手堅い成功と、ほろ苦デビュー 静かなIPO市場で明暗を分けたもの【4月のIPOランキング】

石井僚一
2024年5月13日 8時00分

《「確実に儲かる」として個人投資家に人気のIPO株投資。しかし近年、そんな「夢の時代」にも陰りが……? IPOで上がる株と下がる株は何が違うのか。データから読み解く【IPO通信簿】》

ここまで活況を呈してきた2024年の株式市場ですが、4月はいったん下落の方向に。東証グロース指数も下落する中で6銘柄がIPOを行いましたが、初値が大きく振れる銘柄はなく、静かな1か月となりました。年間IPOの前半戦を締めくくる4月のIPOを振り返ります。

相場の下落で、新興市場も底値近くへ

2024年に入って大型主力株を中心に盛り上がりを見せてきた株式市場ですが、4月は相場全体が下落に転じました。月足で見ると1月から3か月連続で陽線となっていた日経平均平均も、4月は陰線をつけました。

こうした主力株の活況を横目に安値圏での小幅上昇に留まっていた東証グロース市場250指数も、4月は大きく下落が進むことに。安値圏の底割れには至らなかったものの、底値に近い位置まで下落してしまいました。

2024年4月のIPOランキング

連休を控えた4月は、年間IPOの前半部としては終盤戦となります。今年は、昨年の9銘柄よりも3銘柄減って、6銘柄がIPOを行っていました。

その6銘柄について、公募価格に対して初値がどれだけ上昇(あるいは下落)したかを表す「初値騰落率ランキング」を見てみましょう。

初値騰落率100%超え(=2倍以上)はなく、トップはアズパートナーズ<160A>の52%です。初値が上昇した銘柄も、全体的に大人しい値動きを見せました。

一方で、公募割れが1銘柄出ており(Will Smart<175A>の▲4.5%)、これで、2024年の公募割れは累計2銘柄となりました。

昨年は、同じ4月までの時点での公募割れが1銘柄でした。本年も2銘柄に留まっており、グロース市場の低迷が続く中ではあるものの、公募割れは最低限に抑えられている現状です。

2024年4月の気になるIPO銘柄

2024年4月にIPOした6銘柄から、初値騰落率トップのアズパートナーズ<160A>と、公募割れとなったWill Smart<175A>について、詳しく見てみましょう。

・アズパートナーズ<160A>──手堅いIPOが吉と出る

アズパートナーズは介護付き有料老人ホームなどを首都圏中心に展開する事業者です。

2024年1月末時点で、介護付きホームが27事業所、デイサービスが16事業所、ショートステイ4事業の合計47所を運営しています。また介護事業のみならず、介護付きホームなどに利用する土地・建物の自社開発、老朽化した集合住宅の再生、マンションの賃貸といった不動産事業も展開しています。

2024年3月期は大幅な増収増益が予想されています。また2025年3月期の数字もすでに開示されており、増収増益の継続という予想です。不動産事業における物件売却が背中を押す形となっており、そのタイミングでIPOを行いました。

公開価格1920円での予想PERが11.4倍だったのに対し、初値2923円では17.4倍。また、公開価格ベースの時価総額65億円に対して、初値では100億円となりました。

複数の介護事業者がすでにIPOをしている中で、堅調な業績ながら控え目な株価設定を行い、業種および業績の手堅さから初値騰落率50%を超えて、また、時価総額100億円到達でIPOに成功しています。グロース指数の低迷もあり、手堅くIPOを行った結果が吉と出ています。

・Will Smart<175A>──ゼンリン子会社のほろ苦デビュー

Will Smartは、交通事業者などのモビリティ業界に対する受託開発やパッケージのライセンス販売を行う企業です。バスターミナルの基幹システムの構築や、ダイヤや空席情報の配信サービス、カーシェアシステムの開発などを手がけています。

2012年にゼンリングループの社内ベンチャーとして設立されました。IPO時点でゼンリン<9474>の持ち株比率は55%です。

売上高10億円前後で推移し、2022年3月期と2023年3月期は赤字ながらも、2024年3月期にはほぼ収支均衡まで回復する予想です。第3四半期までは赤字が継続中ですが(経常利益▲1.2億円)、受注済み案件の状況から、利益計画の達成は可能と判断しているようです。

公開価格1656円に対して初値は1580円となり、初値騰落率▲4.5%で、今年2例目の公募割れとなりました。

公募時点での時価総額は23億円で小型IPOではあるものの、2024年3月期の予想EPSは19.2円であり、公開価格の予想PERは85倍という高めの株価設定でした。

2期連続赤字の後、収支均衡状態まで戻したところでのIPOではありましたが、上場企業の子会社かつ事業実態があるだけに、投資家から評価を得ることはできませんでした。また、公募での資金調達額3億円に対してゼンリンなどの売出が8億円あり、売出の多さが嫌気された可能性もあります。

地図業界最大手で電子地図などの評価も高いゼンリンの子会社ながら、グロース市場全体が低迷する中で、ほろ苦いIPOデビューとなりました。

6月からの巻き返しに期待

例年5月は大型連休もあることから、IPO市場は開店休業となります。2024年も、5月のIPOは1銘柄の予定に留まります。本格再開は6月からです。

4月は市場全体が低迷するひと月となりましたが、その中で、今年の株価上昇に乗り切れていないグロース指数は安値近くまで下落しています。6月は、指数の回復とともに、IPO市場にも活気が戻ることになるか。それぞれの巻き返しに期待しつつ、その行方に注目しましょう。

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[執筆者]石井僚一
石井僚一
[いしい・りょういち]ベンチャーキャピタル勤務を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析などを得意とし、複数の媒体に寄稿中。なかでもIPO関連の執筆を数多く手がけており、IPO企業の目論見書のほとんどに目を通している。
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