こんな手口に騙されてはいけない 続・相場操縦の実例3選
前回に引き続き、実際に「相場操縦」として行政罰(課徴金)を下された実例をご紹介します。自分はやっていなくても、身近で似たような行為を見聞きしたことはないでしょうか? いくら勝てないからと言って、株価を自分の思い通りに操ろうとすることは違法です。
【参考記事】相場操縦をざっくり解説 ネット取引が思いがけず犯罪につながる理由とは?
実例・「仮装売買」で相場をコントロール
手口のおさらい
【仮装売買とは?】
その銘柄の取引が繁盛に行われているものと他人に誤解させる……ということなどを目的として、同一の人物が同一のタイミングで同一の取引で、売りと買いの当事者になることを「仮装売買」と言います。また、このような行為を他人に委託したり、他人から受託されたりすることも違法です。
証券口座を作るときには身分証明書の提出が求められますから、同じ証券会社で仮装売買をしても、同一人物の取引だということは、すぐにバレてしまいます。しかし、複数の証券口座を持っていて、片方で売った自分の株式について、もう片方で買いを入れることは可能となります。
なお仮装売買は、株主としての権利移転のない取引ですので、売買の効力は生じません。
【参考記事】自分で売って自分で買うのは犯罪? 株価を操る魅惑の手口を解説
相場操縦No. 4 〔仮装売買〕
• 誰が?……自己名義2口座を保有し、他人名義4口座を使用できる立場の個人投資家
• どんな操縦?……自己名義口座と他人名義口座を使い分けることで、ある銘柄について8万株あまりの買いポジションと、11万株あまりの売りポジションを保有し、差し引きで評価損が出ていた状態において、特定のタイミングで信用取引での売り注文と買い注文をほぼ同時に発注することにより、3万株あまりの仮装売買を実行した。
他の投資家から見て、相場が繁盛に行われているかのように見せかけることが目的で、この仮装売買は市場占拠率が20パーセントを超え、相場に無視できない影響を及ぼした。
これをきっかけに、同銘柄の価格は5営業日連続で下落することになった。
→ 課徴金:224万円
*真似をしないためのメモ
この操縦者は、他人名義口座を使用することで、証券会社からの注意喚起を巧妙に回避していました。
仮装売買は、任意のタイミングで任意の価格で約定させられる、強力な株価操作を実現できます。しかも資金を投じずに出来高を増やせるため、経済的なリスクを負う必要もありません。公平な取引市場が容易に害されるため、仮装売買は金融商品取引法で厳しい取り締りを受けるのです。
実例・「買い上がり」で相場をコントロール
手口のおさらい
【買い上がりとは?】
現在の株価を上昇させる……という目的で、現在よりも高い価格で買い注文を大量に発注し、その間にある売り注文もすべて約定させることで、株価を引き上げながら出来高も上昇させることを「買い上がり」と言います。
つまり、単独で行った株価と出来高の急上昇によって、ヤフーファイナンスや証券会社の「急騰ランキング」などに掲載され、取引が繁盛に行われているものと他の投資家に誤信させることによって、さらなる買いを集め、さらなる高値を付けさせる株価操縦です。
売買板の上に、指し値を最初から一定刻みに並べたり、断続的に指し値を徐々に引き上げる注文を繰り返したりする行為なども、「買い上がり」とみなされる危険性があります。
出来高が比較的に低調な銘柄を選べば、そこまで莫大な資金力を必要とせずに株価を変動させることができます。
【参考記事】自分で売って自分で買うのは犯罪? 株価を操る魅惑の手口を解説
相場操縦No. 5 〔ネット書き込みとの組み合わせ〕
• 誰が?……ネット口座を保有している個人投資家
• どんな操縦?……他の投資家から見て、相場が繁盛に行われているかのように見せかける目的で、直前の約定値よりも高い指値の買い注文を連発することによって、少しずつ株価を引き上げていった。
加えて、その株式の買い付けを推奨する内容の書き込みを、インターネットに一度に多数投稿することによって、他の投資家の買い注文を誘引し、株価が一気に吹き上がったタイミングで売り抜けた。
• どれくらいの売買差益に?……2つの銘柄について株価操作が行われた。たった3営業日で、それぞれ次のような株価上昇が起きている。
・銘柄A:172円 → 462円
・銘柄B:565円 → 719円
→ 課徴金:4,688万円
*真似をしないためのメモ
2015年の事例ですが、個人に対して課された課徴金としては、当時、過去最高でした。
2つの銘柄で買い上がり買い付けを仕掛けながら、すかさず多くのネット掲示板を回り、購入推奨の大量書き込みを実行したことで、双方の銘柄ともストップ高を記録しました。あまりにも露骨に仕掛けの効果が上がってしまったため、このような不正を抑え込むためのペナルティも、より厳しいものとなっています。
相場操縦No. 6 〔PTSとの組み合わせ〕
• 誰が?……顧客から資産を預からず、自己資金のみによって株式売買を行い、収益を上げることを目的とする「プロップファーム」と呼ばれる投資会社(英領アンギラに登記住所)に勤務するデイトレーダー
• どんな操縦?……45銘柄について、まず証券取引所の前場と後場の間における注文受付時間内に、成行または直前の寄前気配値よりも上値の価格帯で、初めから約定させるつもりのない大量の買い注文を発注し、寄前気配値段を引き上げた。
その一方で、PTS(私設市場取引システム)で大量の売り注文を発注し、一部を証券取引所の買い注文と対当させることで株価を引き上げ、それを呼び水として他の多数の投資家の買いを誘引し、さらなる人為的な株価上昇へと持ちこんだ。
→ 課徴金:約1,475万円 → 約2,213万円
*真似をしないためのメモ
過去に課徴金納付命令を受けたことがあり、操縦者がいわば「前科者」であったことから、通常の1.5倍加重のペナルティが適用されました(過去5年以内に課徴金納付命令を受けことがある者は、通常の1.5倍の課徴金となる)。
しかも、取引所とPTSを使い分けることで相場操縦を行うという巧妙な手口が盛り込まれており、そのぶん、厳しい社会的非難を免れません。
本件では、証券取引等監視委員会が、イギリスの金融行為規制機構(FCA)と緊密に連携しながら調査が行われました。海外に本拠がある企業といえども、日本の株式市場を乱そうとすれば、当局は黙っていないのです。
少額から可能でも……ダメ。ゼッタイ。
相場を自由自在に動かすなんて「莫大な資金がなければできない」「自分には関係ない」と思いこんでいませんか? ずるいことを考える人はいるもので、少資金でも相場を操縦できる手口は、実はいろいろとあるのです。
もちろん絶対に真似をしてはいけませんし、知らないうちに相場操縦まがいの行為をしていないか、自己チェックできるようにしておきましょう。
また、実例No.5のようにネットの書き込みで売買を誘引する手口も増えています。無自覚のうちにそれらを手助けをして、自分は損を被ってしまうことのないように、十分に気をつけてください。
真に「プロ」と呼ばれる人々は、相場操縦やインサイダー取引といった後ろ暗い手口に頼らずとも、着実に利益を出すことができます。見習うべきは、安易に儲けようとする操縦者ではなく、しっかりとした売買ルールに基づいて利益を積み上げているプロのほうではないでしょうか。