コーポレートガバナンスを見るときに思い出したい東芝のこと、セブンのこと

株の世界でも、「コーポレートガバナンス企業統治)」という言葉をよく見かけるようになりました。たしかに、統治体制がしっかりしていれば業績は上がり、それにともなって株価も上がっていくだろうと期待するのは自然なことかもしれません。

果たしてコーポレートガバナンスは、優良銘柄を見分けるための手がかりとなるのでしょうか? 良い施策をとっている企業は、本当に「買い」なのでしょうか?

コーポレートガバナンスとは?

「コーポレートガバナンス」とは、より良い経営づくりをするための仕組みのことです。日本語では「企業統治」と言われます。

より良い経営づくりとは、不正や社会的に不適格な経営を監視して防ぐのはもちろんのこと、「常にベストな経営をしているか?」「もっと業績や株主価値を高める経営はないか?」という視点をもって企業価値を向上させることが大前提となります。

2015年、金融庁と東京証券取引所は、実効的なコーポレートガバナンスのための原則をまとめた「コーポレートガバナンスコード」を発表しました。そこでは5つの基本原則が挙げられています。

  • 株主の権利・平等性の確保
  • 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
  • 適切な情報開示と透明性の確保
  • 取締役会等の責務
  • 株主との対話

こうした動きを受けて、企業側のコーポレートガバナンスへの意識は日に日に高まっています。

コーポレートガバナンスの仕組みと組織

良い経営を掲げたら、それをチェックし、監督してくれる役割もなくてはなりません。その機能を持つのが取締役会です。

取締役会は社内の事業部長や社長、外部の独立した監査役や社外取締役などで構成され、株主の利益代表として株主価値を最大化するような経営をするように、経営者をチェックします。そんな取締役会には、大きく分けて3つのパターンがあります。

  • 会計監査役だけを置く(監査役会設置会社)
  • 会計だけでなく人事や経営もチェックする委員会を置く(監査等委員会設置会社)
  • 監査、人事(指名)、報酬など幅広くチェックする役員を置く(指名委員会等設置会社)

会計監査だけをしてもらうのが最もスタンダードで、より大企業になるにつれて、人事や報酬、細かい事業部ごとの経営もチェックする体制に移っていくことが多いようです。いずれにしても、取締役会こそが経営の良し悪しを見極め、不適切な経営をチェックする組織なのです。

コーポレートガバナンスと株価の関係

コーポレートガバナンスがしっかりしているということは、経営を良い方向に導くための仕組みや取り組みがある、ということです。会社の統治体制がしっかりしているならば、経営は順調に行われ、不正もなく、業績は順調に伸びていき、それに合わせて株価も上がっていくはず……

という期待をもって、銘柄選びの際にコーポレートガバナンスに着目する投資家が増えています。他の企業に先駆けて先進的な統治体制を取っていることが、「優良銘柄」の条件のように語られることもあります。

しかし、いくら良い仕組みがあっても、実態が伴わなければ意味がありません。投資家の間でもコーポレートガバナンスが話題に上った2つのケースを見てみましょう。

・東芝<6502>の場合

かつては時価総額4兆円の超名門でしたが、2015年4月に不適切会計が発覚し、さらに、歴代の社長にわたって組織的に不正な会計処理をしていたことが明らかになりました。

本来、不正をチェックするはずの経営者が自ら悪事に加担していたというのは驚くべきことですが、もっと重要なのは、取締役会がこの事実を見抜き、防ぐことができなかった点です。

では東芝の統治体制が悪かったのかというと、実は、かなり先進的な取り組みをしていることで知られていました。いち早く社外取締役を導入し、他の企業に先駆けて、会計だけでなく経営や人事(指名)、監査、報酬などを幅広くチェックする役員も置いていました(指名委員会等設置会社)。

東芝は、いわゆる「コーポレートガバナンス先進企業」だったのです。それにもかかわらず不正がまかり通っていたのは、優れた仕組みは見せかけにすぎず、中身は全く機能していなかった、ということなのでしょう

・セブン&アイホールディングス<3382>の場合

鈴木敏文氏は、長年セブン&アイグループを率いてきました。今のコンビニエンスストア業界の礎を築いた人物といっても過言ではないでしょう。2016年4月、そのカリスマ経営者の引退が決まったのは、鈴木氏の人事案が取締役会で否決され、対立が生じたことが発端でした。

普通に考えれば、これほどの経営者が突然退陣するとなれば、今後の経営状況を心配して、株価は一気に値下がりしてもおかしくありません。しかし、このニュースが伝わった直後から、株式市場の対応は真っ二つに割れました。

今後を心配する声と同じくらい、「あれほど絶対的な権力を持っていると思われていた鈴木会長でさえ取締役会に逆らえないということは、コーポレートガバナンスがしっかり機能している証拠だ」として、この騒動を前向きに評価する意見があったのです。

セブン&アイホールディングスは、上場企業としてはもっともスタンダードな統治体制でした(監査役会設置会社)。にもかかわらず、強大なカリスマに「No」を突きつけたということで、コーポレートガバナンスそのものよりも、それがしっかりと機能していた点が市場に評価されたと言えます

安心して投資できる銘柄選びとは

東芝の例は、どんなに優れたコーポレートガバナンスでも、必ずしも機能するわけではないし、ましてや、それだけで安心して投資できるわけでもない、ということを教えてくれます。

コーポレートガバナンスは、企業価値を高めて、不正や不合理な経営を防ぐための手段です。その取り組みが企業価値を向上させ、株価上昇につながるかどうかは、別の問題なのです。

コーポレートガバナンスは、企業を評価する際のひとつの参考にはなりますが、それだけを決定打とするのは危険です。それよりも、自分の投資のあり方を理解し、それに見合った判断を下す知識とスキルを身につけることが、何よりも大切ではないでしょうか。 

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2018/06/05
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コーポレートガバナンスを見るときに思い出したい東芝のこと、セブンのこと」の著者
小田 静
[おだ・せい]「バリュー株大好き」な個人投資家。高校卒業後は一般企業に就職するも、ビジネスに目覚めて退職。商学系の大学に進学する。とある投資家との出会いから投資を学ぶうちに株式投資のとりこに。現在は、ひたすら経済ニュースを追いかけて、銘柄分析をすることが生きがい。
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