加速する親子上場の解消 その背景と、個人投資家が気をつけるべきこと
近年、日本でも企業改革が進み、非上場化の件数が増えてきました。こうした流れの背景のひとつに、親子上場の解消があります。なぜ、親子上場を解消する動きが加速しているのか、そのメリット・デメリットや具体的な方法、背景について順に見ていきます。
親子上場とは?
親子上場とは、親会社と子会社がそれぞれ個別に株式上場している状態を指します。親子上場は、経営の効率化や資金調達のために行われることがありますが、最近ではこれを解消する動きが増えてきています。
親子上場のデメリットとは何でしょうか? ひとつには、親子上場では、親会社と子会社の少数株主の関係が利益相反になりやすい点があげられます。
子会社の経営に関する意思決定を行う上で、子会社の少数株主の利益が損なわれやすく、親会社の利益が優先されやすいというものです。上場会社の株主との関係も複雑になり、子会社にとっては自主的な経営が難しくなることもあります。
さらに、親子上場は企業の評価への影響もあると言われています。親会社と子会社が別々に上場しているため、市場からの信頼や評価が分散される可能性もあります。
代表的な親子上場としては、以下の企業などが挙げられます。
TOBによる親子上場解消
企業が親子上場を解消する方法としては、主にTOBと株式交換の2つの方法が多く用いられます。
TOBは「Take Over Bid」を略した表現で、企業の買収手段のひとつを指します。
TOBは日本語では「株式公開買い付け」と呼ばれ、市場外で広範に株を買い付ける方法です。買収を行う側は、買い付けの期間や価格、株数の上限・下限などをあらかじめ一般に公開し、投資家からの売却を募ります。通常、市場価格よりも2〜4割程度高いプレミアムが提示されることがよくあります。
金融商品取引法では、不特定多数から発行株の5%以上の株式を買い付ける場合にも、TOBが義務付けられています。
また、買い付ける株主の数に関係なく、TOB成功後の保有株の割合が企業の発行済み株式数の3分の1以上となり、経営権に大きな影響力を持つ場合にも、TOBが必要とされるルールが定められています。
保有株にTOBが実施された場合、個人投資家として気になるのは、自分が保有する株式にTOBが発表された際にどのように対処すればよいのか、という点です。投資家が選ぶことのできる選択肢は、①TOBに応募する、②市場で売却する、③保有し続ける、の3つがあります。
①TOBに応募する
価格や条件に同意する場合は、TOBに応募することで株を売却することができます。ただし、その場合、TOBを主導する証券会社に証券口座を開設し、株式を移管した上で、応募の手続きを行う必要があります。 取引手数料はかかりませんが株式の移管に際しては移管手数料がかかる場合があります。
②市場で売却する
TOBの手続きが煩雑であり、かつ市場での価格(現在の株価)が納得できるものであれば、これを機に市場で売却するのも一つの選択肢です。売却の取引手数料がかかりますが、手続きとしては最もスムーズな方法となります。
③上場廃止まで保有を続ける
TOB価格に納得できなければ、保有し続けることも可能です。ただし、親子上場解消のためのTOBは大株主である親会社が同意しているため、ほとんどのケースでTOBが成立します。
TOBが成立し、大株主となった買収側が議決権の9割以上を保有する場合、その大株主はスクイーズアウトと呼ばれる方法で少数株主の株式を強制的に買い取ることができます。その結果、TOBに応募しなくても、保有株は強制的に現金化されることもあります。
しかも、この場合は現金化には相当な時間がかかることもあります。また、売却の税金計算が複雑になり、確定申告が必要になるケースもあります。そのため個人投資家にとっては余り良い選択肢ではないかもしれません。
株式交換による親子上場解消
親子上場解消の方法として、親会社の株式を対価として少数株主に交付する株式交換による方法もあります。
メリットとしては、親会社が特段キャッシュを必要とせず実施できる点があります。また、投資家にとっては親会社の株主として株式を保有し続けることができるほか、株式交換に際してはTOBと同様に現状の株価に対してプレミアムを上乗せした交換比率が設定されることが多い点もメリットとなります。
保有株の株式交換が実施される場合、個人投資家のとる選択肢は2つです。設定された株式交換の効力発生前に市場で売却し現金化するか、保有を続けて親会社の株式に交換されるのを待つかの選択となります。TOB応募に比べて書類などでの手続きは特に必要ありません。
ただし、子会社の株主は言い換えると強制的に親会社の株主にさせられてしまうわけで、希望しない株主にとってはデメリットとも言えます。
親子上場解消が進む理由
近年の大型株では親子上場解消の動きが続いており、その流れがさらに加速しています。
こうした流れの背景には、上場企業経営において、株主重視でより良い資本効率が求められていることが挙げられます。昨今の投資ファンドなどによる経営陣への圧力や、東証によるPBR改革などの流れも、こうした動きを強めています。
東証は2023年12月26日に「少数株主保護及びグループ経営に関する情報開示の充実」と題したリリースを発表しました。
これは、親子上場の関係にある企業は、コーポレートガバナンス報告書などでこれまでより具体的にわかりやすく親子上場についての考え方、メリット・デメリット、合理性について説明するよう求めたものです。グループ内の事業機会の配分や調整などについても開示を求めています。
個人投資家が気をつけること
こうした流れは、何も親子上場の銘柄を保有している投資家だけに関係のあることではありません。昨今では親子上場解消に加えて、経営陣による買収(MBO)での非上場化の動きも加速しています。
本来、株式を上場しておくということは、銀行金利よりも高いリターンを稼ぐことが上場企業にとって求められているはずでしたが、欧米に比べて日本は遅れていた部分がありました。
昨今の株主重視、資本効率の見直しでこうした本来上場している必要のない企業の非上場化が進むことは、資本市場にとっても大きなプラスの流れといえます。
なかでも、11月にトヨタ自動車<7203>が政策持ち合い株の見直しを強化し、グループの持ち株を売却していることは、その象徴的な出来事のひとつとして市場関係者に捉えられています。
2024年の株式相場において日本株への期待材料は様々ですが、資本市場の活性化は、特にコーポレートガバナンスを重視する海外投資家にとって大きなアピールポイントとなりそうです。