鍋敷きにしない『四季報』活用法 見るべきはページの“隅っこ”
ベストセラー『四季報』を活用する
1936年(昭和11年)創刊、今年で80周年になる雑誌『会社四季報』は、個人投資家がインターネットで投資情報を楽に収集できるようになった今でも、書店にずらりと平積みされるベストセラーです。
しかし、分厚いし、字が多すぎてどこを見ていいかわからない。で結局、鍋敷きになったりしていないでしょうか?
会社四季報はベストセラーです。ゆえに、会社四季報によって相場が動く可能性もあります。何によって相場が動くのかを理解し、自身の投資への参考にしましょう。
全社取材をもとにした独自の業績予想
会社四季報(以下、四季報)は名前のとおり季刊の雑誌で、毎年3・6・9・12月に発売されます。たいてい13日が発売日になることが多いですが、若干前後することもあります。
まず四季報のいいところは、あらゆる上場企業の情報が、統一されたフォーマットで見られる点です。投資のために企業のIRページを見ている人も多いと思いますが、IR活動をどれだけ行うかは、企業によって面白いくらい違いますよね。
四半期ごとに決算説明会を開催し、その撮影動画をホームページ上で公開するような「どんどん見てやってくださいよ!」という企業から、そこまで秘密主義なら、なぜ上場するのか不思議になるほど「つれない」ところまで。
そんな「つれない」企業も、さすがに四季報の取材に対して「ノーコメントです」とはいきません。したがって、「つれない」企業の貴重な情報が見られるのは、四季報ならではのメリットと言えるでしょう。投資対象に考えている企業が「つれない」系であるほど、四季報は要チェックです。
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さらに、四季報の最大の特徴は、対象となるすべての上場会社に、四半期ごとに記者が直接取材を行い、四季報独自の業績予想数値を立てている点です。
上場会社は「今年度はどれだけの売上高、営業利益、経常利益、当期純利益を出せそうか」という業績予想数値(計画値)を発表します。四季報ではそれとは別に、取材をもとにした「この企業は今年度これだけの売上高~当期純利益になりそうだ」という予想を出すのです。
赤枠内の数値が2017年3月、2018年3月における四季報側の予想数値(『会社四季報』2016年4集より)
このとき、企業が発表する数値と、四季報が予想する数値が一致するとは限りません。企業は好調が続くと予想しても、四季報側が、それを否定するような予想を立てることもあり得ます。
もちろん四季報の予想が的中するとも限らず、そもそも株価は、企業業績に忠実にリンクするほど単純なものではありません。それでも、3000を超える上場企業の中から、どの企業に投資しようか考えたときに、この「ズレ」はひとつのヒントになります。
「ニコニコ」と「しょっぱい」マークに注目
じゃあ、その「ズレ」に注目してみよう! と思っても、実は四季報には、「四季報が考えた予想数値」しか掲載されておらず、「企業の計画値はどうなのか」は載っていません。
でも、ご安心ください。四季報には、この「四季報予想と企業計画のズレがどのくらいなのか」が、パラパラと眺めているだけでもすぐにわかるような工夫がしてあります。注目すべきは、ページの“端っこ”です。
四季報が、企業の計画値よりも営業利益が増額すると予想すれば、上の赤枠の位置に、ご覧のような「ニコニコマーク」がつきます。反対に、計画値よりも利益は減額すると四季報が判断した場合には、同じ位置に「“しょっぱそう”な表情のマーク」がつくことになります。
この欄の表示は、以下の5つのうちのどれかになります。
- 大幅強気(ニコニコ2つ)……営業利益の乖離が30%以上
- 会社比強気(ニコニコ1つ)……営業利益の乖離が3~30%未満、またはゼロから黒字
- 会社比弱気(しょっぱい1つ)……営業利益の乖離が−3~−30%未満、またはゼロから赤字
- 大幅弱気(しょっぱい2つ)……営業利益の乖離が−30%以上
- 何も書かれていない……上記のどれでもない
しかしながら、このニコニコ/しょっぱいマークは、そもそもそんなに多くはありません。なぜなら、東京証券取引所が出している『決算単身・四半期決算短針作成要領』によると、以下の場合には速やかに修正の開示を出すように、とされているからです。
- 売上高が事前の予想より10%以上増減しているとき
- 経常利益、当期純利益が30%以上増減しているとき
つまり、企業側がこうした報告を出していない状態で、なおかつ企業計画値と四季報予想が大きくズレている場合にのみ、ニコニコ/しょっぱいマークがつくことになります。
ちなみに、四季報の最新号(2016年4集)では、証券コードが1000番台の196社のうち、ニコニコマーク2つの「大幅強気」は9社、しょっぱいマーク2つの「大幅弱気」は1社のみでした。
なお、「売上高」でなく「営業利益」で見ている点に注意しましょう。これは、四季報の見出しや本文にも言えることで、特に主語のないときは「売上高」ではなく「営業利益」を指しています。
「四季報相場」は本当に存在するのか?
では、企業計画値と四季報予想のズレは、どのように株価に影響するのでしょうか。最新号で四季報予想が「大幅強気」だった企業のひとつ、美樹工業<1718>で見てみましょう。
四季報2016年4集の発売日は9月16日(金曜日)でした。前日15日の終値393円から、発売日当日の終値は416円(約5.9%上昇)、さらに土・日・祝日が明けた20日には、その時点での年初来最高値(437円)を更新しています。
四季報の情報によって相場が変動することを「四季報相場」と言います。では、この株価の上昇も四季報相場によるものなのか、と言えば、必ずしもそうとは言い切れません。当日に画期的なニュースリリースが出ていたのかもしれないからです。
ただ、そうは言っても、日本中の大勢の投資家がチェックしている四季報です。「もしかすると集団心理が動いた四季報相場だったのかも?」とも読み解けるわけです。
一方、しょっぱいマーク2つの「大幅弱気」だったヤマダ・エスバイエルホーム<1919>の株価推移も見てみましょう。こちらは大きな動きはありませんでした。
四季報相場に乗ってみるなら
ということで、当然ですが、ニコニコマークやしょっぱいマークが2つ出たからといって「必ず」相場が派手に動くわけではないのです。投資の世界に「絶対」はありません。「動きやすくなる(動くかもしれない)シグナルのひとつ」が点灯するだけです。
そのシグナルは、画期的なニュースリリース(新サービスの発表、企業買収など)、世界経済の動向、トレード派でチャートを見る人ならチャートの形など、それこそたくさんの要素があります。たったひとつの要素だけで動いた、と言うことはできません。
要素がありすぎて困ってしまうほどですが、それでも一番まずいのは「なんとなく」でやってしまう投資でしょう。それでは「なぜうまくいったのか(失敗したのか)」の確認もできません。絶対ではないものの、大勢の人があてにしている要素に乗っかってみる、というのはひとつのやり方かもしれません。
たとえば四季報相場を狙って、発売日当日に即「ニコニコ」企業の株を購入し、期待どおり株価が上昇したらさっさと売り抜けてしまう、という短期トレードができるでしょう。また、「ニコニコ」企業の将来性に期待して長期保有する、という投資もあり得ます。
もちろん、短期だろうと中長期だろうと、想定どおりにいかないことはありますので、いくらになったら損切りするかのルールも用意しておきましょう。
用途に合わせてよりどりみどり
ところで、会社四季報は通常版以外に、大判の『ワイド版』もあります。こちらでは、ニコニコマークがついた企業だけを抽出したランキングが付録でついているので、通常版でニコニコを探すのが面倒だという人にお勧めです。
さらに、銘柄を500に厳選した雑誌『会社四季報プロ500』も同時に発売されます。そのほか、ウェブサイトの「会社四季報オンライン」でも、ニコニコマークのついた企業を抽出した記事が提供されています。
またCD-ROM版もあり、過去1年分のデータが見られるのが利点です。四季報の過去の予想が当たっていたかどうかも確認できるため、四季報予想の精度を見るためにも参考になるでしょう。雑誌の四季報は分厚いので、場所をとらないという意味でもCD-ROMはお勧めです。
一方、紙ならではのいいところもあります。全上場企業の月足チャートが各ページの上部に記載されているので、パラパラとめくっているだけでも、好みの動きをする企業を見つけられるでしょう。この「何気なくパラパラ」ができるのは雑誌の魅力と言えます。
四季報の種類をまとめると以下のようになります。
- 通常の会社四季報
- 会社四季報ワイド版(ニコニコ/しょっぱいのまとめあり)
- 会社四季報プロ500(銘柄を500に厳選)
- 会社四季報CD-ROM版(過去1年分の情報を見られる)
- 会社四季報オンライン(ニコニコ/しょっぱいのまとめあり)
ひと口に「四季報」と言っても、実はこれだけバリエーションがあります。自分の用途や好みに合ったスタイルを見つけてください。
今後はニコニコに注目!
『会社四季報』には、独自予測という特徴と、それを速やかに知るための工夫がされていることをおわかりいただけたでしょうか。また、書店で見かけるおなじみの雑誌版だけでなく、さまざまな形態があることもご紹介しました。
この2点を踏まえ、これまで四季報を買ったことのない人は、まずはニコニコ(しょっぱい)に注目してみてください。すでに四季報を買っている人も、次回は別の形態の変えてみると、思わぬ新たな発見があるかもしれませんよ。
四季報は、80年も投資家たちに愛されている“バイブル”。あなたの投資にも上手に活用してください。