日銀はこれからどこへ向かう? 気になる金融政策と株価への影響を考える

佐々木達也
2023年2月14日 14時00分

SirDiegoSama / Adobe Stock

株式マーケットでは日銀の金融政策への関心が、かつてないほどに高まっています。

もともと海外のインフレ進行による金利上昇や4月に黒田東彦総裁の任期満了を迎えることもあり、日銀は現在の大規模金融緩和を縮小し、出口に向かうのではないか、との期待が海外投資家を中心に広がっていました。

こうした中で、12月に日銀がサプライスで長期金利の変動幅の上限を引き上げたことが「実質的な利上げ」と受け止められ、その後、金融市場は金利の先高感による円高と株安という反応になりました。

今年の日本株相場にとって日銀はとても重要なファクターとなっています。そこで、最近の日銀の動きについて細かく振り返ってみましょう。

202212月の日銀の金融政策変更

現在の日銀は、「長短金利操作イールドカーブ・コントロール)」と「資産買い入れ」によって市場に資金を供給する金融緩和政策をとっています。

「イールドカーブ・コントロール」は2016年9月から行われている短期金利と長期金利を誘導する金融操作です。イールドカーブの「イールド」とは「利回り」のことで、「イールドカーブ」は債券の利回りを縦軸に、債券の満期までの残存期間を横軸にとったグラフを表します。

通常の景気の状態では、短期の債券に比べて長期の債券の利回りが高いため、イールドカーブが右肩上がりになります。

イールドカーブ・コントロールによって日銀が10年国債を中心に大量に買い入れているため、本来は年限の短い9年債などよりも高くなるはずの利回りが低下し(債券の価格は上昇)、いびつな価格形成がなされていました。

企業の社債による資金調達などは10年債の利回りなどを参考に企業ごとの信用度を加味した金利を上乗せして金利を決定しますが、10年債の価格がいびつなため、企業も社債の発行を控えるなど弊害が出ていたのです。

こうした背景もあり、202212月、日銀はこのイールドカーブ・コントロールによる10年国債の長期金利の変動幅を従来の0.25%から0.5%に引き上げる、というサプライズを発表しました。

事実上の利上げとなるこの変更により、ドル円の為替は137円前後から130円前後へと円高が進行し、円安による輸入物価の上昇にもブレーキがかかることになります。

1月の日銀会合の結果は現状維持?

1月17日~18日の金融政策決定会合で日銀は大規模金融緩和の継続を決めました。

マーケットでは12月に次いで長期金利の変動幅のさらなる引き上げや国債の買い入れ年減の変更などなんらかの修正があるのではないか? との予想もありましたが、現状維持の決定を受け、円の一段高を見込んでいた投機的なポジションが積み上がっていた反動でドル円はやや円安方向に振れました。

株式市場でもいったんは金融政策の変更リスクが後退したこと、円安による製造業の買い戻しで株高の動きとなりました。

ただし、実は全くの現状維持ではなく、この1月会合では「共通担保資金オペ」の仕組みを変更しました。これは金融機関が国債などを日銀に担保に差し入れることで低利の資金を貸し出す仕組みです。

今回の変更で5年債などの短期の国債を担保な入れやすくし、借りられる金利は国債によりも低いことからほぼ確実に金融機関は利ざやを稼ぐことができます。結果として、金融機関による国債の購入が増え、金利が抑えられやすくなります。

市場では4月の黒田総裁退任までの間、イールドカーブ・コントロールを補完するものとして日銀が金融緩和を継続するとのメッセージと受け止められました。

今後の日銀のアクション、市場関係者はこう見る

次の金融政策決定会合は3月10日に予定されています。

市場関係者の間では、まだ黒田総裁が在任する3月会合での大きな政策変更はなく、あるとすれば新総裁が就任する4月以降ではないか、との見方が広がっています。ただし、昨年12月のサプライズの余韻もあることから、会合前後には警戒による円高・株安の可能性もあるかもしれません。

日銀が金融政策を出口に向かわせるアクションの選択肢として、もっとも影響が大きいのは「短期金利のマイナス金利の撤廃」や「イールドカーブ・コントロールの撤廃」がありますが、今のところすぐにこれらを行う可能性は低いのではないかと見られています。

そのほかに予想されているのは「イールドカーブ・コントロールによる10年国債の長期金利の変動幅をさらに0.5%から0.75%に引き上げる」「イールドカーブ・コントロールの買い入れる国債の年限を10年から5年などに変更する」などです。

これらの変更はいずれも10年債の金利を上昇させ、金融生産の正常化へのステップとなります。

日本はアメリカなどの海外と違い、消費などの需要がまだ本格的に回復していません。また、短期金利のマイナス金利の撤廃は、住宅ローンを変動金利で借りている世帯の大きな負担増につながります。こうしたこともあり、今すぐマイナス金利撤廃の撤廃や長期金利の大幅な利上げには踏み切れないのです。

金利上昇で買われる株、売られる株

今後、緩やかに金利が上昇するかもしれないというシナリオを前提にした場合、上昇が期待されているのが、銀行・保険セクターです。すでに株価は反応していますが、長引くデフレ経済で金融機関の収益力は低下していたことから、これらの金融株のPBR(株価純資産倍率)は未だに割安な水準でもあり、水準訂正の動きが続きそうです。

また、直接の影響ではありませんが、小売り・食品・電気・ガス、サービス業など内需系セクターは、円の金利上昇による円高で輸入コストが下がるため間接的に恩恵がありそうです。ただし、負債(借金)の多い企業には利払いの増加による業績への圧力が強くなる点は抑えておきたいところ。

反対に金利上昇で影響を受けるのは、不動産などの業種です。また、中小型株やグロース株(成長株)なども金利が大きく上昇した場合は影響を受けるとされています。また、円金利上昇で円高ドル安が進んだ場合は輸出株にとって逆風となります。

注目すべきは日銀だけではない

日銀の金融政策について、最近の流れを振り返りつつ現状ををまとめました。

これらの予想は当然ながら、米FRB(連邦準備制度理事会)などの海外の金融政策や経済状況、国内の経済情勢などに応じて変化します。ここでご紹介したポイントを押さえつつ、関連するニュースを引き続きウォッチしていきましょう。

[執筆者]佐々木達也
佐々木達也
[ささき・たつや]金融機関で債券畑を経験後、証券アナリストとして株式の調査に携わる。市場動向や株式を中心としたリサーチやレポート執筆などを業務としている。ファイナンシャルプランナー資格も取得し、現在はライターとしても活動中。株式個別銘柄、市況など個人向けのテーマを中心にわかりやすさを心がけた記事を執筆。
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