「風説の流布」をざっくり解説 安易な書き込みで懲役10年の可能性も!
その書き込みは大丈夫?
「あの会社、そろそろヤバいらしいよ」 「○○社が△△社を子会社化するって知ってる?」──さすがは情報通!と周りから認めてほしい気持ちはわかりますが、その情熱がいきすぎるあまり、根拠が薄弱な情報まで流していませんか?
SNSなどで個人の発信力が高まるにつれて、個人投資家はある〝罪〟を冒すリスクが高まっています。それは「風説の流布(ふうせつのるふ)」。掲示板などにウケ狙いであれこれ書き立ててしまうくせのある方は、法律のぬかるみに足を取られる危険性があるので、くれぐれもご注意ください。
「風説の流布」とは?
ありもしない噂を流したり特定の誰かを騙したり脅したりすることによって、ある株式に対する世間の評価をゆがめることは、金融商品取引法158条によって禁じられています。
第百五十八条(風説の流布、偽計、暴行又は脅迫の禁止)
何人も、有価証券の募集、売出し若しくは売買その他の取引若しくはデリバティブ取引等のため、又は有価証券等の相場の変動を図る目的をもつて、風説を流布し、偽計を用い、又は暴行若しくは脅迫をしてはならない。
ゆがめられた評価によって相場が変わってしまったら、もはや取り返しが付かなくなるからです。株式相場に及ぼす悪影響が大きいことから、株式市場に関連する「風説の流布」や「偽計(ぎけい)」などは厳しく禁止されています。
では、具体的にどのような行為が違法となるのでしょうか。
「風説の流布」の定義
「風説の流布」という言葉は、2006年に大きく動いた「ライブドア事件」の報道で頻繁に使われました。要するに、株式やその発行会社について、ありもしない噂を流すことですが、金融商品取引法違反の犯罪行為でもありますので、合法と違法の線引きは明確にしておかなければなりません。
ここで「風説の流布」の定義を正確に押さえておきましょう。
「風説」ってどんなこと?
「風説」とは合理的な根拠のない事実をいい、多くの場合は、嘘や大げさな表現が混じった事実を指します。たとえ言いふらした内容がたまたま事実だったとしても、合理的な根拠なく言いふらしていたなら、それは「風説」に該当します。
ただし、個人のブログなどで特定の銘柄について「とにかく買いだ!」と推しまくることは、風説の流布には該当しません。たとえ根拠のない推奨や予想であっても、それはあくまで「合理的根拠のない意見」であって、「合理的根拠のない事実」には当てはまらないからです。
「流布」ってどんなこと?
「流布」とは、不特定または多数の者に伝達することを意味します。 最初は特定かつ少数の人に限定して告知していても、やがて噂が噂を呼んで不特定多数の人々へ伝達される可能性があり、発信者本人もその可能性を認識していたのならば、「流布」に該当します。ご注意ください。
インターネットへの書き込みは、その性質上、書き込んだ瞬間に「流布」になると考えられています。 また、メディア記者のみに立ち入りを限定して会見を開くことも、その後に報道されることが当然に予測される状況ならば「流布」となります。
「偽計」「暴行」「脅迫」の定義
先の条文を見るとわかるように、「風説の流布」とあわせて禁止されているのが「偽計」「暴行」そして「脅迫」です。それぞれについて解説しましょう。
「偽計」とは?
「偽計」とは、他人に誤解を生じさせる詐欺的な行為、あるいは不公正や策略・手段だとされます。
不特定または多数人に向けて、ありもしない話を流す「風説の流布」と違って、偽計は特定・少数の人に向けて行われることでも成立します。インターネットを使わず、対面でのコミュニケーションも含むのです。
一方、積極的に嘘を告げるのでなく「真実をあえて告げない」ことは、偽計には該当しないとされています。
ただし、法律上あるいは個別の契約などで、契約の相手方への情報提供義務や情報開示義務が課されている立場であれば、「真実をあえて告げない」ことは詐欺的な態度であり、偽計と評価される可能性があります。
「暴行」とは? 「脅迫」とは?
「暴行」は、不法な有形力の行使を人または物に対して行うこと全般をいいます。また「脅迫」は、人を畏怖させるに足りる害悪の告知をいいます。
いずれも、刑法で定められた暴行罪(208条)や脅迫罪(222条)とほぼ同じだといえるでしょう。
故意でも処罰されないこともある
ちょっと特殊なのですが、風説の流布罪や偽計等罪は「目的犯」と呼ばれる犯罪です。この場合、故意に加えて、「相場の変動を図る目的」がなければ処罰の対象にはなりません。
冒頭でも説明したとおり、犯行の悪影響によって変動した相場は、あとからでは取り返しが付かないために厳しく処罰されます。
その代わり、相場を変動させようという目的がない行為は処罰の対象から外しておくことで、できるだけ自由で風通しのいい相場環境を確保しようとしているのです。
ただし、たとえ相場変動の目的がない場合でも、その結果として他人の権利や利益を害した場合には、損害賠償などの民事的な責任を負うことがあります。
3つのペナルティ
風説の流布や偽計等は法に触れる行為ですので、当然ペナルティが科されます。 可能性があるペナルティとして「刑事責任」「民事責任」「課徴金(行政責任)」の3つを挙げることができます。
刑事責任(犯罪行為に対する処罰)
起訴されて裁判によって有罪と認定された場合、懲役1カ月~10年、もしくは罰金1万円~1000万円が科されます。悪質な場合は、懲役刑と罰金刑が両方とも併科されることもありえます。
なお、相場変動の目的に加えて「自分が財産上の利益を得る目的」で実行したと認定された場合には、刑が加重されます。罰金刑の最高が3000万円まで引き上がるのです。
当初は、愉快犯のようにして風説の流布などを行ったとしても、結果的に相場が変動し、実際にその相場に沿って取引を実行した事実があれば、「財産上の利益を得る目的」があったと認められて、刑が加重されることになっています。
さらに、不正に取得した財産上の利益は没収、ないし追徴されます。
民事責任(不法行為としての損害賠償支払い義務)
他人に具体的な損害を与えた場合は、一般不法行為(民法709条)の損害賠償責任を負うことになります。
この民法709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています。
つまり、風説の流布や偽計によって、他の法人や個人の権利や利益を侵害した事実があり、その被害を訴え出た人がいるならば、交渉や裁判の末、その埋め合わせとして金銭賠償(弁償)を行わなければなりません。
過失による場合も含まれる一方で、相場を不正に変動させただけでは民事責任を負わない可能性もあります。民事責任が問われる場面と刑事責任が科される場面が少し異なるため、どちらか片方のみのペナルティにとどまることもありうるのです。
行政責任(課徴金)
検察や警察の捜査対象とならなくても、金融庁直属の証券取引等監視委員会が独自に捜査して、経済的なペナルティを与えることがあります。罰金刑とは違って前科や前歴が付くわけではありませんが、捜査が入ったことが勤務先に発覚すれば、懲戒処分がくだるおそれがあります。決して侮れません。
2008年以前は、風説の流布に対して課徴金を課すための要件が厳しかったために、実際に課された事例が少なく、法的に十分な抑止力がありませんでした。
しかし、相場が変動しなくても「何らかの影響を与えた」事実があれば、風説の流布や偽計等にも課徴金を課すことができるよう、法改正が加えられています。くれぐれも安易な発信にはご注意ください。