そろそろ中小型株の出番? 出遅れていたグロース市場を巡るあれこれ
日経平均株価がバブル期以来の高値を更新したことで、相場環境が良くなっています。この急ピッチな上げに対して、最近では、年金基金などの機関投資家による利益確定の売りも入ってきてはいますが、日本株の先高感はなおも続いています。
相場全体に底上げムードが広がるなか、出遅れていた中小型株にも資金が向かっています。そこで、新興株の市場と指数について整理しつつ、グロース株を巡る直近の相場状況について見ていきたいと思います。
東証グロース市場とは
東証グロース市場は、2022年4月の東証再編によって新たに誕生した市場です。従来のジャスダックとマザーズを合わせたような、新興の成長企業を対象としています。
東証の市場区分では「高い成長可能性を実現するための事業計画」を有している企業が対象とされていますが、事業計画の観点から相対的にリスクが高い企業に投資する機関投資家や個人投資家のための市場とも定義されます。
上場のための基準も3つの市場の中でもっとも緩く、流通株式比率は25%以上、株主数は150人以上、流通株式時価総額は5億円以上などとなっています。
赤字でも上場できるグロース市場
特に、プライム市場やスタンダード市場の新規上場基準には「純資産額が正であること」や直近1年間の利益基準が定められているのに対して、グロース市場では債務超過や赤字の企業でも上場できるのが大きな違いです。
例えば新興のバイオベンチャーなどは、創生期には、研究開発コストがかかる一方、売上高がほぼないこともあります。こうした企業でも資金調達することができるのがグロース市場なのです。
グロース市場の時価総額上位にある主な銘柄を見ていくと、第1位は「ビズリーチ!」のCMでおなじみの転職・人材サービスのビジョナル<3231>で、時価総額は約3200億円です。
次いで、M&A仲介のM&A総研ホールディングス<9552>、Vチューバータレントのマネジメントを行う「ホロライブプロダクション」のカバー<5253>、クラウド型人事・会計ソフトのフリー<4478>などの銘柄が、上位に名を連ねています。
新興株を表す2つの指数、その違い
東証グロース市場に上場する銘柄で構成される東証グロース市場指数は、6月21日に1100ポイントの高値を付け、年初来高値を更新しました。
新興株の状況を表す指数として、報道などでは東証マザーズ指数も依然としてよく使われています。こちらも同じく6月21日に年初来高値871ポイントを付けましたが、2020年10月の高値1368ポイントから比べると、まだ約4割ほど下回っています。
東証グロース市場指数は、時価総額加重方式で算出されます。市場がスタートした2022年4月1日時点の全銘柄の時価総額の合計値を1000として、対象の時点の時価総額合計から除算するのです。当然のことながら、グロース市場が誕生する以前のデータはありません。
そこでデータの連続性を持たせるために、マザーズ指数の算出が続けられています。マザーズ指数は指数先物取引の指標としても用いられていることもあり、市場自体はグロース市場などに鞍替えしてなくなりましたが、指数としては広く使われ続けているのです。
マザーズ指数はまもなく終了
しかしながら、グロース市場指数の採用銘柄が約530程度であるのに対して、マザーズ指数の採用銘柄は294銘柄に過ぎません(2023年4月時点)。
実は、マザーズ指数は、時価総額の小さい銘柄などを段階的に除外していき、2023年11月には「東証グロース市場250指数」に変更することが決まっています。
昨年10月の定期入れ替えで除外が決まった銘柄については、およそ3か月ごとにウエイト(算出比率)が低減されて、この4月にはゼロとなりました。その結果、2つの採用銘柄数に200銘柄ほど差が出ているのです。
ただ、11月に変更となる東証グロース市場250指数も、引き続き、新興小型株のベンチマーク(基準)として、東証グロース市場指数とともに使われることになりそうです。
グロース株が出遅れていた背景
今年3月からの日経平均株価の上場相場では、グロース市場の銘柄は出遅れの動きとなりました。
今回の上昇相場は、日本の脱デフレや収益改善、日銀の緩和政策継続に期待をよせた海外投資家を中心に買いが入ったことによります。ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイが5大商社株を買い増ししたように、関心の矛先は日本を代表する大型株がメインでした。
中小型株の場合、こうした大きな資金による買いを受け止められるだけの売り物がないことも、上昇相場においてまずは大型株が選好される理由のひとつです。金利の上昇や財務面で大型株に見劣りすることも、理由として挙げられるでしょう。
いま買われているグロース株
では、今年のグロース市場で買われている銘柄は、どのような銘柄でしょうか。
2022年末から大幅に上昇した銘柄を見てみると、例えば、企業向けにAIを活用したシステム構築やコンサルティングを行うヘッドウォータース<4011>が当てはまります。チャットGPTなどの生成AI関連としても買われ、株価は約7.6倍と大きく上昇しています。
次に大きく上がった銘柄は、サブスクリプション型英会話学習サービスのプログリット<9560>で、株価は昨年末から5.3倍です。6月20日には上場来高値となる7500円を付けて昨年末から10倍、いわゆるテンバガーを達成していましたが、その後は利益確定売りで大きく下げています。
2022年に政府が人材の活用・流動化のため個人の学び直し(リスキリング)に5年間で1兆円を投じると表明したことを受けて、リスキリング関連銘柄として買われていました。
ラストワンマイル<9252>は、引っ越しなどで面倒な電気やガスなどのインフラサービスの契約手続き代行サービスを展開しています。ウォーターサーバーや光回線の販売代行も伸びており、株価は昨年末から5.2倍と大きく上昇しました。
2021年にIPO(新規株式公開)したばかりの比較的若い銘柄です。公開価格1710円に対して初値2520円と公開価格を47%上回りました。その後は人気が離散し、株価も500円台まで低迷していましたが、業績の伸びなどもあり、再び初値を上回る「リベンジ」に成功した銘柄のひとつでもあります。
このほかに、セキュア<4264>は昨年末から株価が5倍になりました。監視カメラなど入退室や勤怠管理システムを手がけています。AIによる顔認証システムで、企業からの防犯やデジタル化のニーズも高まっており、業績が伸びています。
相場が次に狙うのは中小型株?
グロース市場で上がった銘柄を見てみると、AIやリスキリングなど市場が好む“ど真ん中”の銘柄が多く、人気だけでなく、業績の拡大も株価上昇を支えています。
これらは、半年ほどで株価が数倍に値上がりするような銘柄ですので、チャートも強い右肩上がりを描いています。こうした銘柄に投資する投資家には、株価が乱高下しても銘柄を信じて保有し続ける忍耐力、いわば「ホールド力」が試されると言えるでしょう。
JPXが公表している投資主体別売買動向によると、グロース市場のメインプレイヤーである「個人」は、現物の売り越しが10週以上にわたって続いています。売却した資金は、証券会社のMRF(マネーリザーブファンド)などに待機資金として滞留している可能性もあります。
大型株が調整ムードとなっている今、相場は次の物色銘柄を探しています。こうした地合いだからこそ、中小型株に目を向けてみると、思わぬお宝銘柄が見つかるかもしれません。