【集中連載】気になる相続対策その1 相続が始まった後にできること
相続対策は「前」と「後」がある
遺産相続にあたって考えておきたいのが、相続対策です。
相続対策は、大きく分けて、「相続が始まった後にできること」と「相続の前にできること」の2つがあります。今回はまず、相続が始まった後に相続人が実行できる相続対策にはどんなものがあるかを見ていきましょう。
(1)遺産分割
相続で最もトラブルが起きやすいのが、誰が何をどれくらい相続するか、という問題です。
夫婦と子ども2人(男女)の4人家族だとして、もしも夫(父)が亡くなったら、法定相続分は妻(母)が2分の1、長男と長女がそれぞれ4分の1となります。
夫の遺産の中でも現金や預貯金であれば、そのとおりの割合で分けやすいのですが、土地や建物、自動車などを法定相続分どおりに分けるなら、それぞれが3人の共有財産となってしまいます。それでは、使い勝手や具合が悪いこともあるでしょう。
そこで、法定相続人の3人で話し合って、法定相続分よりも納得がいく分け方を決めることができます。たとえば、妻が建物、長男が自動車、長女が土地をそれぞれ単独所有にすることも可能なのです。
こうした話し合いと決定の手続きを「遺産分割協議」といいます。
ただし、法定相続人だけでは、話し合いがまとまらない場合もあるでしょう。その際は、裁判所の調停委員が話し合いに加わって仲裁する「遺産分割調停」に持ちこむこともできます。
(2)相続税の「延納」
相続において、遺産分割の次に厄介なのが相続税です。相続の開始(被相続人の死亡)の翌日から10か月以内に納めなければならない、というのが原則です。
しかし、次の条件を満たす場合は、期限を過ぎた後の「延納」が認められます。
- 納めるべき相続税額が10万円を超えている
- 現金での納付が難しい事情がある
- 延納に必要な書類を期限内に提出している
- 相当の担保を税務署に提供している(延納税額50万円以上、または延納期間が3年を超える場合)
延納の担保とは、納めるべき相続税額に相当する経済的価値を持つ国債や地方債、不動産、あるいは税務署長が確実と認める株式や保証人などです。
(3)相続税の「物納」
相続税は、現金によって納めることが原則です。あるいは、税額に相当する約束手形や収入印紙などによる納付も可能です。
しかし、現金・手形・印紙などによる納付が難しい事情があれば、遺産の中の不動産や乗用車などによって、相続税を納めることも認められる場合があります。これを「物納」といいます。
物納が認められる条件は、次の通りです。
- たとえ延納を認めてもらっても、資産の売却、ないし換金が難しい事情がある(事業の売上が伸びる見込みや、退職金など臨時収入の見込みもない)
- 税法で定められた方式に沿っており、物納の必要書類を期限内に提出している
- 物納適格財産である
「物納適格財産」とは、次の通りです。①~③の順序で、物納が優先的に処理されます。
1 国債や地方債、土地、建物、船舶
2 株式、社債
3 動産(乗用車やコンピュータ、宝飾品、美術品など)
そもそも物納適格財産には、現金や印紙のように額面が付いていません。よって、納税に足りるだけの資産価値があるかどうか、税務署や財務局が調査を行い、物納申請に対して「許可」か「却下」かが決定されることになります。
【集中連載】知っておきたい相続の基礎知識
1 株をやるなら必ず押さえておきたい「相続」の基礎知識
2 だれが相続人になるのか? 法定相続人の序列とその割合
3 相続税はいくらになるのか? 計算方法と遺産分割のポイント
4 意外と知らない相続のスケジュールと、手続きの注意点
5 気になる相続対策その1 相続が始まった後にできること(本記事)
6 気になる相続対策その2 相続が始まる前にしておけること