伝統的な投資戦略「60/40戦略」「ダウの犬戦略」 2023年相場には有効? 日本株に使うなら?

山下耕太郎
2023年2月6日 15時00分

vaneeva / Adobe Stock

2022年は株式と債券が下落し、アメリカの伝統的な投資手法である「60/40戦略」が通じない年となりました。また、「ダウの犬戦略」のパフォーマンスは2020年のコロナショック以降、ダウ平均株価に劣っています。これらの戦略は2023年も通じないのでしょうか。

伝統的手法「60/40戦略」とは

株式と債券に6対4の割合で資金を配分する投資手法が「60/40戦略」です。この手法は、主に株式投資で利益を得る一方、債券を保有することで株価下落のリスクをヘッジする、という考えに基づいています。

債券は、株式に比べて価格変動リスクが小さい傾向があります。また、経済状況が悪化して株価が下落すると、金利が低下して債券価格が上昇することが多いので、株価下落による損失を相殺できる、という投資手法が「60/40戦略」です。

世界最大級の資産運用会社・バンガードの調査によると、1926〜2021年の「60/40戦略」の年率リターンは8.8%でした(アメリカ市場)。

ところが2022年は株価が大きく下落し、債券価格も下落しました。ダウ総合株価指数は配当込みで19.5%、国債指数は12.9%の下落を記録。アメリカを対象とした60/40ポートフォリオは、債券が思うように機能せず、2022年は過去最悪の年となったのです。

株式と債券の下落は、連邦準備制度理事会(FRB)の複数回にわたる利上げが原因です。ただ、ゴールドマン・サックスの計算によれば、「1926年以降で株式と債券が12か月の間にともに損失を出したのは2%に留まる」とウォール・ストリート・ジャーナルは報じています。

株式・債券に「インフレ・ヘッジ商品」をプラス

そうは言っても、アメリカや世界が再びインフレ時代に突入すれば、債券投資でリターンを得ることはこれまで以上に難しくなります。

今後は債券投資の比率を従来よりも下げ、株式投資に加えて金融資産の実質価値をインフレから守ることができる金融商品、すなわち「インフレ・ヘッジ商品」をポートフォリオに取り入れる必要があります。

代表的なインフレ・ヘッジ商品としては、「インフレ連動債」や金などの「コモディティ(商品)」が挙げられます。とくに金はインフレに強い資産とされています。

インフレとは、物価が持続的に上昇することで、相対的に通貨の価値が下落する(購買力が低下する)ことです。実物資産でありモノの代表である金は、インフレに対するヘッジ(=回避)として避難的に買われるため、「インフレに強い」と言われているのです。

ただアメリカでは、物価上昇率はすでに低下傾向を示し始めています。コロナ禍以前の水準に戻るには数年かかるでしょうが、2023年には景気減速とともにインフレ懸念が急速に緩和されるかもしれません。そのとき、債券投資、とくに安全性の高い国債のリターンが再び上昇する可能性があります。

2023年は「60/40戦略」の有効性が再確認される年になるのではないか──そんな期待が持たれています。

年1回売買の「ダウの犬戦略」とは

「ダウの犬戦略」とは、1990年代にアメリカの有名投資家、マイケル・B・オヒギンズが著書『ダウの犬投資法』(パンローリング)で紹介したシンプルな投資手法です。

その手順は次のとおりです。

  1. 年末時点でダウ平均株価に含まれている30銘柄の中から、配当利回りの高い順に上位10銘柄を選び出す
  2. 選んだ10銘柄にそれぞれ同じ額を投資し、1年間保有する
  3. 1年後、再び年末にダウ平均株価の中から配当利回りの高い上位10銘柄を選定し、同額を投資する(リバランスを行う)

このように、年末年始に「年1回売買」を行うだけで、相対的に高い利回りの配当金を10銘柄から得ることができるのが「ダウの犬戦略」です。

ただ、2023年1月27日時点における過去10年のリターンを見てみると、「ダウの犬戦略」の対象となる10銘柄で構成される「ダウ平均・高利回り10銘柄指数」は年率7.08%となっており、ダウ平均株価の年率9.35%にパフォーマンスで負けています。

これは、2020年のコロナショック以降、配当を出さないグロース株がバリュー株よりも大きく上昇したことが原因と考えられます。

2023年は、アメリカの景気後退やロシア・ウクライナ戦争など不透明感が強く、株価の値上がりはあまり期待できません。そうした中、値上がり益よりも配当利回りを重視したバリュー株投資が優勢になる可能性は高く、「ダウの犬戦略」が脚光を浴びるかどうかに注目が集まります。

「ダウの犬」で高配当株を狙う

日本では2022年末から高配当株に注目が集まっています。日経平均株価の構成銘柄の中から配当利回りの高い50銘柄を選定する「日経平均高配当株50指数」は、2023年になって過去最高値を更新しているのです。

日経平均株価は毎年1回、6月末に構成銘柄を入れ替えます。銘柄数や銘柄入れ替え時期は違うものの、「ダウの犬」のような投資手法も有効と考えられます。たとえば、「NEXT FUNDS 日経平均高配当株50指数連動型上場投信」などのETFを通じて、日経平均高配当株50指数を購入することも可能です。

いま注目の高配当株を伝統的な投資手法で実践する方法として、検討してみるのも面白いのではないでしょうか。

[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
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