【集中連載】相続税はいくらになるのか? 計算方法と遺産分割のポイント

長嶺超輝
2018年8月5日 11時00分

株をやるなら必ず押さえておきたい相続の基礎知識を、集中連載で解説しています。前回は、「相続人」の序列とその割合について説明しました。今回は、「相続税」の基本的な計算方法について解説します。

その遺産に相続税はかかるのか?

ある人が亡くなり、相続が始まるとしましょう。その遺産に「相続税」が課されるのかどうかを判断するには、まず「基礎控除」を計算しなければなりません。

相続税がかかるボーダーライン

遺産に相続税が課されないボーダーラインである基礎控除額は、次の計算式で求めます(式の中の「法定相続人」については前回の記事を参照のこと)。

基礎控除額 = (法定相続人の数 × 600万円) + 3,000万円

もし、遺産の総額がこの基礎控除額より少なければ、相続税は課されません。遺産の総額が基礎控除額を超えているときに初めて、それぞれの相続人に相続税の納税義務が発生します。

遺産には負債も含まれる

ここでいう遺産の総額とは、亡くなった人が保有していた預貯金や不動産、株式などの資産から、亡くなった人が生前に借り入れていた負債などを差し引いた額です。

遺産総額 = 資産 - 負債

もし、負債を相続せず、資産だけを相続したいときは、すべての法定相続人が共同して「限定承認」という手続きの申述を、家庭裁判所に対して行わなければなりません。

保険金や死亡退職金はどうなる?

なお、保険会社からの生命保険金や、企業からの死亡退職金など、亡くなった事実をきっかけに新たに支払われる金銭については、遺産の基礎控除額とは別枠にして「非課税限度額」(相続税が課されないボーダーライン)を計算します。

(生命保険金や死亡退職金に対する)非課税限度額 = 法定相続人の数 × 500万円

その相続税はいくらになるのか?

ここまでの計算で、相続税が課せられる遺産の額がわかりました。相続税は、これらを分割して相続する額をもとに計算します。

相続税は、基礎控除を差し引いた遺産に課されるのでなく、遺産を相続した相続人それぞれに課されるのです。したがって、課される相続税の額は、相続した遺産の額によって、相続人ごとに違ってきます。

相続税は相続する額によって変わる

まず、遺産が法定相続分に応じて、それぞれの相続人に分割されたものとします(「法定相続分」については前回の記事を参照)。

それぞれの法定相続人が受け取ることになる遺産の額を、次の表に当てはめて、控除額と相続税率を求めます。

課税価格 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

ここに書かれている「控除額」は、基礎控除や非課税限度額とは別です。法定相続分に税率をかけて、そこから控除額を差し引いた残額が、各法定相続人の相続税の金額になります。

そして、全員の相続税を合算して、相続税の総額を出します。それを実際に相続する割合に応じて再度計算したものが、各人が納めるべき相続税の金額ということになります。

配偶者の税額軽減特例

亡くなった方に配偶者がいて、法定相続人となる場合、引き継ぐ遺産が1億6,000万円以下であれば、特別に相続税がかからない扱いとなります(ただし、相続税の申告は行わなければなりません。また、配偶者の法定相続分を上回る割合で相続する場合は相続税が課されます)。

相続制度には、亡くなった方が残した身近な家族の「生活保障」という側面があります。特に、配偶者については、生前は夫婦でともに協力し合って財産を築き上げてきた間柄であることから、法定相続人となる場合は相続税をできるだけ課さない運用としています。

そうすることで、残された配偶者の生活保障を実質的に手厚くすることが、この特例の趣旨です。

相続税の計算シミュレーション

夫が亡くなり、妻と2人の子どもが相続人となる場合で、相続税を計算してみましょう。

  • 法定相続人:3人(妻+子ども2人)
  • 遺産総額  =資産1億2,000万円-負債2,000万円=1億円
  • 基礎控除額 =(3×600万円)+3,000万円=4,800万円
  • 課税遺産総額=1億円-4,800万円=5,200万円

課税される遺産は5,200万円です。これを法定相続分で分割すると、妻は2分の1、2人の子どもはそれぞれ4分の1ずつを相続することになります。

  • 法定相続分
    ・妻(1/2) :5,200万円×1/2=2,600万円
    ・子1(1/4):5,200万円×1/4=1,300万円
    ・子2(1/4):5,200万円×1/4=1,300万円
  • 法定相続分に基づく相続税額
    ・妻 :2,600万円×15%-50万円=340万円
    ・子1:1,300万円×15%-50万円=145万円
    ・子2:1,300万円×15%-50万円=145万円

法定相続分どおりに遺産分割するのであれば、それぞれが納める相続税は上の計算どおりです。

もしも協議の結果、妻が4,000万円を相続し、子どもたちは残りの1,200万円を700万円と500万円で分け合うことにした場合には、いったん相続税の総額を出して、それを分割割合に応じて按分します。

  • 相続税総額=340万円+145万円+145万円=630万円
  • 遺産分割の割合
    ・妻(4,000万円):4,000万円÷5,200万円×100=76.9%
    ・子1(700万円):700万円÷5,200万円×100=13.5%
    ・子2(500万円):500万円÷5,200万円×100=9.6%
  • 納めるべき相続税額
    ・妻 :630万円×76.9%=484.47万円 → 配偶者特例 → 0円
    ・子1:630万円×13.5%=85.05万円
    ・子2:630万円×9.6%=60.48万円

【集中連載】知っておきたい相続の基礎知識

1 株をやるなら必ず押さえておきたい「相続」の基礎知識
2 だれが相続人になるのか? 法定相続人の序列とその割合
3 相続税はいくらになるのか? 計算方法と遺産分割のポイント(本記事)
4 意外と知らない相続のスケジュールと、手続きの注意点
5 気になる相続対策その1 相続が始まった後にできること
6 気になる相続対策その2 相続が始まる前にしておけること

[執筆者]長嶺超輝
長嶺超輝
[ながみね・まさき]法律・裁判ライター。1975年、長崎生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫した。30万部超のベストセラー『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)のほか著書多数。
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