利益確定について考えたことがありますか? 株式投資の盲点を理解する

高野 譲
2017年5月22日 10時00分

利益確定なくして利益なし

みなさんは、いろいろな書籍やウェブサイトなどで投資やトレードの勉強をしているでしょう。それらの指南書には一貫して「損切り」のルールに関する記述があり、それを厳格に守らなければ勝ち組にはなれない、とされています。

その一方で、「利益確定」についての情報は、ほとんどないに等しいのではないでしょうか。

株仲間との会話でも「儲かったね」「どこかで好きに利食いしなよ」などと、含み益が生じた途端に「あとはご自由に」と気を抜いてしまう場面が多く、どうやって利食いするかついて考慮しないのが典型的なパターンになっています。

しかしながら、いかなるときも利益水準の決定が先決であり、この決定なくして株は始まらない!と私は考えています。

株式投資の盲点「ペイアウト倍率」

宝くじや競馬やカジノなどの賭け事には「ペイアウト倍率」というものがあります。

たとえば、ペイアウト倍率2倍のルーレットゲームに1,000円を賭けたとします。もしあなたが勝てば、掛け金の2倍の2,000円(利益は1,000円)が手に入り、負ければ1,000円を失います。つまり、プレーする前から「1,000円の利益」か「1,000円の損失」が確定しているのです。

これは大切なことで、そもそも「勝ったら1,000円もらえる」という保証がなければ、誰もルーレットゲームに手を出さないでしょう。

株式投資の世界でも同じことが言えます。厳格なルールのもとに「損失と利益の決定」をしなければ、株式投資は始まらないのです。これは、株式投資だけでなく他の金融商品にも当てはまる、投資における盲点だと思います。

ただし、株式投資における「損失と利益の決定(ペイアウト倍率の決定)」は、自分自身で行わなければなりません。これが、株式投資について「なんだか難しい」「なぜかうまくいかない」という違和感を覚える要因と言えるかもしれません。

リスクを避けてしまう本能とは

利益と損失を自分自身で決定することが、なぜこれほどまでに難しいのでしょうか? あらかじめ胴元に決められた範囲でしか儲けられない賭け事と違って、自分で利益幅を決められるのですから、もっと大胆に勝負に出ることがあってもいいはずです。

そうならないのは、人間がもっている本能が作用しているからです。私たち人間には「平和になるほどリスクを取らない」という性質があります。つまり、平和になればなるほど自分自身に対する規制が厳しくなり、リスクの芽を早々に摘んでしまう心理が働くのです。

この「平和になるとリスクの芽を早々に摘んでしまう心理」が、含み益のある建玉を損になる前に早く決済してしまう行為を生んでいます。みなさんも、買った株に利益が乗ると(損になることへの恐れから)急いで決済してしまう癖がありませんか?

この原理について行動経済学の研究からわかったことは、「自分に有利な場面ではリスクを避けて、自分に不利な場面ではリスクを取ることを好む」という人間の本能が作用しているということです。

つまり、少しでも利益が出ればリスクを避けて決済し、反対に損失が出てしまったときには、「そのうち戻ってくるはず……」という願望からリスクを取って待ち続けてしまうのです。これが、いわゆる「利小損大(利益は小さくて損失は大きい)」に陥る要因なのです。

利益確定にも厳格なルールを

「利小損大」となってしまうのが人間としての本能なのであれば、残念ながらコントロールすることは難しい……ということになります。

私たち人間は、死と隣り合わせになったら必然的に命を懸けて戦い(過大なリスクを選択して大きな損を生む)、そうでなければトラブルを避ける(リスクになり得る芽を早々に摘む)——この本能の力が、株式投資を難しくさせている根本的な原因にもなっています。

では、どうすればいいのでしょうか? 本能のせいで利益確定が難しいのなら、損切りと同じように、確実に、自動で行える仕組みを作ればいいのです。

「指値」で利益確定を自動化する

意志の力に頼らずに利益確定を行うために使いたいのが、株式の発注方法のひとつである「指値注文」と「逆指値注文」です。

たとえば100円の株を買ったときに、「90円まで下がったら自動的に売る」という逆指値注文を出しておくことが、確実な損切りの方法として書籍などで紹介されています。その際、確実に利益確定を行うには、同時に「110円まで上がったら売る」という指値注文を出しておくのです。

これら2つの注文方法は、一度発注してしまえば、あとはほったらかしにして約定するのを待つだけです。これだけのことで、指値で早すぎる利食いを、逆指値では遅い損切りを回避できるようになります。

「リスク・リワード」を考える

じゃあ、利益確定の指値注文をしようとしたときに、ぶつかる問題があります。その指値は、いくらにするのがベストなのでしょうか? つまり、「どのぐらいの利幅で利益確定したらいいのか?」という問題です。

ここで考えたいのが「リスク・リワード比率」です。リスクとは損をしてもよい金額=損切り値幅、リワード(報酬)は希望する利益額=利益幅です。つまり、その取引から得られる損失と利益のバランスによって指値(逆指値)の金額を決めるのです。

たとえば、リスク・リワードを1:2とするなら、100円の株が90円になったら損切り、120円まで上がったら利益確定、という設定になります。損失10円に対して利益は20円(1:2)なので、これは、見込まれる利益の半分までの損失を受け入れる、ということでもあります。

もっと多くの儲けを取りたいなら、損失幅に対する利益幅を大きくし(たとえば1:5)、反対に、少なくていいから確実に儲けを取っていきたいなら、利益幅を小さくすればいい(たとえば1:1.5)ことになります。

初心者なら「1:1」もあり

リスク・リワード比率は、株式投資によってどれくらいの利益を得たいのか、何のためにトレードをするのか、といった各自の状況や目的に沿って設定することが大切です。しかし、そうは言っても、なんの目安もなく設定するのは難しいものです。

そうした場合に、とくに株初心者の方に私が紹介するのが「1:1の法則」です。つまり、利益と損失の値幅を同じにするのです。たとえば200円の株を買うとき、100円の損失を受け入れるなら、最低でも100円の利益を見込むのです。

200円で約定したら、利益確定のための指値注文(300円)と、損切りのための逆指値注文(100円)を同時に出します。こうすることで、250円まで上がったところで慌てて決済し、さらに300円まで上がるのを指をくわえて見ることは、もうなくなります。

また、利益と損失を1:1にすることで、トレードの記録をつけた際に、自分の手法の正確な勝率がわかるようになります。同時に、何勝何敗であるかが取引口座残高にそのまま反映されるので、資金管理も容易になります。

自分のスタイルに合わせてアレンジする

一方、リスク・リワード1:1のデメリットは、もし株価が一方的に上昇した場合に利益を伸ばせないことです。終わってみれば200円も上昇したのに、道半ばの100円で強制的に利食いしている自分のトレードに、不甲斐なさを覚えるかもしれません。

「ここからもっと上がる!」「ここは引っ張るところ!」などの投資判断ができるようになったら、プロの投資家(トレーダー)です。利益を伸ばすために、リスク・リワード1:2へ急遽変更することも可能です。しかし、その場合においても、予想に反して伸び悩んだ場合は1:1の位置でポジションを解消させることができます。

このように最低限の利益を確保することが、ルール化を行う理由のひとつです。つまり、相場格言にいう「利食い千人力(含み益に喜んでさらに利益を追うようなことはしないで、ある程度で儲けを確定させるのが賢明)」に従う例となります。

リスク・リワード1:1はあくまで基本であり、アレンジが可能です。そして、損になる恐れによる早利食いを防ぐ手段に加えて、上記のような強気心理がもたらす遅い利食いを手助けする効果があることも覚えておきましょう。

投資には損失と利益が付き物

投資家・トレーダーの中には「僕が買った株式は○倍になる!」と断言する方もいらっしゃいますし、実際にそうした例がたくさんあるのも事実です。しかし、その場合にはリスクも比例して高まっているのです。

投資には損失と利益が付き物です。だからこそ、どちらにも明確なルールを設定することが重要なのです。大きな利益を求めるなら、それに見合った損失があり、逆もまた然りです。

とくに株式投資を始めて間もない方は、利益額と損失額を前もって決定させ、きちんとルールを守って、楽しみながら株に触れて経験を積んでいくことが望ましいスタイルかもしれません。

[執筆者]高野 譲
高野 譲
[たかの・ゆずる]株式・先物・FX投資家、個人投資家8年と証券ディーラー8年の経歴を持つ。現在は独立し、投資関連事業を法人化、アジアインベスターズ代表。著書に『図解 株式投資のカラクリ』『株式ディーラーのぶっちゃけ話』『超実践 株式投資のプロ技』(いずれも彩図社)などがある。
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