.3兆円の政策保有株(持ち合い株)を将来的にゼロにすると発表しました。

持ち合い株については、合理的な説明ができない場合は売却して設備投資や株主還元に回すようにと、機関投資家などからの圧力が年々高まっています。 金融庁も、こうした損害保険会社に対して、持ち合い株の削減計画を報告するよう求めていた経緯もあります。

SOMPOの発表を受けて保険会社各社の株が買われ、他の金融株にも持ち合い解消期待による買いが入りました。

その後、アメリカの堅調な経済指標やFOMC(連邦公開市場委員会)メンバーの発言などを受けて、早期利下げ観測が後退。日米で金利が上昇すると、三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306>や三井住友フィナンシャルグループ<8316>などのメガバンクに加え、千葉銀行<8331>、群馬銀行<8334>、七十七銀行<8341>といった地銀株も28日に軒並み新高値となりました。

バフェット効果、再び

著名投資家のウォーレン・バフェットが率いる投資会社バークシャー・ハサウェイは、株主に当てた年次の書簡で、投資している日本の商社の役員報酬はアメリカ企業に比べて「はるかに控えめだ」と評価しました。また、利益の大半が株主還元や自社株買い、事業投資に使われているとも述べています。

これを受けて26日、三菱商事<8058>、三井物産<8031>、住友商事<8053>などの大手商社株がそろって上場来高値を更新しました。

出遅れ内需株も高値更新

22日に日経平均株価が最高値を更新した後は、出遅れの内需株中小型株にも物色が広がっています。

なかでも鉄道株は、10~12月期の好決算が相次ぎました。新型コロナ禍からの反動による客数増やインバウンド効果に加えて、原油価格などの上昇が一服して電力をはじめとするコストが想定を下回り、増益要因となる鉄道会社が増えています。

JR東海<9022>は26日に3879円をつけ、昨年来高値を更新。主力の東海道新幹線が好調のほか、ネット予約・チケットレス乗車サービス「スマートEX」などの実質値上げ効果も追い風になっています。

JR九州<9042>は28日に昨年来高値の3478円を付けています。 鉄道運輸部門ではインバウンド向けのJR九州レールパスの値上げ効果や客数増がプラスに働いています。また、ホテル・スーパーといった宿泊・流通部門も好調です。

建設株も高値更新が相次ぎました。20日には西松建設<1820>と戸田建設<1860>などが、26日には鹿島<1812>や新日本建設<1879>なども昨年来高値更新です。

コロナ禍でストップしていた工事が再開したほか、コスト増の要因となっていた原材料高が一服していることも背景です。また、作業員などの時間外労働の規制を強化する2024年問題も、適正価格での受注につながるとの見方からプラス材料となっています。

2月の新安値銘柄

日経平均株価が史上最高値を更新する相場にあっても、安値を更新してしまった銘柄があります。特に業績が低迷する銘柄には、投資家からの見切り売りが続いています。

住友化学<4005>は15日に昨年来安値293.6円を更新しました。2日に今期(2024年3月期)の業績予想を下方修正。配当予想も減額したこともあり、下落基調に拍車が掛かりました。

主力の石油化学の市況は、中国の設備投資増強の影響で、さらに悪化しています。医薬品部門も不振が続いていることから、前期に続き今期も営業赤字が続く見通しです。

Chatwork<4448>も業績低迷で26日に445円の上場来安値を更新しました。主力のビジネスチャットサービスでは登録ID数や課金ID数などが伸び、値上げによるIDあたり平均収入も上昇してはいるのですが、それでもまだ営業黒字には至っておらず、物色の蚊帳の外となっているようです。

アウトドア用品のスノーピーク<7816>は、コロナで人気化したキャンプ需要が一巡し、在庫が積み上がり販売が低迷しました。円安によるコスト高や海外でのインフレによる消費者の買い控えもあり、14日に発表した2023年12月期決算は純利益が前期比99.9%減の100万円と大幅減益でした。

株価は14日に昨年来安値726円を付けましたが、その後、米ベインキャピタルと連携してMBO(経営陣による買収)を行うことが報じられ、株価は急騰します。TOB価格の1250円にサヤ寄せする形で連日のストップ高となり、短期間で乱高下する展開となりました。

相場の主役を見逃すな

日経平均株価の史上最高値に相場が沸いた2月。総じて大型のハイテク株が牽引する中で、下旬にかけては景気敏感のバリュー株や出遅れの中小型株が上昇し、全体として目立った銘柄の多い高値更新ならではの株式市場となりました。

日経平均株価はいよいよ4万円の世界へ。そうした相場では、どんな銘柄が活躍するのか。引き続き、高値更新・安値更新の銘柄を中心にウォッチしながら、相場の潮目を探っていきたいと思います。

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[執筆者]佐々木達也
佐々木達也
[ささき・たつや]金融機関で債券畑を経験後、証券アナリストとして株式の調査に携わる。市場動向や株式を中心としたリサーチやレポート執筆などを業務としている。ファイナンシャルプランナー資格も取得し、現在はライターとしても活動中。株式個別銘柄、市況など個人向けのテーマを中心にわかりやすさを心がけた記事を執筆。
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