いまさら聞けない「機関投資家」 その正体と株価への影響力

小田 静
2019年2月27日 8時00分

《「機関投資家」とは巨額の取引を行う集団であり、株式市場に大きな影響力を持っています。でも、そもそも「機関投資家」とは、どのような投資家を言うのでしょうか? いまさら聞けない「機関投資家」の基本を解説します》

「機関投資家」とは?

機関投資家とは、巨額の運用資金を抱えて、多額の投資を行う組織です。必ずしも厳密に定義されているわけではありませんが、個人投資家と区別して使われます。

例えば、このような団体を指して「機関投資家」と呼びます。

  • 投資ファンド
  • 投資銀行
  • 銀行
  • 保険会社
  • 年金機構
  • 証券会社

共通点は、どれも多くの個人・団体から資金を集めて運用していることです。自らの裁量で運用することもありますが、別の証券会社や投資ファンドに運用を委託することもあります。

日本株の8割以上を保有

機関投資家と個人投資家との違いは、誰か他の人の資金を運用することと、市場に影響力を持つほど巨額の資金があることです。その結果、日本の上場株式の8割以上を機関投資家が保有しています。

日本取引所グループ(JPX)のレポートをもとに、全国の4証券取引所(東京・名古屋・福岡・札幌)に上場している企業の株主の割合を、保有している金額で比較すると以下のようになります。

JPXの投資部門別株式保有状況[2017年度]

世界最大の機関投資家・GPIF

機関投資家といえば、世界最大の機関投資家が日本にあります。それが、経済ニュースなどでも頻繁に話題に上るGPIF年金積立金管理運用独立行政法人)です。私たちの公的年金(国民年金・厚生年金)の年金積立金を運用しています。

どれくらい巨大かと言えば、2017年度の運用資産額は156兆3832億円。日本の国家予算(一般会計総額)が100兆円前後ですので、それよりもずっと大きな額を運用していることになります。また、東京証券取引所の一日の取引額は3兆円程度ですので、いかにGPIFが巨大かがわかるでしょう。

GPIFは国内外の株式や債券に投資をしていますが、アベノミクス以降は日本株の比率が増え続け、今は運用総額の4分の1が国内株式です。

GPIFの運用資産額・構成割合[2018年12月末]

GPIFホームページより)

機関投資家の投資手法

他人の資金を運用する機関投資家は、どのような投資スタイルを取っているのでしょうか。

市場平均より「やや上」を目指す

GPIFのような機関投資家は、市場平均よりやや上の運用成績を目指すことが多いと言われています。もしかすると、機関投資家は複雑な金融工学を駆使して莫大な利益を目指す集団……というようなイメージがあるかもしれませんが、実際には手堅い手法を好みます。

もちろん、アクティブ系のファンドであればベンチマークの上をいく成績を目指した運用をしますが、必ずしも、すべての機関投資家がそうというわけではありません。

なぜなら、自由な個人投資家とは違い、機関投資家は出資者に運用成績を報告する必要があるからです。もしあまりにも市場平均より悪い成績なら、資金の引き上げにもなりかねません。ですので、大きなリスクを背負わず、手堅い投資方法を選ぶ傾向にあるのです。

先ほどのGPIFで言えば、2017年度の収益率は+6.90%(+10兆810億円)。2001年度以降の累積で見ると+2.73%(年率)となっています。

GPIFの累積収益[2001〜2018年度]

GPIFホームページより)

大型株やETFへ分散投資

機関投資家がどのような銘柄を選ぶかといえば、時価総額の大きな銘柄やETF(上場投資信託)などへの分散投資が基本になります。

資金量が莫大なため、中小型株では株価への影響が大きくなります。また、市場平均の運用成績を目指すには、浅く広く分散投資する必要があります。そこで、自動的に分散投資をしてくれるETFを選ぶわけです。

例えば、日本銀行もETFを大量に購入しています。ETFで間接的にファーストリテイリング<9983>を大量保有しており、「日銀はユニクロの隠れた大株主」とも言われています。

(参考記事)日本株を影で大量保有 日銀のETF買入れが株価に与える影響を考える

機関投資家の動きを読む

相場に影響力を持つ機関投資家の動き読むことができれば、波に乗って利益をあげられるチャンスかもしれません。

指数に採用される銘柄に乗る

機関投資家の中には、日経平均株価やTOPIXなどの指数(インデックス)に採用されている銘柄のみを購入する、などの投資方針を公開しているところもあります。また、ETFを購入すれば、その指数自体を買っていることになります。

そこで、そうした指数に採用される銘柄に注目して、機関投資家の買いに〝便乗〟することができます。例えば、新たに日経平均株価に採用される銘柄があれば、機関投資家から買いが入ることが予想され、一般投資家の注目も集まりやすくなります。

2017年12月にシャープ<6753>が東証1部に復帰しましたが、復帰が承認された11月末から実際に市場変更された12月7日までの間に、株価は最大13%上昇しました。

シャープの株価推移[2017年11〜12月]

(Chart by TradingView

機関投資家の投資先を参考にする

2017年3月、東芝<6502>が債務超過で上場廃止になるのではとの懸念が広がりましたが、投資ファンドのエフィッシモ・キャピタル・マネージメントが大量に株を保有していることがわかり、翌日にかけて株価が7%上昇しました。

東芝の株価推移[2017年3〜4月]
(Chart by TradingView

同ファンドは、旧村上ファンド出身者が運営する投資ファンドで、度々ニュースなどにも取り上げられます。最近では、経営再建中のジャパンディスプレイ<6740>の株式7.9%を取得したことが報告されました。

有名な機関投資家に追随して必ず良い結果になるかどうかはわかりませんが、機関投資家の動向を参考にしている投資家が多い、という事実は知っておいて損はないかもしれません。

動意の陰に機関投資家あり?

機関投資家とは誰かから集めた大量の資金を組織的に運用する団体です。説明責任があるため、手堅い投資を好む傾向がありますが、その動向は話題になるだけでなく、個人投資家の参考になる場合も大いにあります。

株価に急な動きがあった際には、「どこかの機関投資家が動いたのかな?」と想像して見ると、新たなヒントをつかめるかもしれません。

[執筆者]小田 静
小田 静
[おだ・せい]「バリュー株大好き」な個人投資家。高校卒業後は一般企業に就職するも、ビジネスに目覚めて退職。商学系の大学に進学する。とある投資家との出会いから投資を学ぶうちに株式投資のとりこに。現在は、ひたすら経済ニュースを追いかけて、銘柄分析をすることが生きがい。
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