「PBR1倍割れ」は買いか否か。おいしい割安株の方程式で、銘柄探しの沼にハマる
《東京証券取引所が立つ日本橋・兜町。かつての活気は、もうない。だがそこは紛れもなく、日本の株式取引の中心地だった。兜町を見つめ続けた記者が綴る【兜町今昔ものがたり】》
「PBR1倍割れ」は買いか、否か。
2月4日の共同通信が、「東証上場の500社(日本取引所グループ〈JPX〉が時価総額や取引額の高さから選出)のうち、株価が保有資産から負債を差し引いた純資産を下回る企業が4割以上を占めていることが分かった」と伝えた。
株式取引指標のひとつである1株あたり純資産(PBR=1株あたり総資産-1株あたり負債。いわゆる当該企業の「解散価値」)が株価を割り込んだ「PBR1倍割れ」の企業が急増しているというのである。2018年末には2割台だったという。コロナ禍の影響を受け低迷を余儀なくされた株価回復を切望するJPXの思いが、発表の背景にあることは容易に想像がつく。
JPXの発信に、例えば大日本印刷<7912>などは早々に反応した。新しい中期経営計画で「PBR1.0倍超を目標として掲げる」という姿勢を示した。「JPXの意向はPBR1倍割れが慢性的欠陥となっている企業への叱責とも言える。三井住友FGや日本製鉄なども、尻に火だろう」とする声が兜町にも飛び交った。
「株式投資の指標」とされるものは少なくない。PBRは企業を財務面から捉えた投資指標のひとつだ。「PBR1倍割れ」とは、ざっくり言うと純資産額が解散価値を下回っている「割安状態」だから、「買い材料」としてカウントされる。JPXの提議を受けて積極的に株価回復に向かうなら、いまが買い時と言える。だが、PBR1倍割れだからといって投資対象選択の俎上に、右から左に載せてよいというわけにはいかないのも事実である。
「M&Aの対象としてどうかを検討する場合のように損益計算書の推移、バランスシートも詳細にチェックし資産査定(負債の多寡・推移)を緻密にチェックすべき」「簿外債務に要注意。中小型企業の場合、土地・建物や工場・設備の時価換算の目減り分や、退職金が負債として引き当てられていないケースがある。簿外債務が存在していれば、その分PBRは高くなる」
などなど、チェックすべき点は多い。かつ、それらは簿外債務に象徴される通り、容易に見つけ出しづらい。低PBR投資は、そう簡単なものではないのだ。
おいしい「PBR1倍割れ」の見つけ方
「PBR1倍割れ」の投資に有効な施策はないものか。兜町を歩いてみた。
準大手証券を退職後も歩合外務員として兜町に籍を置いている御仁は「グレアムを知っているだろう。彼が編み出した方法なんかは、役立つと思うよ」とアドバイスしてくれた。
「バリュー投資の父」と称された、ベンジャミン・グレアム(1894~1976年)。いま世界で最も注目されている投資家ウォーレン・バフェット氏も大学で講義を受け、投資術を学んだ「師」だと自身が発言している。確かに低PBR投資は、バリュー株(割安株)投資である。グレアムは、バリュー投資/ローリスク・ミドルリターンに照準を合わせた投資法として、2つの方程式を提唱している。
- ネットネット株:(流動資産-総負債)×2÷3>時価総額
- ミックス係数:PBR×PER<22.5
前者は、現金などの流動資産から総負債を差し引いた「正味流動資産」の3分の2よりも時価総額が小さい銘柄であり、「安全な割安株を見つける際の投資のタイミング」をしめす方程式。後者は、PBRにPERを掛け合わせた数値が22.5を上回らないという意味で、「ローリスク・ミドルリターンを求める投資法」を経験則から導いた方程式とされている。ともに、いまなおバフェット氏により生かされている。
そこで後者を使い、低PBRでローリスク・ミドルリターンを得る銘柄探しに挑んでみた。が、実際に方程式の値が22.5以下になる銘柄は、いまの日本株には相応数ある。すると、前出の兜町の古い住人から、「PER×PBR<10」で実践して「敗北を味わったことはほとんどない」という投資家を紹介された。聞けば、方程式に当てはめる前に「<10」で「過去10年間、赤字転落なし」「時価で好配当利回り」「株価が上向き傾向」を選択肢に加えて対応しているという。
拝借してみると、ナフコ<2790>に出会った。九州・中国を地盤とするホームセンターを展開している。時価の予想配当利回りは3.1%。株価は3月9日に昨年来高値となる1910円まで買われている。
同様の条件に「10万円前後以下で単元株が購入できる」をプラスして、発掘に挑戦してみた。次のような銘柄が浮上してきた。
- IJTT<7315>
- 日本基礎技術<1914>
- ダイハツディーゼル<6023>
- トーエル<3361>
- 東洋テック<9686>
- アイナボホールディングス<7539>
ちなみにアイナボHD(タイル・空調など住設機器の販売・工事で首位)でみると、今期(2023年9月期)は「5.5%増収、9.5%営業増益、0.2%最終増益(連続の過去最高益更新)、連続増配46円配」計画。株価は3月8日に昨年来高値1068円をつけている。
銘柄探索という沼にハマる
この種の作業は一度始めると、なかなかやめられない。だが、これから株式投資に本腰を入れようとする向きには、この手の作業にハマってみることをお勧めしたい。株式投資は自己責任と表裏の関係にあるからだ。
こんな企業とも出会った。
- シノブフーズ<2903>……おにぎりや弁当など、米飯加工品の製造販売業者。ファミリーマート向け販売が5割以上を占める。出世作「おにぎりQ」で地盤を築き、収益動向は堅調。「プラスチック使用量削減」「ごみ処理機設置」「再生エネルギー活用」などでも食品業界を牽引している。時価は700円台前半の昨年来高値水準。配当利回り2.7%強。対してPBRは0.59倍。
ところで、PBRを算定する総資産・負債・純資産の推移はどうチェックしたらよいのか。純資産が増加傾向にある企業は、PBR改善と収益好調・材料性豊富が表裏一体にあると捉えられる。『会社四季報』を遡れば、決算期ごとのBPS(純資産)の推移がチェックできるが、詳細な推移は読み切れない。答えは「決算短信」。「財務欄の冒頭」に当該四半期の「総資産・負債・純資産」が記されている。
たとえば、シノブフーズの純資産額は2019年3月期末で278億5000万円。対して2023年3月期の第3四半期段階で319億9100万円と、着実な増加を見せている。
もう1社、日本農薬<4997>にも投資妙味を覚えた。農業用製剤の専業大手で世界的な企業(総売上高に占める海外部門比率7割)。2023年3月期も「14.5%増収、0.8%経常増益、1円増配(16円配)」と着実な計画で立ち上がり、第1四半期開示と同時に「22.3%増収、37.7%営業増益」に上方修正している。予想PBR0.8倍余。純資産額は2019年9月末の581億9800万円が、直近で702億6300万円まで増加している。時価の配当利回り2.4%を背もたれに昨年来高値964円を待つのも面白い。