やっぱり強いAI関連。なんとか連勝記録を延ばした10月のIPO市場を振り返る

石井僚一
2022年11月9日 12時00分

《「確実に儲かる」として個人投資家に人気のIPO株投資。ただ近年は、そんな「夢の時代」にも陰りが見えてきました。上がる株と下がる株は何が違うのか。ランキングから読み解く【IPO通信簿】》

2022年10月のIPO市場

10月は9銘柄がIPOを行い、全銘柄で初値が公募価格を上回りました。不振が続いた2022年のIPOですが、10月はマザーズ指数の上昇もあり、IPOの連勝記録は23まで伸びています。

例年通り、今年も9月からIPOの後半戦がスタートしています。7月までのIPOは、約3割が公募割れで不調が続きました。しかし8月と9月は、IPO全銘柄で初値が公募価格を上回り、復調していると言えそうです。

そして10月は、IPO市場の土台ともいえるマザーズ指数も上昇しており、月足は陽線を形成しました。

それでもマザーズ指数は、2022年の安値圏を前後する状態です。1月の急落と4~5月の再下落からの本格的な反発は見せておらず、依然として底値圏での値動きに留まります。ただし、10月の上昇で底値圏の上限付近には到達しました。

(※市場再編により東証マザーズ市場はなくなりましたが、マザーズ指数の算出は継続中のため、このシリーズでは引き続きマザース指数を参照しています)

2022年10月のIPOランキング

2022年10月にIPOを果たした9銘柄について、公募価格に対して初値がどれだけ上昇(あるいは下落)したかを表す「初値騰落率」のランキングを見てみましょう。

9銘柄すべてにおいて初値が公募価格を上回り、公募割れはありませんでした。また、初値騰落率が100%(=株価2倍以上)を超えたのは、9月と同じく2銘柄となりました。

10月も公募割れがなかったことで、8月から公募割れゼロの状態が続いており、7月末の3銘柄を含めるとIPOの連勝記録は23にまで伸びています。

2022年10月の気になるIPO銘柄

2022年10月のIPOのなかから、特徴ある2銘柄を紹介します。

・pluszero<5132>──AI銘柄の強さは健在

開発型のAIソリューションを提供する企業で、受託開発により赤字額を抑えながら事業を展開しています。また、VCなどの投資ファンドから資金調達を行わずにIPOに至りました(ただし事業提携先に対し第三者割当増資を実施)。

過去の業績と今期(2022年10月期)業績予想は以下のとおり。

  • 2019年10月期:売上高0.8億円、経常利益0.1億円、当期純利益0.1億円
  • 2020年10月期:売上高3.8億円、経常利益▲0.2億円、当期純利益▲0.2億円
  • 2021年10月期:売上高5.0億円、経常利益▲0.7億円、当期純利益▲0.7億円
  • 2022年10月期(予想):売上高7.2億円、経常利益1.1億円、当期純利益1.1億円

増収を続けるなかで、今期は増収に加えて黒字化を予想しています。すでに第3四半期で黒字化(経常利益0.9億円)しており、通期黒字化に目処が立った状態です。

IPOの旬のテーマである「AI」という事業内容、手堅い黒字化予想、さらにVCなど投資ファンドの出資がない、というIPO投資の好条件が揃った銘柄でした。その結果、初値騰落率は130%となり、10月のナンバーワンとなりました。

公募時点で予想PER29倍と若干高めの株価設定でしたが、各条件が好感され、初値が伸びました。ただし初値時価総額は90億円台であり、100億円には一歩届いていません。マザーズ指数やIPO市場が堅調なら、時価総額100億円突破の可能性は充分あったと考えられます。

IPOの好条件が揃った銘柄の成功事例であり、また、引き続きAI関連銘柄の強さを再確認できる銘柄となりました。

・ソシオネクスト<6526>──株価を抑えて公募割れを回避

パナソニックホールディングス<6752>と富士通<6702>からの半導体事業のカーブアウト(事業分離)企業です。2015年3月に現在の形態での事業を開始しました。自社工場を持たない「ファブレス」で半導体の開発を行っています。

近年の業績は以下のとおりとなっています。今期は大幅な増収増益を予想していますが、第1四半期で経常利益66億円となり、堅調なスタートを切っています。

  • 2020年3月期:売上高1,026億円、経常利益22億円、当期純利益21億円
  • 2021年3月期:売上高997億円、経常利益19億円、当期純利益14億円
  • 2022年3月期:売上高1,170億円、経常利益90億円、当期純利益74億円
  • 2023年3月期(予想):売上高1,700億円、経常利益170億円、当期純利益130億円

大手企業のカーブアウト企業であり、主要株主は富士通(株式シェア39%)、日本政策投資銀行(37%)、パナソニック(15%)です。

IPOにあたって公募はなく、売出のみのIPOでした。売出のみのIPOは、ファンドのイグジット(出口)案件を中心に、公募割れのケースが多くなります。

しかし同社は、初値騰落率5%で見事に公募割れを回避。今期の良好な業績予想に加え、公募時点での予想PERが9.4倍と、他の半導体銘柄(たとえばローム<6963>予想PER12倍)に比べて低めの設定にしたことが功を奏しています。

公募時点で時価総額1000億円を超える大型銘柄であり、こういうケースでは機関投資家を中心に、類似銘柄との比較が重視されます。そこで、売出のみの銘柄ながら株主側が欲を出さずに株価を抑えた結果として、初値騰落率は低いながら公募割れを回避することに成功しました。

なお、初値3835円をつけた後はさらに買われており、11月7日には6300円の高値をつけました

11月も記録更新なるか

マザーズ指数の上昇の後押しもあり、10月のIPOも公募割れはありませんでした。ただし、ソシオネクストの抑え気味のIPOに見られるように、発行体の努力で公募割れを防いだ側面も否定できません。

アメリカの株式市場や日経平均株価は10月後半から上昇を見せており、株式市場は堅調を維持して11月相場をスタートしました。そんな11月は、5件のIPOが予定されています。市場の上昇がIPOにも好影響を与えることになるのか、公募割れゼロ記録更新の行方とともに注目されます。

[執筆者]石井僚一
石井僚一
[いしい・りょういち]ベンチャーキャピタル勤務を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析などを得意とし、複数の媒体に寄稿中。なかでもIPO関連の執筆を数多く手がけており、IPO企業の目論見書のほとんどに目を通している。
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