変わる日本企業の株主還元で、日本株がアメリカ株より優位になる可能性も

山下耕太郎
2022年6月16日 11時30分

gttkscg/Adobe Stock

株主還元が変わる!

株主還元とは、企業が事業活動によって得た利益を株主に還元することをいいます。還元方法としては、増配(配当を増やすこと)や自社株買い、株主優待などがあります。 

実は2022年になって、個人投資家に人気のある株主優待を廃止する動きが広がっています。オリックス8591>のカタログギフトや日本たばこ産業JT)<2914>の食品詰め合わせなどが最近の代表例です。

オリックスが100株以上保有する国内株主を対象に実施している優待制度は、オリックスの取引先が取り扱う日本全国の幅広い商品から選択できるため、個人投資家に好評でした。個人株主数は、この優待が導入される前の2014年3月末には約5万人でしたが、2022年3月末には約82万人にまで増えています。

しかし、2024年3月末に送付される分をもって、この株主優待を終了。今後は、配当等を通じて株主に利益を還元していく予定と発表しています。 

JTも、2023年から優待制度を廃止します。202212月末時点で100株以上を1年以上保有している株主に自社の食料品を贈りますが、それが最後です。

株主優待を廃止する企業が増えている理由

これまで、長期保有が見込める個人株主を増やすために、各社は株主優待の商品の選定に工夫を凝らしてきました。しかし、その恩恵を受けられない海外投資家からは「不平等だ」との声も出ていました。

そこで、株主への公平な利益還元のあり方という観点から株主優待制度を廃止し、今後は自社株買いや配当などによる利益還元を行っていく方針なのです。

また、2022年4月の東証の市場再編で、上場基準となる株主数が現在よりも緩和されたことも影響しています。東証1部に代わって誕生したプライム市場に必要な株主数は「800人以上」となり、以前の東証1部の「2,200人以上」から緩和されたのです。

つまり、これまで個人株主を確保するためのひとつの方策であった株主優待制度の必要性が薄れたのです。

増える自社株買い

株主優待制度を廃止する企業が増える一方、自社株買いを実施する企業が増えています。2022年5月25日時点で、720社以上の上場企業が自社株買いを発表しています。これは、昨年の自社株買い実施数の97%にすでに達しており、年間で最も多かった2019年(840社超)の記録を上回る勢いです。

そして、2022年4月から5月にかけての2か月間で企業が発表した2022年度の買い入れ枠は計4兆2000億円と、前年同期の約2倍となりました。日立製作所6501>が8年ぶりに2,000億円規模の取得を決定するなど、大型の購入が目立ちます。

新型コロナウイルスの発生で落ち込んでいた業績が回復に向かい、危機の間に蓄えた資金を株主に還元する動きが出てきているのです。 

自社株買いを実施する企業が増えている理由

自社株買いは自己株式取得の一種で、過去に発行した株式を、企業が自己資金で直接株式市場から買い戻すことをいいます。その目的は、株主への利益還元やストックオプション(従業員持株会)などに充当するために行われます。

自己株式の取得と消却(株式を消滅させること)により、利益の絶対額は変わらなくても、1株あたりの資産価値や自己資本利益率(ROE)が向上します。それは株価にとってもプラスの材料になります。また、余裕資金を自社株買いにあてて、資本効率を改善する狙いもあります。

株主還元策として株主優待に代わって増えている自社株買いですが、アメリカの2022年初からの取得枠設定は4,000億ドル(約52兆円)と日本企業の約20倍です。日本においても、自社株買いによるさらに積極的な株主還元策が必要だといえるでしょう。

配当を充実させる企業も

自社株買いだけでなく、配当による株主への利益還元を充実させる企業も増えています。日経平均株価とプライム市場、スタンダード市場それぞれの現在の予想配当利回りは、次のようになっています。

プライム市場やスタンダード市場の予想配当利回りは2%を超えていますが、一般的に配当利回り3%以上を「高配当株」といいます。なかには日本郵船9101>や商船三井9104>など、予想配当利回りが10%を超えるような銘柄もあります。

配当利回りは、年間配当金の株価に対する比率を示す指標です。1株あたりの年間配当金を現在の株価で割って求めます。たとえば、現在の株価が2,000円で年間配当が60円の場合、配当利回りは3%(=60円÷2,000円)となります。

投資家の立場からすると、企業が配当を減らす(減配)リスクはありますが、株価上昇による値上がり益よりも配当のほうが確実性は高いため、配当利回りを重視する投資家もいます。 

ただ、強固な財務基盤が安定した株主還元を可能にするので、負債が多すぎないか、潤沢なキャッシュがあるかなどをチェックする必要があります。

日本株の魅力が高まる?

今後、予想配当利回りの上昇や自社株買いの増加といった株主還元の強化によって、日本株の魅力が高まると考えられます。また、日経平均株価のPER15倍前後が適正と考えられていますが、6月日時点のPER13.25倍で割安感も強まっています。

2021年までは、日本株に対してアメリカ株が優位な展開が続いていました。しかし、こうした株主還元策の強化と円安によって外国人投資家の日本株への関心が高まれば、今後はむしろ日本株のほうがアメリカ株に対して優位になるかもしれません。

[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
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