株価急落で「狼狽売り」をしないために初心者が絶対にやるべきこと

山下耕太郎
2024年8月7日 9時00分

8月に入り、株式市場は大荒れの様相を見せています。5日に史上最大の下げ幅を記録したかと思えば、翌6日には史上最大の上げ幅をつけるほどの反動を見せました。

今回の株価急落の背景には、日銀による追加利上げやアメリカの景気減速への懸念などがありますが、それに加えて、急速な値動きに慌てた投資家による「狼狽売り」が多く出たことも、要因のひとつとして指摘されています。

その狼狽売りは、損切りではない

初心者は損切りロスカット)が苦手だとよくいわれます。損失が出てもそのまま保有し続け、いつか株価が戻るのを待つ傾向があるのです。

しかし、「損失を確定してでも売るべきタイミング」を見極めることが、投資判断の鍵です。だからこそ、初心者は損切りをためらわないようにアドバイスされるのです。

ただ、損切りは狼狽売りパニック売り)とは異なることを理解することも重要です。冷静に考え、売るべきと判断したならば、損失を恐れて保有し続けるべきではありません。

これは必ずしも、株価が急落した場合には即座に売却すべき、と言いたいわけではありません。全体的な市場の動向を考慮しながら判断する必要があります。

損切りと狼狽売りを区別することは容易ではありませんが、市場全体が下落トレンドになった場合は、狼狽売りを避けて待つほうがいいでしょう。市場の感情は「楽観」と「悲観」の間を行ったり来たりするため、冷静さを保ちながら、じっくり待つことが重要になります。

その一方で、個別銘柄が大幅に下落した場合には、速やかに損切りするほうがいいことが多いです。というのも、企業固有の事情などで株価が急落するような場合は、回復までに時間がかかることが多く、すぐ元に戻ることを期待するのは難しいからです。

まずは、損切りラインを決めておくことが大切です。そして、株価がその損切りラインに達したら、必ず売る!のです。これを徹底することで、狼狽売りを避けられる確率は上がります。

株式投資にメンタルが重要な理由

株式投資においては、ファンダメンタルズやテクニカル分析といった専門知識と同じくらい、メンタルのコンディションが重要です。

どんなに知識が豊富で経験を十分に積んだ投資家であっても、〇〇ショックといった暴落のときに冷静な判断ができなければ、その一度きりの失敗で、市場から退出してしまうこともあるのです。

そこで、投資で失敗しないために「投資心理学」を学んでおくことも大切になります。

そのひとつが「プロスペクト理論」です。人には損失を避けようとする傾向があり、そのため状況に応じて判断が変わる、ということを教えてくれます。

このプロスペクト理論によれば、人は不確実な状況であっても「見込み」で期待を歪め、客観的な事実だけで合理的な意思決定をすることができなくなります。

プロスペクト理論は行動経済学の一部であり、心理学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによって提唱されました。彼らの業績は行動経済学の基礎を築き、その功績から2002年にノーベル経済学賞を受賞しています。

なぜ、ナンピン買いをしてしまうのか

このプロスペクト理論の中心をなす考えが「損失回避性」です。これは、同じ金額でも損失の苦痛は利益の喜びの2倍になる、という考えです。

そして、損失回避性の代表が「ナンピン買い」です。ナンピン買いとは、株価下落時に追加投資を行い、平均取得コストを下げることです。

ナンピン買いによって、元の購入価格に戻った場合には利益を得ることができます。ナンピン買いは、相場全体が悪化している場合には効果的な手段となることもあります。

ただし、企業の業績悪化など個別の要因による株価下落の場合には、ナンピン買いを行ってもリスクを増大させるだけです。それでも、損失の苦痛を和らげるためにナンピン買いをしてしまう投資家が多いのです。

さらにナンピン買いでは、「参照点依存性」という心理的な要素も影響します。投資家は、絶対値ではなく購入価格(=参照点)からの変化に基づいて判断する傾向があるからです。

つまり、購入価格が参照点となって、その価格からの下落があれば「割安」と判断して、ナンピン買いを行ってしまう傾向があるのです。

しかし、本来ならば、企業の業績などをもとに株価が割安かどうかを判断すべきでしょう。

ルールを守る鍵は平常心

狼狽売りを避けるには事前に損切りルールを決めておくことが重要ですが、問題は、そうやって決めたルールをきちんと守れるかどうか、です。

結局のところ、狼狽売りをしないために最も大切なのは、平常心を保つことです。

そこで、ウォール街の投資家などの間では、瞑想を取り入れる人も増えています。瞑想によってストレスを軽減し、心をリラックスさせることで、マーケットの動きに一喜一憂することなく取引できるようになると言われています。

目を閉じて深呼吸するだけでも、だいぶ心は落ち着くはずです。株価急落時には誰しも平静を失ってしまいがちですが、まずは落ち着いて、冷静に投資判断を下すことを心がけましょう。

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[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
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