4割が公募割れ! 光の閉ざされたIPO市場でも人気化したAI関連銘柄に大注目【IPO通信簿】
《「確実に儲かる」として個人投資家に人気のIPO株投資。しかし近年、そんな「夢の時代」にも陰りが……。IPOで上がる株と下がる株は何が違うのかをデータから読み解きます》
6月は東証マザーズ指数の上昇を背景に、IPO銘柄の半数以上が初値騰落率100%(=2倍)超となりました。しかし7月は、マザーズ指数の下落とともに公募割れが4割も発生し、一転して厳しい状況となっています。そんな7月のIPO市場を振り返ります。
反落したマザーズ指数
7月は、日経平均株価が32000円台を中心に横ばいになるなど、日本株市場は6月までの上昇が一服しました。
マザーズ指数は日経平均株価などに比べて上昇が遅れていたものの、6月には比較的大きな上昇を見せまていました。しかし、7月には6月の上昇のほとんどを戻す下落に見舞われ、2022年2月から続く安値圏に再び戻りつつあります。
低迷が続くなかで、6月には陽射しが見えてきたかに思えたマザーズ指数ですが、その光は6月限定だった……? ともいえる状態です。
2023年7月のIPOランキング
マザーズ指数が堅調に推移した8月は、全18銘柄がIPOを果たしました。対して7月は、マザーズ指数は反落したものの10銘柄がIPOを行い、IPO自体は順調に行われています。ただ、2銘柄が上場を取り下げています(フラー、ホロスホールディングス)。
7月にIPOを果たした10銘柄について、公募価格に対して初値がどれだけ上昇(あるいは下落)したかを表す「初値騰落率」のランキングを見てみましょう。
公募価格に対して初値が2倍以上(騰落率100%以上)になったのは4銘柄ありました。業種的には航空部品1銘柄、AI関連3銘柄で、引き続き、IPO市場ではAI関連銘柄が人気化していることがわかります。
一方、初値が公募価格を下回る公募割れは4銘柄発生しました。10銘柄のうちの4銘柄ということで公募割れ率は4割。マザーズ指数の下落の影響が公募割れ数に表れた形です。
7月のIPO市場全体としては、AIなど注目を集めやすい業種の銘柄は株価が跳ねる一方で、人材関連などの業種は苦戦を余儀なくされたといえます。
6月には、「IPO株投資は誰でも儲かる」という、かつての様子が頭をよぎるほどIPO市場は活況を呈しました。しかし、わずか1か月で4割もの銘柄が公募割れする状況になり、厳しい現実に引き戻されています。
7月に話題を集めたIPO銘柄
7月も6月に続き、一般的に名前が知られている有名企業のIPOはありませんでした。そこで今回は、初値騰落率1位となったAeroEdge<7409>と、騰落率は3位ながら初値を上回る株価で7月を終えたエコナビスタ<5585>を取り上げみましょう。
国内では珍しい航空エンジン部品メーカーのIPOで人気化
・AeroEdge<7409>
7月4日上場/東証グロース市場/公募価格1690円
→初値5860円/初値騰落率246.75%
AeroEdge<7409>は栃木県足利市に本社を置く、歯車メーカーからのスピンアウト企業です。フランスの航空エンジン大手Safran Aircraft Engines社との直接契約により、航空機エンジン部品(チタンアルミ製低圧タービンブレード)の量産と供給を行っています。
AeroEdgeの過去の業績と今期の業績予想は次のようになっています。
- 2020年6月期:売上高21億円、経常利益▲4.1億円、当期純利益▲4.6億円
- 2021年6月期:売上高8.4億円、経常利益▲7.5億円、当期純利益▲7.6億円
- 2022年6月期:売上高19億円、経常利益0.1億円、当期純利益0.0億円
- 2023年6月期(予想):売上高29億円、経常利益5.5億円、当期純利益6.3億円
2021年6月期まで赤字が続きましたが、前期2022年6月期に収支均衡を達成。今期2023年6月期からの本格的な黒字化のタイミングでIPOが行われました。なお、すでに第3四半期で経常利益5.0億円を達成しています。
AIやDXなどサービス系のIPOが人気化するなかで、航空機エンジン部品メーカーという非常にユニークな業種のIPOとなりました。モノ作り系、かつ国内では珍しい航空機エンジン部品メーカーのIPOということで注目が集まり、初値騰落率246.75%で7月で最も成功したIPOとなりました。
公募価格時の時価総額は62億円・予想PER10倍未満で、メーカーらしい手堅い値付けでしたが、初値での時価総額は216億円となり200億円を突破しています。
ただし、IPO後は高値7400円まで上昇した後、7月後半には5000円を割れました。最終的には5600円で取引を終えましたが、初値をわずかに割れています。今後、初値を超える株価推移を見せられるかどうかが注目されます。
AIやSaaSなどのキーワードで人気化しIPO後も堅調な株価推移
・エコナビスタ<5585>
7月26日上場/東証グロース市場/公募価格1300円
→初値3300円/初値当落率153.85%
エコナビスタ<5585>は睡眠解析技術を通じた健康状態予測AIを開発し、そのAIを搭載したSaaS型高齢者施設見守りシステムの販売を行っています。
エコナビスタの過去の業績と今期の業績予想は次のようになっています。
- 2020年10月期:売上高3.0億円、経常利益0.3億円、当期純利益0.3億円
- 2021年10月期:売上高5.3億円、経常利益1.3億円、当期純利益1.2億円
- 2022年10月期:売上高8.9億円、経常利益3.0億円、当期純利益1.9億円
- 2023年10月期(予想):売上高10億円、経常利益3.7億円、当期純利益2.6億円
2021年10月期から1億円を超える経常利益が定着しており、今期2023年10月期は経常利益3.7億円まで拡大する予想です。
同社の開発したAIを搭載したSaaS型高齢者施設見守りシステム「ライフリズムナビ+Dr.」は、2016年11月のリリース以降、順調に導入床数が拡大中です。2022年10月期末時点での導入は5101床でしたが、今期の第2四半期時点では8212床まで拡大しています。
AI、SaaS、睡眠、介護という、近年のIPO及び株式市場のテーマとなるキーワードを数多く含む銘柄です。AIをはじめ人気化しやすいキーワードに加え、SaaS型事業で安定的に黒字を維持する安心感もあり人気化しました。
そして、公募価格1300円に対して初値3300円、初値騰落率は153.85%となりました。時価総額は公開価格時75億円でしたが、初値時は190億円で200億円目前に迫り、IPOに成功しています。
さらに、7月31日の終値も3500円で初値超えを維持しており、初値天井で終わらずに時価総額200億円にも到達しました。8月に入って下落していますが、この先、業績拡大とともに株価も順調に上昇を続けることができるかどうかに注目です。
8月はIPO市場も夏休みモードに
例年8月はIPO市場も夏休みに入るため、今年も予定されているIPOは2銘柄のみです。
7月は日経平均株価、東証マザーズ指数ともに今ひとつの状態が続きました。しかし、アメリカ市場では、良好な企業決算もあって主要指数がいずれも堅調な推移を見せています。
堅調なアメリカ市場の影響が日本市場にも波及するか。8月の夏休みを挟み、9月から本格再開となるIPO市場の行方に注目しましょう。