バブル期を超えた相場をどう捉えるべきか。不安の声も聞こえてくるが…

千葉 明
2024年3月4日 12時00分

《バブル期の記録を抜いて、ついに史上最高値を更新した日経平均株価。長年相場を見つめてきた執筆陣は何を思うのか──それぞれが見つめる、日経平均株価の未踏の地【特集・日経平均株価、次のステージへ】》

 日経平均株価が1989年バブル期の過去最高値を更新。かつ、2月22日に39,098円で引けた週の終わりに本稿を書いている。

 バブル期には、フリーライターとして兜町を日々の如く徘徊していた。1989年の大納会12月29日に、38,915円(当時の終値最高値。ザラ場中の高値は38,957円)をつけたときも、某大手証券の株式部にいた。

バブルの華はこうして咲いた

 その日、東証の立会場は沸きに沸いていた。そこに身を置いていた証券会社の株式部も同様だった。「(年明けの)大発会は4万円も」とする声が飛び交ってもいた。

 ……が、後付け講釈の誹りを覚悟で記すと「なんでこんなに高くなるの?」という思いが頭の片隅にあった。その理由はこうだった。

 東証の投資部門別の売買代金は、この数年前から売り越し基調だった。今回あらためて、1987〜89年の3年間の差し引きを調べてみた。

(証券会社の)自己売買売り越し:6兆7767億円
個 人売り越し:7兆6155億円
外国人売り越し:8兆8601億円
事業法人売り越し:1兆4389億円
金融機関売り越し:17兆8764億円

 投資信託以外は、大幅な売り越し。では、投資家が巨額の売り越し基調にある中で、なぜ、株価は上昇したのか。

 信用取引に、その根拠は求められる。1987年の東証の信用取引差額(買残-売残/買残)は5兆9767億円、翌88年は6兆6683億円、89年は7兆9537億円。

 では、信用取引に積極姿勢を見せたのは誰か。手元に当時の『会社四季報』(1989年第4集)がある。例えば、野村證券の1990年3月期の予想は、四季報の業績欄の見出しによると【好調】。「営業収益9700億円、営業利益5000億円、純益2100億円」としている。他の3社の見出しも、大和証券【更新狙い】、日興證券【更新】、山一証券【高水準】。

 これら各社の業績欄には、共通した表現が見受けられている。「ワラント債の売買益好調持続」。ワラント債(新株引受権付社債)とは、新株を一定の価格で一定の数量を引き受ける権利を有した証書。信用取引で、とにかく駆け上がり続ける株価を買わないリスクヘッジに法人等はワラント債で対応策を執ったのである。

 バブルの華はこうして咲いた。

現在の相場はカジノ的なのか?

 そのバブル期の最高値38,915円を超えた今の相場を、どう捉えたらいいのか。

 本稿を書き始める前に、いささか気になるニュースに接した。日経電子版が25日2時21分に配信した、「バフェット氏、株高騰「カジノ的」 投資機会乏しさ憂う」と題する記事だ。著名投資家のウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハザウエイが公表した「株主への手紙」で、(アメリカ)国内外の株式相場の高騰について「カジノ的」だと警鐘を鳴らした……という内容だ。そして、「魅力的な新規投資機会は乏しく、バークシャーの投資待機資金は最高水準に積み上がる」と続けている。

 まさしくバブルの華が咲いた1989年に比べると、今回はどうか。「バブル」と断じたエビデントを、現状と比較してみた(投資部門別株式売買状況・東証プライム銘柄)。

投資部門2023年1月4日〜12月29日[年間]2024年1月4日〜2月2日[月間]
自 己買越:3兆5706億円買越:2686億円
個 人売越:3兆3230億円売越:9億8996億円
海外投資家買越:3兆4962億円買越:2兆903万円
事業法人買越:4兆8523億円買越:3612億円
金融機関売越:8兆36億円売越:1兆円

 指摘されているように「史上最高値更新を牽引しているのは、海外投資家の買い」が、ひときわ際立つ形となっている。信用取引が総じて規模が縮小する中で、海外法人投資家の買いは売りの10倍強の水準。一口に言うと、海外投資家ファンドが「史上最高値」を引っ張っている。

 背景としてはまず、長期間の金融緩和継続(と円安進行)があろう。また東証の市場再編が海外投資家を惹きつけたことも事実。PBR1倍割れのプライム企業に「是正勧告」を突き付けた効果は大きい。新NISA導入も寄与している。

 だが、今回の株価急上昇を揶揄するかのように、確かに株価はバブル期を超えたが、消費税の大幅上昇(1989年3%:2024年10%)に加え、円安進行(1989年143円:2024年150円)に伴う物価高となってなお実質賃金はマイナス、という状態は「不条理」とする見方も少なくない。的外れとは断じられない。

 肝要なのは、株高の今を、決して足腰が盤石とは言い難い日本経済の再構築の契機としえるかどうかだろう。具体的にはGDPの6割を占める個人消費の底上げだ。賃上げ。実質賃金をプラスにするための、賃上げが鍵だ。それが実現すれば、バフェット氏の日本株への危惧を払拭することにもつながろう。


【特集・日経平均株価、次のステージへ】

[執筆者]千葉 明
千葉 明
[ちば・あきら]東京証券取引所の記者クラブ(通称・兜倶楽部)の詰め記者を振り出しに、40年以上にわたり、経済・金融・ビジネスの現場を取材。現在は執筆活動のほか、講演活動も精力的に行う。『野村證券・企業部』『ザ・ノンバンク』『円闘』など著書多数。
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