インサイダー取引・実例17選 「私はこれで、課徴金を科されました」

インサイダー取引は、金融商品取引法によって、最高で懲役5年と罰金500万円の両方が科されうる重罪です。その要件は、「会社関係者等や第一情報受領者」が「上場会社等に関する重要事実」を「知り」ながら「公表される前」に「株式の取引」を行うこと、とされています。

【参考記事】インサイダー取引をざっくり解説 わかりにくいのにペナルティが厳しいのはなぜ?

ただ、これだけでは具体的に「どこまではセーフで、どこからがアウトなのか」、いまひとつわかりにくいでしょう。そこで、実際にインサイダー取引に当たるとして処罰を受けたケースをご紹介したいと思います。

ほとんどは「課徴金」の行政罰

実は、よほど悪質なケースでないかぎり、インサイダー取引の大半は金融庁による「課徴金納付命令」という行政罰で処理されています。課徴金の額は、おおむね以下の式で算出されます(例外もあります)。

課徴金額(1万円未満は切り捨て)
= 重要事実公表後2週間における最も高い株価 × 取引株数 - 取引価額

では、どのようなケースで課徴金納付命令が出されているのでしょうか。ここからは、証券取引等監視委員会が公表している「課徴金事例集」過去10年分の中から、みなさんの参考になりそうなケースをピックアップしてお送りします。

事前にコッソリ知った「業績予想修正」

インサイダーNo.1
  • いつ?……重要事実公表の10日前に
  • 誰が?……上場会社の従業員(営業戦略プランニング部門)が
  • どうやって?……取締役や経理担当者が出席する「リーダー会議」の結果(業績予想値の下方修正)を知らせる社内メールを受けて
  • 何を?……自社株式3,400株を
  • どうした?……500万円あまりで売却した
     ↓
    課徴金:94万円
インサイダーNo.2
  • いつ?……重要事実公表の3時間前に
  • 誰が?……上場会社の従業員(情報システム部門)が
  • どうやって?……管理者権限を悪用し、決算情報等を保管する社内のテストサーバーやファイルサーバーに不正にアクセスして、業績予想値の下方修正が予定されている事実を知って
  • 何を?……親族名義の証券口座で、自社株式5,000株を
  • どうした?……インターネット注文で信用取引で売却した
     ↓
    課徴金:96万円

この会社が採っていたインサイダー取引対策
インサイダー取引の未然防止に係る規程の見直し、インサイダー防止研修を行っていた。しかし、情報システム部内においては、管理者パスワードについても長期間変更していなかったなど、不備のある状況が認められた。

インサイダーNo.3
  • いつ?……重要事実公表の約2週間前に
  • 誰が?……上場会社の役員が
  • どうやって?……取締役会の場で、自社の業績予想値が上方修正される見込みを知って
  • 何を?……自社株式3,000株を
  • どうした?……電話注文で約50万円で購入した
     ↓
    課徴金:22万円

この会社が採っていたインサイダー取引対策
自社株の売買については会社への事前届出制としていた。しかし、違反者への社内処分について定められておらず、この件でインサイダー取引を行った本人は届出を行っていなかった。また、インサイダー取引防止に関する社内研修も行われていなかった。

事前にコッソリ知った「業務提携」

インサイダーNo.4
  • いつ?……重要事実公表の約1か月半前に
  • 誰が?……会社の従業員が
  • どうやって?……契約交渉の打ち合わせ準備のため、役員に頼んで、自社の子会社2社が業務提携するとの内容の、取締役会配布資料を見せてもらったことによって
  • 誰に?……旧知の知人に、自社グループで業務提携が行われることを伝えて
  • 何を?……その会社の株式2,000株を
  • どうした?……知人が業務提携公表1週間前に買い付けて、公表直後にすべて売却した
     ↓
    課徴金:知人:102 万円、従業員:51 万円

この会社が採っていたインサイダー取引対策
このインサイダー取引を未然に防止することを目指した規程が整備されているほか、従業員向けの防止研修の実施、インサイダー情報の特定、インサイダー情報保有者の範囲限定、インサイダー情報保有者への注意喚起、インサイダー情報漏洩時等における罰則規程の整備を行っていた。

事前にコッソリ知った「M&A」

インサイダーNo.5
  • いつ?……重要事実公表の3カ月以上前に
  • 誰が?……M&A契約締結先企業の従業員(与信審査部門)が
  • どうやって?……合併基本合意に基づき、デューディリジェンス業務等を行うプロジェクトチームに参加したことをきっかけに知って
  • 何を?……M&Aの相手方企業の500 株を
  • どうした?……信用取引で250万円ほどで購入した
     ↓
    課徴金:42万円

事前にコッソリ知った「子会社化」

インサイダーNo.6
  • いつ?……重要事実公表の1カ月以上前に
  • 誰が?……上場会社の従業員が
  • どうやって?……上司にあたる役員から業務上の指示などを受ける中で、ある会社の発行済み株式すべてを取得する予定であることを聞きつけ
  • 誰に?……別の役員(本件の違反行為者)と面談し、業務上の相談を持ちかけるとき、子会社化の事実を伝えて
  • 何を?……自社株8,600株を
  • どうした?……子会社化公表の前日まで、約1カ月間かけて約470万円で購入した
     ↓
    課徴金:256万円

この会社が採っていたインサイダー取引対策
インサイダー取引に関する管理規程が設けられていたが、違反した場合の社内処分については定められていなかった。

事前にコッソリ知った「新株予約権」

インサイダーNo.7
  • いつ?……重要事実公表の約2カ月前に
  • 誰が?……上場会社の従業員2人(株式事務・経理)が
  • どうやって?……2人は、転換社債型新株予約権付社債の発行準備に携わる実務担当者に選ばれ、そのキックオフ・ミーティングにおいて、役員からその重要事実を伝えられて
  • 何を?……社員持株会から引き出して証券口座に入庫していた自社の株式を
  • どうした?……新株予約権付社債発行の公表前に売却した(株式事務担当者は200株、経理担当者は1,000株)
      ↓
    課徴金:株式事務担当者に4万円、経理担当者に58万円

事前にコッソリ知った「株式分割」

【参考記事】株式分割は本当にプラス効果? あの“高嶺の花”にも手が届くけれど

インサイダーNo.8
  • いつ?……重要事実公表の約1カ月前に
  • 誰が?……株式会社の役員が
  • どうやって?……株式分割の公表について社長と協議していて
  • 誰に?……同窓会で会った知人(株主)に、株式分割のことなどを教えて
  • 何をどうした?……知人は、もともと保持していた株式に信用取引も加えて、22,000株を、株式分割の公表前から公表直後にかけて売却した
      ↓
    課徴金:知人に1,380万円、役員に351万円
インサイダーNo.9
  • いつ?……重要事実公表の数日前に
  • 誰が?……ある会社の役員が
  • どうやって?……A社が株式分割を行うとの噂を聞いて、付き合いのあるA社の役員に質問して、その事実を確認し
  • 何を?……A社の株式1,000株を
  • どうした?……株式分割の公表直前に買い付けて、公表直後に売却した
      ↓
    課徴金:52万円

この会社が採っていたインサイダー取引対策
A社においては、インサイダー取引に関する管理規程が整備されており、重要事実にあたる取引については、相手方と秘密保持契約書を取り交わすなどの体制が採られていた。

事前にコッソリ知った「民事再生」

インサイダーNo.10
  • いつ?……重要事実公表の3日前に
  • 誰が?……会社の管理職の従業員(工事業務管理部門)が
  • どうやって?……上司にあたる取締役から、民事再生手続き開始の方針が取締役会で決まったと聞いて
  • 何を?……社員持株会から引き出して証券口座に入庫していた9,000株を
  • どうした?……200万円あまりで売却した
     ↓
    課徴金:72万円

事前にコッソリ知った「株式公開買付(TOB)」

インサイダーNo.11
  • いつ?…… 重要事実公表の約2カ月前に
  • 誰が?……会社の監査役が
  • どうやって?……その会社が別に新規会社を設立し、新規会社の経営陣がその会社の株式を大量に買い付けるMBO(経営陣買収)が行われる計画を、設立中の新規会社の従業員から聞かされて
  • 何を?……監査している会社の株式7,000株を
  • どうした?……親戚名義の証券口座で取得した
     ↓
    課徴金:245万円
インサイダーNo.12
  • いつ?…… 重要事実公表の約半月前に
  • 誰が?……ある上場会社が公開買付を行うにあたって、アドバイスを送る契約を締結していたコンサルティング会社の役員が
  • どうやって?……その上場会社で開催された公開買付の打ち合わせ会議に出席したときに知って
  • 誰に?……以前、同じ会社に勤務していた元同僚に伝えて
  • 何を?……上場会社の株式17,000株を
  • どうした?……公表前に買い、公表後に一部を売却した
     ↓
    課徴金:242万円

この会社が採っていたインサイダー取引対策
会社の契約締結者など、社外関係者による情報漏洩を防止するための対応策が、十分に構築されていたとは言いがたい状況にあった。

事前にコッソリ知った「業務上の損害発生」

インサイダーNo.13
  • いつ?……重要事実公表の1~2週間前に
  • 誰が?……ある上場会社(A社)との契約交渉に当たっていたB社の役員が
  • どうやって?……契約交渉の過程で、A社には業務遂行において損害が発生しており、その原因究明や公表の具体的なスケジュールなどを検討する特別委員会が設置されている事実を知って
  • 誰に?……知人でA社株主の2名にメールや会食の場で伝えて
  • 何を?……知人2名は、それぞれ31,300株・2,000株を
  • どうした?……現物取引で売却した
     ↓
    課徴金:892万円・50万円

この会社が採っていたインサイダー取引対策
A社には、役職員によるインサイダー取引の未然防止に係る規程が整備されていたものの、契約締結交渉者も含め社外の者に重要事実を伝達する場合の情報管理態勢などに関しては、明確なルールが置かれていなかった。

インサイダーNo.14
  • いつ?……重要事実公表の約2週間前に
  • 誰が?……上場会社の役員が
  • どうやって?……会社が海外進出の過程で多額の損失を被って、貸倒引当金繰入額が特別損失に計上されることが、社長そのほか幹部社員の間の共通認識となって
  • 誰に?……役員はその事実を従業員Aにメールで伝え、Aは社内情報を共有する目的でメールを従業員Bへ転送して
  • 何をどうした?……Aは自社株式1,700株を、Bは自社株式12,400株を売却した
     ↓
    課徴金:Aに107万円、Bに753万円

この会社が採っていたインサイダー取引対策
インサイダー防止のルールは定められていたものの、情報管理者が定められていなかった。また、防止研修もほとんど行われておらず、対策が不十分とされた。

バスケット条項

インサイダー取引のバスケット条項は、以上に挙げた典型事例のほかに、「当該上場会社等の運営、業務又は財産に関する重要な事実であつて投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの」(金融商品取引法166条2項4号・8号・14号)をいいます。その会社に特有の事情で、株価に影響しそうな材料であれば、すべて重要事実とされます。

インサイダーNo.15
  • いつ?……重要事実公表の2カ月以上前に
  • 誰が?……上場会社の元役員が、
  • どうやって?……その会社で巨額の売買契約を締結していたものの、支払いができず、債務不履行によって売買契約が解除されることがほぼ確実になったことを、仕事を通じて知って
  • 何を?……自社株18,600株を
  • どうした?……会社を辞めて、直後に売却した
     ↓
    課徴金:238万円

この会社が採っていたインサイダー取引対策
「役職員は退職後1年間は当社株を売買してはならない」とのルールが定められていて、違反者は会社を辞める際、会社からそのルールについて改めて説明を受けていた。

インサイダーNo.16
  • いつ?……重要事実の公表直前(公表当日)に
  • 誰が?……株式を上場している製薬会社から、開発中の新薬の治験を請け負っていた法人の職員が
  • どうやって?……その職務の中で、新薬開発が中止され、今後の販売の見込みが立たなくなった事実を知って
  • 何を?……製薬会社の株式800株を
  • どうした?……信用取引で売り、公表直後に買い戻した
     ↓
    課徴金:60万円

この会社が採っていたインサイダー取引対策
製薬会社ではインサイダー取引の未然防止ルールが整備されており、インサイダー情報を社外の者に伝達する際には、相手方と秘密保持契約を締結するなど、情報漏洩を防止するための態勢が採られていた。しかし、新薬開発中止の事実がインサイダー情報であることについて、注意喚起が十分でなかったとみられる。

インサイダーNo.17
  • いつ?……重要事実公表の前日に
  • 誰が?……上場会社の従業員が
  • どうやって?……会社に金融商品取引法違反(有価証券報告書虚偽記載)の疑いで、証券取引等監視委員会の強制調査を受けた際に、その場に立ち会って
  • 誰に?……強制捜査の立ち会いのために事前に約束していたミーティングに出席できなくなったことを、従業員の知人(その会社の株主)が知って
  • 何を?……自社株38,700株を
  • どうした?……現物取引で売却した
     ↓
    課徴金:236万円

フェアプレーを心がけましょう

「重要事項」を知ってしまった以上は、株取引が禁じられます。しかし、ここに挙げたように「重要事項」というのは多岐にわたりますので、“うっかり”インサイダー取引をしてしまうこともあるかもしれません。

課徴金だけなら前科としてカウントされませんが、証券取引等監視委員会の強制捜査によって、インサイダー取引の事実は会社に知られます。当然、解雇されるリスクもありますので、決して軽く考えないでください。

常にフェアプレーを心がけていれば、甘い誘惑に負けることも、うっかり課徴金を科されるはめになることもないでしょう。

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