いよいよ4万円のオアシスへ。絶望の日経平均株価から個人投資家がつかんだ教訓とは
《バブル期の記録を抜いて、ついに史上最高値を更新した日経平均株価。長年にわたり相場を見つめてきた執筆陣は、いま、何を思うのか──それぞれが見つめる、日経平均株価の未踏の地【特集・日経平均株価、次のステージへ】》
日経平均株価は2024年2月22日に、1989年に付けた過去最高値の38,915円を突破しました。
まさか自分が現役のうちに砂漠を抜け出せるとは──社会人をほぼマーケットと共に過ごした筆者が振り返る34年と、そこから得た教訓をお伝えします。
1989年はこんな年
「毎月毎月、なに買おうかって女房と話してる。頑張れば豊かになるっていうのが実感できるよ」
日経平均株価が最高値を更新した2月22日、ふと、34年前の深夜残業帰りに乗ったタクシーで運転士さんと交わした会話を思い出しました。
日経平均株価が(当時の)史上最高値を更新した1989年といえば、元号が昭和から平成に改められ、6月に中国で天安門事件が発生し、11月にはベルリンの壁が崩壊した年。
空前の「カネ余り」が生んだバブル景気に加えて、ベルリンの壁崩壊による冷戦終結で、「これで世界は平和になる!」 と日本全体がユーフォリア(多幸感)に包まれていました。「24時間戦えますか?」のキャッチコピーでおなじみの「リゲイン」(三共)のCMが始まったのも、この年です。
平成元年に証券会社に入社した筆者は生粋の「バブル世代」で、連日の深夜残業にもヘコたれず、〝W浅野〟を目指して服はブランド物、夜はディスコ、旅行はハワイへと、仕事も遊びもめいっぱいに生きていました。
誰もが明るい未来を信じて疑わない、そんな空気が流れていました。年末の有馬記念では血統で駄馬といわれたオグリキャップが、優勝こそイナリワンに譲ったものの、ひたむきな走りを見せて、その姿に猛烈サラリーマン(ウーマンも)は自身を投影して涙したものです。
こうした高揚感に包まれた中、日経平均株価は12月29日の大納会に最高値をつけました。しかしながら、そのわずか2か月後には大暴落。その後、34年も砂漠を彷徨うことになるのです。
砂漠は越えたけれど
証券界では、1989年の最高値38,915円は、「さ・ば・く・い・こー(砂漠へ行こう)」の語呂合わせで記憶されています。
2024年2月22日10時すぎ、日経平均株価はついに、その砂漠を抜け出しました。その瞬間、某社のディーリングルームではワッと歓声が起きたそう。筆者もまた同様で、社会人になってから34年もの間、ずーっと砂漠に住んでいたわけですから、感慨深いものがありました。
ただ、マーケットは盛り上がっているものの、世間ではバブル期のような高揚感には乏しく、あのタクシーの運転士さんが語った「豊かになる実感」といったものは一切湧かない……という人も多いのではないでしょうか。
それもそのはず、2023年10〜12月期の実質GDPは2期連続のマイナスでした。物価高や実質賃金の低下などによる個人消費の弱さが確認され、株高と生活実感には大きなズレが生じているからです。
それでも日経平均株価が史上最高値を更新できたのは、複数の要因が重なり合っています。
まずはアメリカ株の強さ。景気は引き続き好調で、ダウ平均株価は史上最高値を更新し続けています。そこへ生成AIブームが到来し、半導体大手エヌビディア<NVDA>の決算が起爆剤となって株価上昇に大きく拍車がかかりました。
円安も大きな理由です。米FRBの早期利下げが後退する一方で、日銀の緩和政策は続くとの見方(2月時点)から当面円安は続くと見られ、日本株の業績に期待が高まっています。
さらに、中国株の低迷から海外投資家の日本株への乗り換えが進んだことや、新NISAが始まったこと、東証のPBR改善要請なども相まって株価を押し上げたのです。
異様に膨らんだ投資家の夢
1989年バブル期は、いま思えば異常な株高だったといえるでしょう。
日経平均株価の予想PERは、実に62倍を超える水準でした(現在は16.5倍)。ちなみに、予想EPS(1株あたり利益)は622円で、現在の2373円の4分の1程度しかありません。個別銘柄でいえば、あの(!)日本製鉄<5401>でさえPER65倍(現在は10倍)ありました。
それでも証券マンは、「まだまだ割安ですよ」と顧客に勧めていたのです。
PERは投資家の夢(期待)の大きさを、そして、EPSは企業の現実を表すもの。株価というのはこの「PER×EPS」で成り立っていますから、バブル期は投資家の夢が異様なまでに膨らんでいたことがわかります。
マーケットに絶望を見た
1989年の大納会で最高値をつけたのち、日経平均株価は、翌90年には2万円台を割る寸前まで急落。さらに、イラクのクウェート侵攻や91年には湾岸戦争が始まり、不穏な世界情勢とバブル崩壊で、株価も下落の一途を辿ります。
2008年にはリーマンショックが起こり、日経平均株価は一時7000円を割り込む事態に。
当時、筆者のいた運用の現場では、憂鬱な数字が日々アナリストから報告されていました。企業の売上は壊滅的に減少し、在庫は膨れ上がるばかり。
「いくらなんでも、日経平均株価が7000円だなんて安すぎだろ。ただ、どうしても買えない……」
ファンドマネジャーがぽつりと言った台詞が、いまだに忘れられません。先の見えない恐怖から、マーケット全体に絶望感が蔓延していました。
バフェットにはなれない
再び現在。日経平均株価は、3月4日朝の寄り付きで史上初となる4万円を突破。砂漠(389)も通過点に過ぎませんでした。
個人投資家の中には「7000円のとき買っていればなあ」と思った人も多いのではないでしょうか。でも、本当の恐怖の中では買えないものです。少なくとも、筆者には無理でした。
「他人が強欲になっているときに恐れて、他人が恐れているときに強欲になる」──ウォーレン・バフェット
リーマンショックのときに果敢に攻めて巨万の富を稼いだアメリカの著名投資家ウォーレン・バフェット氏の言葉です。この姿勢がマーケットで勝ち抜くための真理であることは、たしかに歴史が証明しています。
でも……
「誰もがバフェット氏になれるわけではない」──岡田禎子
砂漠を彷徨った34年で得た、ひとつの教訓です。
ただ、そうは言っても、この間にはレーザーテック<6920>やエムスリー<2413>、ZOZO<3092>など、たくさんの面白い銘柄に出会うことができました。
たとえバフェット氏にはなれずとも、「マーケットには常にチャンスがある」ということもまた真実だと、胸を張って言うことはできそうです。
株式市場が変わった
現在の株式市場は、1989年とは大きく変化しています。
時価総額ランキングは銀行から製造業へと様変わりし、上場企業の純利益は7倍以上になりました。
企業は、自社株買いや配当などの株主還元のほか、大型M&A(合併&買収)をはじめとする成長戦略を積極的に行っています。
銀行や取引先との持ち合い解消も進み、金融庁は今年に入って損保4社に政策株の売却要求を行いました。東証の改革要請によって、企業の変化を期待した海外投資家の買いも続いています。
個人投資家も、ろくな知識を持たないまま株を買っていた時代から、フィンテック革命により有益な情報や知識に簡単にアクセス・収集することが可能となり、さらには売買手数料の自由化で、自己の判断で自由に投資できるようになりました。
2024年からは、個人の資産形成の「最強の武器」ともいえる新NISAも始まりました。
ただ……、かのバフェット氏は、手元の現金水準を過去最高に積み増し、「現在の市場はカジノのよう」として急ピッチな株高に警戒を鳴らしています。
長かった砂漠を乗り越え、4万円という夢のオアシスへ辿り着いた日経平均株価は、この先どこへ向かうのか? しっかりと見届けたいと思います。