もしも相続する遺産の中に「株」があったら? 自動的に分割されない点に注意

長嶺超輝
2018年1月22日 12時00分

「家族に内緒で株をやっている」という人は、意外と多くいます。もし遺産の中に証券会社の口座があったら、残された家族はどうすればいいでしょうか。亡くなった方を除いて株と縁のない家庭だったら、一体どうすればいいのかわからずに面食らってしまうかもしれません。

株式は、他の遺産と何が違う?

遺産に組みこまれた株式を相続するときは、何が問題となるのでしょう。まずは、現金(預貯金)を相続するときと比べてみましょう。

株式は「価値」がどんどん変動する

株式の価格(株価)は日々動いています。つまり、遺産としての株式の価値も日々変わっている、ということです。場合によっては、急いで「利益確定」をしなければ株価がどんどん下がってしまうこともありえます。

一方で、そのまま持っていれば、もっと株価が上がっていく場合もあるので、相続人の間での話し合い(遺産分割協議)で、揉める原因のひとつになるかもしれません。

現金の相続であれば、預貯金の利息が付くぐらいのもので、株式のような値動きはありません。1万円は1万円です。一般的には相続分の割合に応じて額面どおりに分ければ、まず揉めることはありません(実際には為替変動によって日本円の価値も変動しますが)。

現金なら自動的に「分割」される

相続人が複数いる場合、何もしなければ、遺産は「法定相続分」に応じて分けられているものとして法律上扱います。

たとえば夫婦と子ども2人がいて、夫(父)が亡くなった場合、法定相続分は「配偶者=2分の1:子=2分の1」となります。そして子どもは、その2分の1の相続分を公平に分けるので、それぞれ「4分の1」ずつになります。

配偶者:子 = 1:1 →(子どもが2人なら)→ 配偶者:長子:次子 = 2:1:1

夫の遺産が「現金1000万円」であれば、夫の死亡の瞬間、妻に500万円、2人の子どもに250万円ずつが相続されたものとして扱います。その後、遺産分割協議という話し合いによって異なる分け方にしても構わないのですが、基本は自動的に分割されているのです。

株式は相続人の間で「共有」になる

一方で、夫の遺産が「某社の株・1000株」だった場合、妻に500株、2人の子どもに250株ずつが相続されたものと扱う……わけではありません。ここに注意が必要です。

株式を相続した場合、その1000株を、残された家族がみんなで所持するかたちになります。これを「共有」(正確には「準共有」)といいます。ただし、1000株の「持ち分」として、妻が2分の1、2人の子どもが4分の1ずつを所持する計算です。

そして、準共有状態の株式は、共有者全員の同意がなければ売ることができません。お母さんは「株なんてわからないから、すぐに売りたい」と思っても、子どもたちが「もっと値上がりするかもしれないから持っていようよ」と言うかもしれないのです。

そうであれば、共有者全員が話し合って、誰か1人に管理させておいたほうが合理的です。よって、複数の相続人が株式を相続したときは、その後の遺産分割協議がほぼ必須となります。

株式を相続する「受け皿」として口座が必要

株式は、証券会社の口座で管理されています。そして、口座名義人の死亡によって口座が凍結され、いったん引き出せなくなるのは、預貯金の口座と同様です。必要な手続きを踏むことで、凍結された口座の遺産が相続人の口座へ正式に移ることになります。

株式の相続のために証券会社へ提出すべき書類は、一般的に次の通りとされています(証券会社によって扱いが異なる場合があります)。

  • 相続による株式名義書き換え依頼書
  • 遺産分割協議書
  • 戸籍謄本(亡くなった方の出生から死亡まで、さらに相続人全員について現在のもの)
  • 印鑑証明書(相続人全員)

もし相続人が証券口座を持っていなければ、たとえ遺産の株式をすぐに売却するつもりであっても、それをいったん相続する目的で、証券会社口座を開設する必要があります。

また、数千万~億単位の遺産を相続する場合は、相続税の納税問題も生じます。相続税は現金を納めなくてはいけませんので、遺産のほとんどが株式であれば、納税分の現金を調達するために売却する必要があるかもしれません。

遺産の中に「株券」を見つけたんですけど?

現在、日本の証券取引所に上場されている株式会社の株式は、2009年の時点ですべて電子化されています。もし遺産の中に、電子化の手続きをしないままの「株券」を見つけたら、その株券自体にはもう価値はなくなっています。

しかし、かつて株券として保有していた「株主としての権利(株式)」は、信託銀行などの金融機関の「特別口座」に保管されています。ただし、特別口座に保管されている株式は、売買や贈与などの取引ができない状態です。そのままでは相続人が受け取ることもできません。

まずは、株券を発行している株式会社に問い合わせて、特別口座が置かれている金融機関を特定しましょう。それから、特別口座の株式を自分の証券口座へ振り替える手続きを行います。証券会社に口座がなければ、前に述べたとおり、相続用に新規開設することになります。

遺産の株式が上場されていなかったら?

株式市場に上場していない企業の株式を相続するケースもありえます。その場合は、まず会社に保管されている株主名簿を確認します。そして、相続人が会社に対して株主名簿の名義書換請求を行うことで、遺産の株式を相続できるようになります。

中小規模の株式会社の発行済み株式は、社長や一部の役員だけが保有していることが多いはずです。社外では、せいぜい社長の家族が持っているぐらいでしょう。中小企業の経営者は、自社株の相続に備えて、あらかじめ家族に株式名簿のありかを伝えておくといいのではないでしょうか。

ただし、非上場の大企業も多くあります。遺産の中から見つかった株式によって、故人の思わぬ一面を知ることもある……なんてこともあるかもしれません。

「権利の相続」ということ

親の株式を相続したことをきっかけに株式投資に始める人も多くいます。その一方で、よくわからないから手続きしないままにしていたり、株券を捨ててしまったり、そもそも遺産に株式が含まれていることに気づかないケースもあるかもしれません。

株式は、単に投資対象であるだけでなく、会社に対する支配権そのものです。家族が知らなかったばかりに権利が放置されることのないよう、せめて「株をやっている」ということは家族に知らせておくといいかと思われます。

[執筆者]長嶺超輝
長嶺超輝
[ながみね・まさき]法律・裁判ライター。1975年、長崎生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫した。30万部超のベストセラー『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)のほか著書多数。
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