夏枯れでも実は「売り」なし? 気になる8月相場の特徴とは【今月の株価はどうなる?】
《株式市場には、一定の季節性や、法則というわけでもないけれど参考にされやすい経験則(アノマリー)など、ある種のパターンが存在します。過去の例からひもとく8月の株式相場の特徴とは?》
8月は夏枯れの時期?
8月の株式相場では「夏枯れ」がしばしば耳にするキーワードとなります。
7月下旬から8月中旬にかけては日米の4~6月期決算シーズンですが、それを過ぎると国内外の機関投資家はサマーバカンスやお盆休みに入ることも多いため、いわゆる「夏枯れ」の季節となります。
そんな「夏枯れ」相場は売りが有利なのでしょうか?
ただ、相場格言には「閑散に売りなし」という言葉があります。これは、相場が低調で手控えムードのときに辛抱できずに持ち株を売ってしまうと、思わぬ材料に反応して株価が急騰することがある、という注意喚起の格言です。
つまり、市場参加者が少なく売買が低調なときには、買いも売りもともに注文が薄いため、上にも下にも株価がが飛びやすいということになります。ぜひ留意しておきたいところです。
8月の日経平均株価はどう動く?
そんな8月相場で、株価が「強い日」「弱い日」はいつになりそうでしょうか?
それを知るために、8月の日経平均株価の過去データを振り返りましょう。日経平均株価についての公式データを公開している「日経平均プロフィル」を参照します。戦後、東京証券取引所が立ち会いを再開した1949年5月から直近までの日経平均株価の日々の騰落率が掲載されています。
このデータを確認してみると、8月に日経平均株価が上昇した確率(勝率)が高いのは「11日」で、騰落率は65.45%でした。
反対に、8月で最も日経平均株価の上昇する確率が低い(=下がる確率が高い)のは、「7日」の40.35%となっています。
過去20年の間にはITバブル崩壊も
さらに、日経平均株価の月間の騰落状況(前月末終値と当月末終値の比較)を、2000年から見てみます。7月末比では月間で上昇したのが10回、下落が12回。上昇した確率が45%で下落した確率の55%を下回りました。2000年からの平均の騰落率は−0.6%となっており、たしかに「夏枯れ」の様相です。
下落率が最も高かったのは2001年の8月で日経平均株価は月間で9.7%下落しました。2000年当時はまさにインターネットの黎明期で、いわゆる「ITバブル」のピークとなっていました。
しかし、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)が景気過熱を防ぐために金利を引き上げ、2000年5月に政策金利を0.5%と大幅に引き上げた頃から、順調だったハイテク株ブームは売られる展開となりました。
反対に、この20年で上昇率が最も高かったのは2003年の8月で、日経平均株価は8.2%上昇しました。この年はITバブル崩壊や日本では不良債権処理の問題やデフレが尾を引いており、4月には日経平均株価が20年ぶりに8000円を割り込みました。
しかし、りそな銀行救済のために公的資金が注入されることが発表されると、国有化によって紙クズになってしまう懸念があった金融株を中心に急上昇し、買いが優勢となりました。
直近3年の8月の日経平均株価は?
それでは、最近の8月の日経平均株価の値動きはどうだったのでしょうか? 過去3年間のチャートを見ながら振り返りましょう。
・2019年8月の日経平均株価
2019年8月の日経平均株価は月間で3.8%下落しました。
この年は米中の貿易摩擦が株式市場の懸念となっていましたが、6月に米中首脳会談が開催され、対立ムードがやや和らいでいました。
ところが8月に入って、当時のトランプ米大統領がツイッターで、中国からの輸入品に対してこれまで制裁関税の対象外だった品目にも9月から10%の制裁関税をかけると表明。株式市場は米中の貿易摩擦の再燃を嫌気して売られる展開となりました。
・2020年8月の日経平均株価
2020年8月の日経平均株価は月間で6.6%上昇しました。
トランプ米大統領が新型コロナの追加の経済対策として、失業保険の追加給付などの大統領令に署名したこともあり、コロナで落ち込んだ経済が回復に向かうとの期待が強まりました。米ファイザーがコロナワクチンのアメリカで初となる緊急使用許可を申請したことも追い風となりました。
これを受けてアメリカ株は高値圏で推移し、日本株も“連れ高”の展開となりました。
・2021年8月の日経平均株価
2021年8月の日経平均株価は月間で3.0%上昇しました。
アメリカではファイザーの新型コロナワクチンが食品医薬品局(FDA) に正式に承認されたことで経済回復への期待が高まったことや、FRBのパウエル議長の「利上げを急がない」との発言で低金利で選好されやすいハイテク株が買われ、日本株を後押ししました。
過去3年間で見ると、8月の日経平均株価は2勝1敗と勝ち越しです。しかも2連勝していますので、それを伸ばしていけるでしょうか。
株価を動かす8月のイベント
株価にも影響する8月のイベントには、どのようなものがあるでしょうか。
まず、7月下旬から8月中旬にかけては日米の4~6月期の決算シーズンとなります。
3月期決算の日本企業にとっては第一四半期となり、足もとの企業の事業環境や先行きへの見通しを確認できる重要な時期なので、決算発表を受けた個別銘柄の物色動向が大きく変化する可能性のある時期でもあります。
しかし、決算発表のシーズンを過ぎると国内外の機関投資家はサマーバカンスやお盆休みに入ることも多いため、いわゆる「夏枯れ」の季節となります。
ジャクソンホールに世界の目が集まる理由
そうした中で8月下旬に注目されるイベントとして「ジャクソンホール会合」があります。
「ジャクソンホール会合」とは、毎年8月下旬に米カンザスシティ連邦準備銀行がワイオミング州ジャクソンホールで開催する経済政策のフォーラムです。
各国の中央銀行総裁や政治家が集い、金融政策や経済について議論します。特にFRB議長が行う講演の内容は、世界の株式市場に大きな影響を与えるアメリカの金融政策の方向性を知る手掛かりとして、多くの投資家が注視しています。
過去を振り返ると、にわかに注目度が高まったのは2010年のことです。
当時のバーナンキ議長が、2008年に発生したリーマン・ショックに対応するための追加の金融緩和策・第2弾(QE2)をこの年のジャクソンホール会合で言及し、その後11月のFOMC(連邦公開市場委員会)で実際に決定したことが有名です。
アメリカの金融政策を決定するFOMCは通常6週間ごとに年8回開催されますが、近年では7月・9月に実施されることが多く8月は空白期間となることも、ジャクソンホール会合に注目が集まる理由となっています。
ジブリな夜にご用心?
さらに、イベントではありませんが、こんなことも株式市場では注目されています。
8月には子供たちが夏休みとなるため、日本テレビ系では「金曜ロードショー」でスタジオジブリのアニメ作品が放映されますが、それに絡んで「ジブリの呪い」がしばしば話題となります。ジブリ作品が放映される夜は為替などの相場が荒れやすい……というアノマリー(経験則)です。
もちろん、ジブリアニメが何らかの影響をしているわけではありませんし、明確な理由はわかっていません。ただ、アメリカの雇用統計など重要指標は毎月第一金曜日の夜に発表されることから、ちょうど「金曜ロードショー」の放映時間と重なることが関係しているのでは、といった見方もあるようです。
ただ、インフレやアメリカの利上げで雇用統計以外にも海外の経済指標が常に注目されている近年の株式相場では「ジブリの呪い」が当てはまらないケースも多くなってきています。さて今年はどうでしょうか。
底堅さを見せられるか?
日経平均株価の過去データをもとに、8月相場の特徴をいくつかご紹介しました。
アメリカなどではインフレの進行に対して、住宅や消費などの経済指標に景気減速の兆しが鮮明となりつつあります。企業収益への影響も懸念される一方で、FRBがさらに金融引き締めを加速させるとの観測も後退し、金利上昇を嫌がって売られていた成長株(グロース株)にも買い戻しが入っています。
日本株についても、企業決算の結果次第ではありますが、悪材料の織り込みも進んでおり、夏枯れ相場の中で底堅さを見せる場面もあるかもしれません。水分補給を心がけながら、今年の夏も乗り切りましょう。