何を買う? どうやって買う? 新NISAの正しい買い方とは
2024年1月より新NISAが始まりました。新しくNISA口座を作った人もいるでしょうし、これを機に株式投資を始めた人も多いでしょう。
ただ、なかには新NISAを「新しい金融商品」のように捉えていたり、「銀行に預けるよりも儲かる」と思っていたり、さまざまな誤解も多いようです。国の政策であるがゆえに、「国が推奨するんだから」といった間違った安全神話があるようなのです。
あとになって「こんなはずじゃなかった……」と後悔しないよう、そもそもNISAとは何なのか、どのように買っていけばいいのかなど、いま一度ちゃんと確認しましょう。
NISAとは税制優遇の制度
NISA(少額投資非課税制度)とは、もともと一般の個人投資家の資産形成を支援するために、2014年にイギリスのISA(Individual Savings Account=個人貯蓄口座)をモデルとして作られた「税制優遇制度」です。
NISAという金融商品があるわけではなく、また、NISA口座にお金を入れておけば自動で運用してもらえるわけでもありません。投資先(購入する株式や投資信託)を選ぶのは、自分自身です。
NISAとは、専用の口座(NISA口座)で取引した株式や投資信託によって得た配当金や売却益(売って得た利益)に対しては一切の税金がかからない、という制度です。これが、個人が資産形成するにあたっては最強の味方ともいえるNISAの根幹です。
このNISAが、岸田政権の資産所得倍増プランの目玉政策として、2024年1月から「新NISA」として大幅リニューアルされました。
なかでも画期的だったのが、制度の恒久化と非課税保有期間の無期限化(どちらも、それまでは期限付きだった)、そして、一人につき1800万円まで非課税で投資できる「生涯投資枠」が設けられたことです。加えて、投資枠の復活(再利用)が可能になった点など、使い勝手も飛躍的に良くなりました。
旧NISAとの違いや新NISAの特徴・メリットなどについては、こちらの記事を参考にしてください。
〈参考記事〉新NISAは魅力マシマシ 資産形成に大きな差が出る銘柄選びのヒント
新NISAでは利益を追求しない
新NISAは「絶対にやらないと損!」ともいえる大改正ですが、裏を返すと「『最高の箱(新NISA)』を用意したので、あとは自分のお金は自分で用意してくださいね!」という国からの強いメッセージとも受け取れます。
長寿化が進む中、将来受け取る公的年金や退職給付(退職一時金や企業年金)だけでは生活費が不足する可能性が高く、自分でも早い時期から資産形成を行う必要があります。また、将来の物価高に備えて、家計のインフレ耐性も高めなければなりません。
2019年に金融庁が出した「老後資金2000万円問題」が騒動となったのは記憶に新しいところです。
新NISAでは、この9割にあたる1800万円まで投資枠を拡大したことで、老後に必要な資金をNISA口座だけの資産運用で形成することが、ほぼ可能になりました。夫婦2人であれば3600万円になり、多くの国民にとっては「NISA口座だけで十分な資産運用ができる」といえるのではないでしょうか。
たとえば、新NISAを活用して資産形成を行い、教育資金や住宅資金などライフイベントに合わせて取り崩しながらも、最終的には老後資金に向けて運用していく……など、個人のライフプランに合わせた柔軟な資産運用が新NISAの登場でできるようになりました。
つまり、新NISAとは投資による利益追求のためにあるものではなく、「長期にわたり安定的な資産形成を行うためのツール」として使うことが大前提なのです。
新NISAをどう活用する?
では、安定的な資産形成のために、新NISAをどう活用すればいいでしょうか?
安定的な資産形成には「貯蓄」と「投資」の2つの方法があります。「貯蓄」は文字どおりお金を貯めることですが、「投資」では、より多くの利益を見込んでお金を使います。
資産形成を有利に進めるには、預貯金でお金を貯めるだけでなく、少しでも高い利回りを期待できる株式や投資信託に投資して、お金を増やしていく必要があります。このとき、NISAを優先的に活用すれば、税金を払うことなく、効率的に資産形成ができるのです。
多くの人にとって、新NISAの生涯投資枠(1800万円)は、資産形成を行うのに十分な規模です。そこで、なるべく早くこの枠を埋めてしまって長期で資産運用を続ける、というのが新NISAを活用した資産形成の〝王道〟となります。
たとえば、つみたて投資枠で毎月10万円の積み立て投資を行い、成長投資枠では240万円分の株式や投資信託を購入すれば、年間で360万円になります。これを繰り返せば、最短5年間で1800万円の生涯投資枠を埋めることができます。
特に、これから老後に備える40代・50代以降の人は、現在の預貯金を投資に回して、つみたて投資枠と成長枠を併用して枠いっぱいに保有することも考えたほうがいいでしょう。新NISAで老後資金を確保しながらも、効率的な運用を行うことで、必要な応じて計画的に取り崩していけばいいのです。
若い世代の場合も、なるべく早い時期から新NISAを使って、コツコツとした資産形成を長期的に行うのが最適解だと言えます。
新NISAはどうやって買う?
新NISAを活用した資産形成として、まずは優先したいのが「つみたて投資枠」です。幅広く分散投資を行うことで、資産形成のベースを作ります。
資産形成を目的とする投資の場合、短期間で売ったり買ったりせず、長期にわたって積み立てていくだけでもOKです。長期で運用するほど、複利効果(投資で得られた収益を元本にプラスして運用することで、より多くの利益を得られること)も大きくなります。
もちろん、投資にリスクは付き物です。それでも、投資対象の幅を広げてリスクを分散し、早く始めることで時間を味方につけて、気長にコツコツと元本と運用益を積み上げていけば、安全な資産形成が期待できます。
つみたて投資枠の年間上限は120万円なので、毎月の積み立てであれば、月々10万円まで可能です。
では、何を積み立てるか。新NISAのつみたて投資枠では、一定の基準を満たした投資信託やETF(上場投資信託)から投資先を選ぶことになります。長期の資産形成に適したものとして金融庁が認めた、いわば、金融庁のお墨付きのものです。
長期投資では「幅広い分散投資」が最も重要なポイントとなります。そこで、日本を含む全世界の株式に幅広く分散して投資するインデックス投資信託(全世界株式インデックスファンド)が、長期的な資産形成には効果的でしょう。
つみたて投資枠だけでも、生涯投資枠の1800万円を使い切ることは可能です(年120万円の積み立てなら15年間)。とはいえ、まずは無理のない範囲で少額からでもいいので始めて、徐々に金額を増やすなどして資産を積み上げていってください。
新NISAで個別株を買ってみよう
資金に余裕があるなら、ぜひとも「成長投資枠」も活用しましょう。
ちなみに、つみたて投資枠の対象商品を、成長投資枠で同時に購入することもできます。両方の枠で同じ商品を買っておけば、チェックする情報も少なく済みますし、管理もしやすいでしょう。
ただ、成長投資枠では、個別株式のほか、つみたて投資枠の対象ではない、より高い利回りを目指す投資信託なども購入することができます。
投資経験者なら新NISAでも個別株に挑戦したいでしょうし、好きな企業など具体的に買いたい銘柄があるかもしれません。そういった場合は、つみたて投資枠は投資信託、成長投資枠は個別株、と使い分けるのもいいでしょう。
成長投資枠の年間上限は240万円。この枠に収まるよう株式分割を行った企業も多く、投資できる銘柄が増えました(たとえば、株価1000円のときに1株を2株に分けると株価は500円になり、投資家は、それまでの半額で買えるようになる)。
注意したいのは、枠の再利用です。NISA口座で保有している資産(株式や投資信託)を売却すれば、その非課税枠分は復活し、新たな非課税枠として再利用できます。ただし、復活するのは翌年から。年間では240万円しか購入できませんので、何度も売買を繰り返す短期売買には向いていません。
新NISAは長期的な資産形成のためのツールです。個別株に投資する場合でも、やはり長期で保有できる銘柄を選びたいところです。なかでも、知名度があって配当利回りが高い銘柄が人気となっています。
新NISAは案外シンプルだけど
新NISAの開始にあわせて、メディアではさまざま情報や解説記事が飛び交い、金融機関はこぞって「NISAを始めよう」という広告を打っています。また、日経平均株価が史上最高値を更新するなど、株式市場にも盛り上がりが戻ってきました。
そんな中、新NISAが気になっているけど仕組みがよくわからない、口座は作ったけれど何を買えばいいのか悩んでいる、とりあえず買ってみたけれど今後どうすればいいの……? などなど、不安や悩みを抱いている人もいるのではないでしょうか。
でも、新NISAという制度の本来の目的を理解すれば、答えは案外シンプルだとわかります。
あとは、自分自身のニーズや目的(何のために資産形成をするのか、どれくらいの資産を目指すのか)、リスク許容度(どれくらいなら損をできるのか)に合わせて、自分に最も適した運用スタイルを見つけ、それに近づけていけばいいのです。
そのうえで、ライフステージや生活環境の変化に応じて、適宜、見直しを行いましょう。「NISAはほったらかしで大丈夫」という宣伝文句も見かけますが、投資であるかぎり、リスクは常にあるものと思って、たまにはNISA口座の様子を確認しましょう。