営業利益を気にしていると投資チャンスを逃すとはどういうことか?

石津大希
2021年1月8日 8時00分

《企業が出す決算発表のなかでも、営業利益の増減に注目する投資家は多いでしょう。しかし、売買後に株価が予想に反する動きを見せ、儲けを逃したり、損失を出してしまったりすることは珍しくありません。なぜ、このような事態が起こってしまうのでしょうか》

営業利益に振り回されるとチャンスを逃す?

皆さんは、興味のある株を売買する時、何を見て判断するだろうか。株価チャートやネット上の評判もひとつの情報源だが、やはり「決算」を見て決めるという人は多いのではないだろうか。

なかでも多くの人がよく見ていると感じるのが、「前期比・前年同期比の『営業利益』の動き」だ。実際、私のもとにも、決算における営業利益の増減を軸に株式投資を考えている人からの相談が多い。

営業利益はよく「本業の儲けを表す」と説明される。リターンを欲している投資家にとって、営業利益は企業が投資家のために稼いだお金をざっくりと表す、わかりやすい指標だ。そのため、営業利益に注目が向かうのは非常に納得がいく。

おまけに、営業利益を確認するのは非常に簡単だ。決算短信を開けば、1ページ目の上部に決まった形式で書かれている。こういった理由から、営業利益は多くの投資家に注目され、株を売買する時のメインの材料とされている。

(参考記事)いまさら聞けない「決算資料」の基本 知っておきたい読み方と使い方

しかし、個人投資家の中には「営業利益ばかり意識していたらチャンスを逃してしまった!」という経験をしたことがある人も、結構いるのではないだろうか。

たとえば、「前期の決算が営業赤字だったから見向きもしなかったけど、今期には大幅な営業黒字となり、株価が急騰した」といったケースだ。反対に、「増益の決算だから買ったものの、その後、株価が下がってしまった」ということもあるだろう。

なぜ減益なのか? その「背景」を知るべし

では、こうした事態を可能な限り避けるためには、何を意識すればいいのだろうか。結論からいえば、営業利益の増減の「背景」を知ろうとすることが重要だ。

「景気がよくなって売上が伸びて、営業利益も増えた」といったシンプルなケースならばわかりやすいが、なかにはもう少し「事情」を探る必要があるものもある。

たとえば、次のような表現は、多くの企業の決算で目にすることが多い。

  • 集客に向けて広告宣伝費を積み増した
  • 営業力強化に向け、採用費・教育費を増やして人材を強化した
  • サービス改善に向け、システム開発費を増やした

いずれも売上の拡大や将来を見越して、多額の先行投資をしたと考えられる。こうした先行投資には費用がかさむため、利益率は低下しやすい。場合によっては、前期比で営業利益が減少したり、赤字を計上したりといったこともある。

その場合、「利益が減った。だから売り!」というように考えるのは正解だろうか?

先行投資で減益か、投資を減らして増益か

もちろん、企業が先行投資のリターンを上げるのは将来の話であり、確実に費用に見合った儲けをあげられるとは限らない。だから、先行投資と将来リターンを考えた結果として、「売り」という判断を下すのはアリだろう。

しかしながら、特に株初心者の場合、「投資対効果はどうか?」という点を考えずに、営業利益の減少だけを見て売っている人も少なくないように感じる。なかには、そもそも先行投資であることすら把握せず、「なんか利益が減ったから売ろう」というやり方をとっている人もいる。

確かに、減益というのは一見すると悪く見えるが、先行投資のように将来リターンの〝種まき〟が原因となっているケースも多い。

先行投資をして利益の減った企業を「利益が減ったから」という理由だけで売るのは、たとえるならば、将来的な年収アップを目的に最近英語の勉強を始めたばかりの人に「成果は出たか? 年収は上がったか? 上がってないのならダメだ」と見切りをつけるようなものだ。

先行投資をすると損益が悪化するのはごく自然なことだ。しかし、営業利益ばかりを見ていると、そのことを忘れてしまうことがある。

反対に、先行投資を減らして増益となるケースもある。この場合、投資という攻めの行為にブレーキをかけて増やした利益は市場から好感されないことも多く、決算発表後に売りが続くケースがある。

いずれにしても、営業利益を意識し過ぎてしまうと、このように株の売買が営業利益の数字のプラス・マイナスに引っ張られがちとなる。その結果、買うべきでない銘柄を買い、売るべきでない銘柄を売るなど、チャンスを逃してしまうのだ。

・ロコンド<3558>

靴中心の通販サイトを運営するロコンド<3558>は、2017年に東証マザーズ市場に上場して以降、長らく営業赤字が敬遠され続けてきた。

なぜなら、企業規模が小さかったため人材への投資が必要だったほか、通販サイト運営のための広告宣伝費、通販・物流システムの革新を図るためのシステム投資などを活発に行っていたからだ。

企業側は、黒字化のめどを数値ベースのシナリオをもって比較的丁寧に説明していたが、やはり市場での評価は高まりづらく、株価も低迷していた。

しかし、2021年2月期の営業損益(会社予想)がついに黒字を計上。これを機に株価は急騰した。

株価の大きな動きの軸となったのは、やはり「営業黒字の計上」だ。しかし、同社のIRを随時追っていれば、この黒字計上はさほどサプライズでもなく、これまで説明されてきた事業戦略に沿ったシナリオのように見えただろう。

これまでの営業損失の背景を把握・理解し、同社がどんな先行投資を進めているのか、リターンはどのような理屈で得られる算段なのか、といったことに意識を向けていた投資家は、このチャンスを事前につかんで大きな利益に変えられたことだろう。

株価は「未来」への見通しで動く

もちろん、損益を削る投資が必ず将来のリターンにつながるわけではない。重要なのは、まずは先行投資によって損益が悪化するのは自然なことだと理解した上で、「では、その成果はどうなりそうか?」を考える癖を身につけることだ。

株価というのは「未来」の見通しで動くものだ。それに対して、営業利益というのは「過去」をベースにした材料に過ぎない。その数字の向こう側で、企業が未来に向けてどのような活動をしているかを把握することが、未来のリターンをもたらす銘柄を見抜くためには必要だ。

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[執筆者]石津大希
石津大希
[いしづ・だいき]外資系投資顧問会社で株式アナリストとして勤務したのち独立。ファンダメンタルズ分析の経験を生かして、客観的データや事実に基づく内容を積極的に発信。市場で注目度の高いトピックを取り上げ、深く、そして、わかりやすく説明することを心がける。
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