新NISAにも恩恵 SBI証券・楽天証券の取引手数料無料化がもたらす意外なメリットとは

山下耕太郎
2023年10月26日 15時00分

Phoophinyo / Adobe Stock

10月からSBI証券と楽天証券の国内株式手数料が無料化になりました。手数料無料化の背景と、今後の資産運用はどう変わるのかについて解説します。

SBI証券と楽天証券が手数料無料化

SBI証券と楽天証券は、国内株式の取引手数料の無料化を発表しました。現物取引と信用取引の手数料が撤廃され、SBI証券は9月30日から、楽天証券は10月1日から無料になりました。

SBI証券と楽天証券の個人向け株式委託売買代金は7割以上を占めています。手数料無料化により、ネット証券の「2強」が競合各社に与える影響も大きくなりそうです。

ただ、手数料無料化については、SBI証券と楽天証券以外のネット証券は距離を置く姿勢を示しています。マネックスグループはアセットマネジメントを重視し、資産管理ビジネスに注力する方針です。松井証券も現行の手数料体系を維持し、無料化には追随しない考えです。

しかしながら、マネックス証券は来年からスタートする新NISAのすべての手数料(日本株・米国株・中国株・投資信託)を無料にすると発表し、松井証券も新NISAでの日本株、米国株、投資信託の手数料を無料にすると発表しています。

こうした動きは、対面営業を主力とする証券会社にも影響を及ぼすでしょう。ネット取引が無料化されると、対面取引の価値がさらに問われることになるからです。

SBI証券は個人顧客を増やして全体の収益を拡大しようとしています。2024年からの少額投資非課税制度(NISA)の拡充や物価上昇を受けて、資産運用の需要が高まっています。証券各社は顧客に提供できる利点を明確に示すことが求められるでしょう。

SBI証券が無料化に踏み切れた理由

SBI証券が売買手数料を無料化できる理由は、それ以外の収益が大きくなっているからです。

証券会社の収益は一般的に取引手数料(委託手数料)が主要な要素とされていますが、SBI証券は不動産金融事業やストック型ビジネス、FX事業、外国株取引サービスなど、収益源を多様化してきました。その結果、委託手数料は2023年度3月期で営業収益全体の22.5%にまで低下しています。

この計算によれば、手数料分の利益を失っても、手数料無料化による顧客の増加でカバーできる、と考えているわけです。

SBI証券の北尾吉孝社長は、「口座を開設した顧客がさまざまな取引を行ってくれることで収益を得ることができる」と述べています。さらに、ビッグデータなどを活用して他のグループ会社に顧客を紹介することも計画しています。

なお、アメリカではロビンフッドなどのネット証券は、預り金を利用した金利収入や特定の取引所からのキャッシュバックが主な収益源となっていますが、これらは日本の環境では実現が難しいでしょう。SBI証券は、アメリカとは異なる方法で取引手数料の無料化を実現しようとしています。

単元未満株で株式投資を始める

SBI証券と楽天証券の日本株の現物取引は、これまで取引金額に応じて50~1000円強の手数料が必要でした。しかし、これらの手数料がなくなりました。これは、2024年1月から始まる新NISA(少額投資非課税制度)の導入を見越して、増加が予想される個人投資家を取り込む狙いがあります。

たとえば、これまで株式を取引したことのない人も、「単元未満株」で気軽に取引を始められます。

通常、日本の株式市場では、取引の最小単位である「1単元」は100株です。したがって、単元未満株は「100株に満たない数量の株式」のことを言います。このような株式は、株式分割、会社の合併、減資、子会社化などの出来事によって発生することがあります。

単元未満株は主に、小口の投資家や初心者投資家にとって魅力的であり、1株など少額から投資を始めることができます。一方で、手数料が相対的に大きくなることがデメリットでした。しかし、単元未満株も手数料が無料になったことで、気軽に売買できるようになったのです。

2024年から始まる新NISAに向け、ネット証券各社は、1株単位で株式を売買できる単元未満株のサービスに力を入れています。日本株は「1単元(100株)」での売買が基本で、銘柄によっては数百万円の資金が必要です。しかし、単元未満株なら数百円から取引が可能になります。

新NISAの成長投資枠では株式の売買が可能ですが、最低投資額の引き下げは進んでいません。単元未満株が若年層の取引を呼び込み、「貯蓄から投資」へのカギとなる可能性は高いと考えられます。

日本にもっと投資を

日本の株式市場での投資には「単元株」という制約があります。それに対してアメリカの株式市場では、1株から取引が可能です。そのため、大きな資産を持たない若者でも気軽に株式投資を始めることができます。

株式投資には経験が必要で、失敗も付き物です。高齢になって退職金をもらってから始めるよりも、若いうちから、少額でもいいので取引を始めておくほうが資産形成に役立ちます。さらに、株式の購入を通じて経済全体に興味を持つこともでき、金融リテラシーの向上にもつながります。

SBI証券や楽天証券での取引手数料無料化によって単元未満株の取引がしやすくなったことは、日本社会に投資が一層広まっていくための、非常に良い流れになるのではないでしょうか。

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[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
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