「決算短信」の見方は? いまさら聞けない基本の内容と活用法

佐々木達也
2019年7月31日 18時55分

企業が四半期ごとに発表する「決算短信」。売上高や利益について記載されているらしいけど、数字や項目が並んでいるだけでよくわからない……と思っていませんか? しかし、その数字によって投資家たちの思惑が揺れ動き、株価動向に影響を与えていることはご存じのとおり。決算発表資料とあわせて、決算短信のシンプルな読み方のポイントを解説します。

いまさら聞けない決算資料の基本

企業の決算期にはニュース・新聞等でも業績に関する話題が多くなりますが、それを自分で読み解くことができるようになれば、大きな武器になります。そのために活用できるのが決算資料です。

決算資料には、いくつか種類があります。

・決算短信

上場している企業は通常、四半期ごとに決算を行い、その四半期の業績がどうだったか速報として決算短信を発表しています。この決算短信は速報性を重視するため、決算日から45日以内に公表する決まりとなっています。

・有価証券報告書

速報性が求められる決算短信に対して、より詳しい内容の開示が求められるのが、有価証券報告書です。公表の期日も決算日から3か月以内と、決算短信よりも時間がかかってもよいことになっています。

・決算説明資料

決算説明資料は、企業が任意に作成する補足の資料です。決算短信や有価証券報告書のように義務づけられたものではありませんが、だからこそ、項目ごとに企業ごとの性格がよく表れる部分でもあり、読み解く楽しみもできます。

ここでは、初心者でもとっつきやすい「決算短信」「決算説明資料」の読み方について説明したいと思います。

決算短信の見方・読み方とは

決算短信は、証券取引所の適時開示ルールにしたがって企業が作成・提出する、共通形式の決算速報です。

決算短信は投資家の判断に影響を与えるような情報を速やかに開示することが目的なので、その書式もわかりやすいものになっています。そのため、決算短信では、ほぼ1ページ目にすべてが記載されている、と言ってもいいくらいです。

ここからは実際の決算短信を見ながら読み方を説明しましょう。決算短信は企業のホームページから入手できるほか、適時開示情報閲覧サービス(TDnet)などでも検索可能です。

以下は、富士フイルムホールディングス<4901>の2019年3月期(本決算)の実際の決算短信です。

(画像をクリックすると実際の決算短信をご覧になれます)

1.何よりもまず赤字 or 黒字をチェック

上の赤枠のエリアでは連結経営成績、つまり前期の1年間の業績はどうだったのかが示されています。

連結経営成績には、当期および前期分の売上高、営業利益、経常利益、当期純利益の項目が記載されます。

企業の決算は、まず製品やサービスを販売・提供して得られた売上高を起点とします。そこから原価や広告宣伝費などの販売管理費を引いて、本業の利益である営業利益が算出されます。

さらに支払利子や税金、その他の損益などを差し引きして、最終的に株主のものになる当期純利益が算出されます。この当期純利益を発行済み株数で割れば、株価の判断基準となる1株当たり利益EPS)が求められます。

ほかに分析指標として、決算短信には自己資本当期純利益率、総資産経常利益率、売上高営業利益率といった重要な項目が記載されています。

決算短信を見るときは、何よりもまず終わった1年間が黒字だったのか赤字だったのか、売上や利益の伸びはどの程度だったのか、利益率は良かったのか……など項目ごとの結果を確認します。

2.企業の財政状態の読み方

次に緑のエリアを見てみます。ここには、企業の連結財政状態が1年前と比べてどう変化したのかが示されています。

連結財政状態の項目には、企業全体の資産の額や、株主の持ち分である自己資本の額が表示されています。ここに表示される株主資本比率は自己資本を総資産で割った額で、企業の財政の健全度を表しており、この比率が低い(20%以下など)場合は要注意信号です。

3.キャッシュフローの状態の読み方

さらに青のエリアでは連結キャッシュフローの状況、つまり現金がどのように動いたのかが示されています。

特に本業で稼いだ現金の額である営業キャッシュフローがマイナスのときは、事業の結果、現金が減ってしまっていることを意味しますので、その背景にはどのような事情があったのかを詳しく精査する必要があると判断できます。

4.株価にも影響する今期の業績予想

最後に黄色のエリアでは、今期の会社の連結業績予想が示されています。連結業績予想も売上高や営業利益などを用います。

この項目は企業や業種によっては開示していない場合もありますが、この会社予想とアナリストによる市場予想の水準によって、株価が上下する場合があります。特に本決算の場合、終わった期の業績はすでに株価に織り込まれていることも多いため、それよりも今期の業績予想の先行きに対する注目度が高くなります。

決算短信の1ページが株価を動かす

決算短信の2ページ目以降には、これらの項目が細かく記載されています。内容を読み込むには決算状況のポイントを抑えることが大切なため、決算短信の1ページ目の見方に慣れれば、決算短信2ページ目以降の内容も理解しやすくなります。

一見、数字が並んだ資料ですので、ひょっとすると苦手意識を持っている人もいるかもしれませんが、こうして分解してみると決算短信は実にシンプルであることがわかります。

まずは連結経営成績、連結財政状態、連結キャッシュ・フローの状況、連結業績予想の要点に注目して読み解いてみましょう。

決算短信は、一般投資家でも簡単に見られる資料ですので(そのために開示されています)、ぜひ日頃からチェックし、読み方を鍛える習慣を身につけたいものです。

決算短信の発表時期

決算短信は四半期ごとに発表されますが、四半期とは具体的にいつなのでしょうか。

日本企業に多い3月期決算の企業の場合、4〜6月期を第1四半期、7〜9月期を第2四半期、10〜12月を第3四半期、1〜3月を第4四半期と呼びます。

まず3月末で通期の決算短信が確定し、4月下旬を目処に前期の通期決算や今期の業績見通しが発表されます。

その後、7月下旬〜8月上旬に第1四半期の決算短信、10月下旬〜11月上旬に上半期(第1四半期・第2四半期)の中間決算短信、1月下旬〜2月上旬に第3四半期決算短信が開示されます。

ちなみに上場企業は四半期ごとに決算短信を開示することを義務付けられ、決算短信の開示時期が遅れる場合、すみやかに理由と開示時期の見通しを発表しなければなりません。

ただし、決算月をいつにするかは企業が自由に決めることができるので、決算短信の開示時期は企業により異なります。事前にホームページなどでよく確認しましょう。

決算説明資料の活用法

決算短信とあわせて活用したいのが決算説明資料です。企業が投資家に伝えたい項目を要約して記載した資料で、写真や図などを活用しているため、決算短信よりわかりやすい項目・内容になっています。これも、実際の資料で読み方のポイントをお伝えします。同じく、富士フイルムホールディングスの決算発表資料を参考にしましょう。

決算数値の原因や背景を知る

たとえば2ページを見ると「富士フイルムホールディングスの2019年3月期の決算はメディカルシステムなどのヘルスケア事業の増収やドキュメント事業などの構造改革効果により、過去最高益であった」と記載され、決算数値だけでなく、その背景までが一目でわかるようになっています。これが、決算短信との大きな違いです。

また、セグメントの概況もわかりやすく記載されています。利益を牽引している、もしくは採算が大きく悪化しているセグメントは何であるかを把握しておくと、より企業の決算状況を理解しやすくなります。

決算のポイントや企業の方向性がわかる

上は富士フイルムホールディングスの今期の予想です。予想の業績数値だけでなく、ヘルスケアとドキュメントのセグメントの収益力向上によって営業利益目標を上乗せし、今期も最高益更新が予想されていることがひと目でわかります。

輸出企業などの場合には、想定為替レートなどの前提も記載されています。このように決算説明資料は、決算のポイントや企業の方向性をざっくりとつかむのに役立ちます。

決算説明資料の注意点

いろいろな情報を得ることができる決算説明資料ですが、注意しておきたい点があります。それは、決算説明資料は企業が自由に作ることができる資料だという点です。

決算短信や有価証券報告書は取引所や金融商品取引法のルールに従って作られており、開示する項目もおおよそ決まっています。企業にとって不利なことでも開示しなければならない義務があります。

一方で、決算説明資料はあくまで決算短信などの補足資料なので、基本的には載せる項目なども企業の自由に作ることができます。そのため、企業にとって不利なデータなどは資料に記載されていない可能性があります。

参考にするときは、任意の資料であることを常に念頭に置いた読み方をしたほうがいいでしょう。

ネットで見られる決算説明会とは?

企業が決算の内容を発表した際に、決算短信などの書類を開示するだけでは伝わらないことも多いため、マスコミやアナリストを対象に決算説明会を開催しています。

説明後は質疑応答の時間が設けられており、売上や利益の見通しなど市場の関心のあることが質問されることもあります。企業の解答内容によっては相場に影響を与える場合もあり、IR活動に力を入れている企業などでは、この説明会の模様がインターネットで配信されていることも多くなっています。

以前は限られた一部のアナリスト向けに開催されているだけだった決算説明会ですが、フェアディスクロージャー(情報の平等な公開)が浸透しつつあり、機関投資家やアナリストと個人投資家の情報格差は埋まりつつあります。

決算短信を見て気になる企業があれば、ぜひ一度見てみると、経営陣の様子などもわかり、大いに参考になるでしょう。

決算短信・決算説明資料を上手く活用しよう

企業によって発表された決算短信や決算説明資料が株価変動の要因になることがあるとはわかっていても、読み方がサッパリわからず、ニュースやネットで記載されている内容を頼りにしている人も多いでしょう。

しかし、同じ決算短信であっても、その読み方は人によりさまざまです。自分の投資の利益となる重要な情報は、自ら積極的に読み取ったほうがいいのではないでしょうか。

決算短信と決算説明資料は、どちらもそれぞれの特徴を把握して上手く使い分けることができれば、企業の業績を知る上で便利なツールとなります。

  • 終わった前期の業績はどうだったか?
  • 業績好調(不調)の要因は何だったか?
  • 今期の業績はどのような見通しか?

まずは、このように決算短信に記載された項目の内容をかみ砕いて眺めてみるだけでも、これまでとは違った判断を下せるようになると思います。決算短信・決算説明資料はせっかく投資家のために開示されている資料ですから、大いに活用して、利益につなげていきたいものです。

[執筆者]佐々木達也
佐々木達也
[ささき・たつや]金融機関で債券畑を経験後、証券アナリストとして株式の調査に携わる。市場動向や株式を中心としたリサーチやレポート執筆などを業務としている。ファイナンシャルプランナー資格も取得し、現在はライターとしても活動中。株式個別銘柄、市況など個人向けのテーマを中心にわかりやすさを心がけた記事を執筆。
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