やっぱりIPOには夢がある! 過去最高も出た、2020年・初値上昇額ランキング

岡田禎子
2021年2月4日 10時00分

《コロナ禍におけるIPO市場はどうだったのか。公募割れや上場中止が相次ぐ一方で、過去最高の初値上昇率も誕生。IPOバブルから上場ラッシュまで激動の一年を振り返ります》

2020年のIPOを振り返る

やっぱりIPOには夢がある──と個人投資家をうなずかせた2020年のIPO新規公開株式)。初値が公募価格に対して何%上昇したかを表す平均初値騰落率は120%を超え、公募価格の11.9倍まで〝大化け〟した銘柄も誕生しました。

とは言え、コロナ禍で株式市場が動乱となる中、IPO市場も波瀾万丈の展開でした。

2〜4月は公募割れや上場中止が続いて投資家を失望させたかと思えば、6月の再開からはIPOバブルが到来。過去最高のIPOも誕生して投資家を歓喜させ、さらに12月には怒濤の上場ラッシュ……とドラマさながらの展開でしたが、終わってみれば、総じて高成績な一年だったと言えます。

コロナ禍で揺れたIPO。公募割れや上場中止も

もともとオリンピックイヤーだったこともあり、2020年の新規上場は93社と、2007年の121社に次ぐ記録です。このうち初値が公募価格を上回ったのは70社で、ここ数年の平均値(8割以上)には届きませんでしたが、7割を超える高勝率(75.3%)となりました。

さらに、個人投資家が最も関心がある平均初値騰落率は前年の74.8%から120.9%まで大幅に上昇し、2018年のHEROZ<4382>以来の「初値テンバガー」も誕生しました(*テンバガー=株価が10倍になること)。

もちろん、コロナ禍は大きな影も落としました。初値が公募価格を下回る公募割れは23社。さらに承認取り消しも19社あり、これは同時多発テロがあった2001年の20社に次ぐ多さです。ただ、3〜4月分の取り消し分のうち10社は6月以降に無事に再上場しています。

2020年の初値上昇額トップ10

それでは、2020年のIPO市場で投資家に最も大きな利益をもたらしたのはどんな銘柄だったのか。公募価格と初値との差額(初値で売却した場合の利益)が大きかった上位10社をご紹介します。

2019年の初値上昇率トップはウィルズ<4482>の372.39%でした。一方、2020年は首位のヘッドウォータース<4011>を筆頭に、上昇率300%以上がゴロゴロしており、初値の水準の高さが目立ちます。

人気となったテーマは「AI」や「DX」、「SaaS関連」「システム開発」など。やはりコロナ禍でも成長期待の高いテーマが強かったようです。近年のマザーズ偏重や小粒化の流れは変わらず、特に極めて小さな規模の案件が増えているのも特徴です。

【第1位】ヘッドウォータース<4011>

一般的に、人気が出るIPOの特徴として、①トレンドのテーマであること、②東証マザーズ上場、③公開規模が小さい、④公募株数の割合が大きい、などが挙げられます。

ヘッドウォータース<4011>は、企業の経営課題を解決するAI(人工知能)ソリューション事業を展開する会社です。時流のテーマである「AI関連」であり、業績は堅調で今後も高い利益成長が期待できる上、公開規模2.6億円というマザーズの極小案件。公募株は10万株で、「最強の案件」との呼び声も高かったIPOです。

投資家の期待そのままに、初値は公募価格2,400円の11.9倍となる28,560円、100株(単元)あたりの利益は261.6万円を記録しました。公募価格に対する初値上昇率は、2018年4月上場のHEROZ<4382>が記録した+988.9%を上回って1090%! 文句なしの初値テンバガーで、現行制度では最高のIPOとなりました。

〈参考記事〉プラス445万円のヒーローも誕生! 2018年・IPO初値爆上げランキング

【第2位】アースインフィニティ<7692>

電気・ガスの小売り事業が主力の新星、アースインフィニティ<7692>は2016年の電力自由化に後押しされた「政策銘柄」であり、まさに急成長中の電力会社です。足元の業績も絶好調、公開規模は6億円という小型案件。10月のIPO市場がバブルだったことも後押しして、初値上昇率は428.5%、単元あたりの利益は84.4万円という好成績でした。

【第3位】ビートレンド<4020>

飲食や小売の顧客情報の管理ツールをSaaS型で提供するビートレンド<4020>。「クラウド管理システム」「SaaS関連」という人気のテーマであること、業績も好調で高成長が期待できること、マザーズの小型案件(公開規模5.2億円)などの理由で、5社同日上場というIPOラッシュの中でも人気を集めました。初値上昇率は257.5%、単元あたり利益は72.1万円でした。

【第4位】トヨクモ<4058>

安否確認サービスなど法人向けクラウドサービス事業を手掛けるトヨクモ<4058>。法人向けクラウド管理とIPOでも人気の事業であることや、コロナ禍のテレワーク推進で成長加速期待も高く、公開規模は11億円とマザーズの小型案件で人気化しました。

【第5位】アイキューブドシステムズ<4495>

アイキューブドシステムズ<4495>法人向けモバイルデバイスの管理サービスを展開。「クラウド管理システム」「テレワーク関連」などテーマ性が高く、業績も好調で高成長が期待でき、かつ公開規模が5.4億円とマザーズの小型案件とあって人気化しました。

【第6位】かっこ<4166>

企業の課題解決やチャレンジを支援するSaaS型アルゴリズムを提供する会社がかっこ<4166>です。「AI関連」「SaaS関連」など時流のテーマで、EC増加も追い風に成長加速期待も高く、公開規模は5.43億円とマザーズの小型案件。この日は5社が同日上場しましたが、大健闘しました。

【第7位】グラフィコ<4930>

グラフィコ<4930>は、主力ブランド「オキシクリーン」をはじめとする日用雑貨や健康食品・医薬品などの製造・販売を手掛けています。2015年の上場延期から5年ぶりの再チャレンジで、市場もマザーズからジャズダックへ変更。ヒット商品も多く、売上も順調で再成長が期待される中、IPO市場が絶好調なことや、話題のトヨクモ<4058>(第4位)、まぐまぐ<4059>と同日上場だったことからそれらの勢いに乗った形となりました。

【第8位】コマースOneホールディングス<4496>

中堅・中小のECサイト運営支援をSaaS型で提供するコマースOneホールディングス<4496>。IPOでは人気の「ECプラットフォーム」事業であること、業績も堅調で成長期待も高く、公開規模9.8億円のマザーズの小型IPOとあって人気化しました。

【第9位】サイバーセキュリティクラウド<4493>

AI技術を活用したウェブクラウド提供のセキュリティサービス「攻撃遮断くん」が主力のサイバーセキュリティクラウド<4493>。その名のとおり「サイバー」「セキュリティ」「クラウド」と人気の投資テーマてんこ盛りで、公開規模3億円のマザーズの極小案件、売上も急成長中とあって人気化。コロナ禍まっただ中の3月上場だったにもかかわらずトップ10入りと、まさに拍手を贈りたい健闘ぶりでした。

【第10位】アクシス<4012>

アクシス<4012>は、業務アプリの設計開発や運営保守、インフラシステムの設計構築などを手掛ける企業。IPOでは人気テーマの「DX関連」銘柄で、公開規模が6.3億円のマザーズの小型案件でした。また、業績も緩やかに成長中とあって、歴史を作ったヘッドウォータース<4011>の〝裏会場〟ながらも大健闘しました。

次のテンバガー候補はここにいる?

2019年のIPO組の中には、上場後に大きく羽ばたいた銘柄も多く、BASE<4477>などテンバガーを達成した銘柄も誕生しています。IPOは新しい商品・新しいサービスの企業が多く、コロナ禍で社会構造が一気に加速したため、IPO市場にもその変化が反映されたといえるでしょう。

特にその後の好パフォーマンスが目立つのが、12月に上場した銘柄。というのも、年末は上場社数が多いために投資家の資金が分散されて初値が低くなりがちで、その分、以降の上昇率が高くなる傾向にあるからです。2020年12月も26社が上場。この中に次の「大化け銘柄」があるかもしれません。

IPOは、そのときだけに注目するのではなく、「その後」にも目を向けることで、もっと奥深い楽しみ(と、もちろんチャンスも)を得られます。ぜひ、コロナ禍という史上稀に見る年に株式市場に船出した2020年IPO組の今後にも注目してみてください。

[執筆者]岡田禎子
岡田禎子
[おかだ・さちこ]証券会社、資産運用会社を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。資産運用の観点から「投資は面白い」をモットーに、投資の素晴らしさ、楽しさを一人でも多くの方に伝えていけるよう活動中。個人投資家としては20年以上の経験があり、特に個別株投資については特別な思い入れがある。さまざまなメディアに執筆するほか、セミナー講師も務める。テレビ東京系列ドラマ「インベスターZ」の脚本協力も務める。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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