東京メトロがついに上場! IPO市場にもトランプの風は吹くのか

石井僚一
2024年11月12日 9時00分

《「確実に儲かる」として個人投資家に人気のIPO株投資。しかし、そんな「夢の時代」にも陰りが? IPOで上がる株と下がる株は何が違うのか。データから読み解く【IPO通信簿】》

10月は有名銘柄として東京メトロ東京地下鉄)がIPOを行いました。初値騰落率は3割を超え、まずまずの成功を収めています。グロース指数の低迷が続く中でも、昨年並みの11件のIPOが行われた10月のIPO市場を振り返ります。

2024年10月のIPO市場

9月に7銘柄のIPOが行われた後、10月はそれを4件上回る11銘柄のIPOが行われました。12銘柄だった昨年とほぼ変わらないIPO件数となっています。

東証グロース市場250指数は、8月に一時大きく下落して年初来安値を更新したものの、最終的には始値付近まで戻して取引を終えました。しかし、9月に続いて10月もジリ安が続いています。

昨年から安値圏での取引が続いており、立ち直りの気配がありません。ただ、急落もしておらず、我慢の状態が続いていると言えるでしょう。

2024年10月のIPOランキング

2024年10月にIPOを行った11銘柄について、公募価格に対して初値がどれだけ上昇(あるいは下落)したかを表す「初値騰落率ランキング」を見てみましょう。

5銘柄が公募割れとなり、公募割れ率は45%となりました。

初値騰落率のベスト3は、1位・Sapeet<269A>(52.3%)、2位・東京地下鉄<9023>(35.8%)、3位・Hmcomm(32.7%)。1位のSapeetでは株価の伸びも見られましたが、それでも9月に引き続き、この10月も初値騰落率100%超えとなる銘柄はありませんでした。

公募割れの比率、初値騰落率から見ると、10月もIPO市場は活気に欠けたと言わざるを得ない状態です。

2024年10月の気になるIPO銘柄

10月の注目IPO銘柄としては、東京地下鉄<9023>を外すことはできません。加えて、AI銘柄で初値騰落率トップとなったSapeet<269A>について詳しく見てみましょう。

売出のみながら順調なIPOデビュー

・東京地下鉄<9023>

首都圏では知らぬ者がいない東京メトロこと東京地下鉄<9023>が、ついに株式上場を果たしました。

東京地下鉄はもともと日本政府と東京都が株主となっており、IPOによる株式売却益を東日本大震災の復興資金に充てることが決められていました。遅れていたIPOがようやく実現したことになります。なお、売出のみのIPOで、会社としての資金調達は行われていません。

コロナ禍の影響により2022年3月期は赤字決算でしたが、以降は黒字を維持。2024年3月期に業績は完全復活を遂げました。今期(2025年3月期)も増収増益の予想となっており、業績は堅調です。

人口減少が進む日本において、多くの鉄道会社が不動産事業など事業の多角化を図っています。その中で東京地下鉄は、鉄道事業を中心に上記業績をあげています。鉄道事業単体としては、日本最強の鉄道会社と位置付けることもできます。

株価については、予想PER13倍・公開価格1,200円でIPOに臨んだ後、初値1,630円・初値騰落率35.8%となり、まずまずの上昇率でIPOに成功しています。鉄道事業の収益力の高さに加えて、まだ事業多角化にはほとんど未着手の状態であり、今後の伸びしろも評価される形となりました。

さらに、200株以上の保有で優待乗車券が半期ごとに3枚もらえるなど、ユニークな株主優待制度も話題となりました。10,000株(投資金額1500万~1700万円)を購入すると、一年じゅう使える株主優待定期券がもらえます。

IPO後、株価は1,780円まで上昇したものの、その後は若干下落しました。しかし、1,600円台を上下する状態が続いており、公開価格はもちろん上回ったまま、初値近くでの取引が続いています。

売出のみではありましたが、初値天井という事態には至らず、話題の銘柄として無事にIPOを乗り切ったと言えるでしょう。

AI銘柄ながら低めの時価総額でIPO後に急上昇

・Sapeet<269A>

AIおよび3Dに関する技術を有するSapeet<269A>は、専門的ナレッジをAIで再現するアルゴリズム「Expert AI」によるサービスを提供。また、「シセイカルテ」という自社プロダクトを通じて100万回以上の姿勢分析を実施し、そのデータも蓄積しています。

また、国内有数のAI銘柄として知られているPKSHA Technology<3993>が2018年9月に買収して子会社化した企業でもあります。今回のIPO後もPKSHAが親会社として筆頭株主の座を維持しています。

業績は、増収は続いているものの赤字も継続中で、予想決算である2024年9月期も、赤字幅の縮小はありますが、やはり赤字予想です。増収とAIの話題性を背景に、赤字ながらIPOを行う形となりました。

IPO市場では2022年頃からAIブームとなっており、同社も、公開価格1,500円に対し初値2,285円・初値騰落率52.3%となって、初値は大きく伸びました。ただ時価総額は、公開価格で22億円、初値でも34億円であり、これまでのAI銘柄に比べると過熱感はありません。

注目されるのはIPO後で、そのまま株価の上昇が続き、10月は3,710円で取引を終え、11月に入ってさらに上昇を続けています。IPO後に投資家の注目を集める形となり、今後は黒字化のタイミングとともに、株価が順調に上昇を続けるかどうかが注目されます。

IPOにもトランプトレードの風が吹くか

IPO市場において一年で最大のピークとなる12月を控え、11月は例年IPO件数が少なくなります。今年4銘柄の予定です。

アメリカ大統領選挙でトランプ前大統領の返り咲きが確定しましたが、4年前は選挙後に株高が続いたことから、今回も期待されています。低迷が続くグロース市場についても、12月のIPOピークを前に復活を期待したいところです。

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[執筆者]石井僚一
石井僚一
[いしい・りょういち]ベンチャーキャピタル勤務を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析などを得意とし、複数の媒体に寄稿中。なかでもIPO関連の執筆を数多く手がけており、IPO企業の目論見書のほとんどに目を通している。
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