小売・金融・鉄道…元気いっぱい高値更新する銘柄と、見切られて安値更新の銘柄たち【今月の高値更新】
《株価の新高値は、銘柄にとっての「自己ベスト」。その記録を新たに更新することは、“伸びしろ”の表れかもしれません。直近で高値更新を果たした銘柄から、いまの相場の流れを読み解きます》
7月の日本株は調整含みとなりました。日経平均株価は前月末に比べて16円安となり、1月から続いた月間での上昇はストップ。7か月ぶりの反落です。
ただ、アメリカでは金融引き締めへの懸念が後退し、景気の軟着陸への期待も高まったことから、ダウ平均株価は36年ぶりに13日連続での上昇を見せました。欧米株が堅調に推移したことで、日本株も大幅調整ムードとはならず、個別で好業績・良材料の銘柄が買われる展開となりました。
こうした中で、高値を更新して相場の牽引役となっているのは、どのような銘柄でしょうか?
・「高値更新」とは?
相場解説などで頻繁に使われる「高値更新」とは、読んで字のごとく、ある期間内の高値を更新したという意味です。ここに「昨年来」「年初来」「上場来」など期間を表す言葉が添えられて、「年初来高値を更新」などと言われます。また、新たに付いた高値を「新高値」と呼びます。
【株価の高値更新】
- 上場来高値……株式市場に上場して以来の高値。買い方の強い物色が株価に現れているといえる
- 昨年来高値……1〜3月に使われ、前年の1月1日から直近までの期間が対象
- 年初来高値……4月以降に使われ、その年の1月1日から直近までの期間が対象
新高値と、あわせて新安値の銘柄も取り上げながら、それぞれの共通点に着目し、7月相場の特徴をひもといてみたいと思います。
好業績の小売り株が高値更新
7月の前半は、小売り株など内需株の3~5月期の決算発表で、好業績の銘柄を中心に高値更新の動きとなりました。
コンビニエンスストア大手のローソン<2651>は11日に発表した3~5月期の純利益が前年同期比92%増と市場予想を上回り、12日には株価がストップ高となるほど急騰。13日に年初来高値7320円を付けました。外出機会の増加で国内事業が伸びたほか、海外事業も業績が改善しています。
「無印良品」などの良品計画<7453>も7日に発表した3~5月決算が良好でした。中国含む東アジア事業の復調もプラスに寄与しました。株価は7月31日に年初来高値1866.5円を付けています。
また、好業績のイオン<8267>も31日に年初来高値を更新しており、インフレで消費者の財布の紐が固くなる中、集客力や経営力で増益を確保できる銘柄には買いが入っています。
日銀が動いて金融株が買われる
7月の後半に存在感を示したのは、金融株でした。
日本銀行は、7月28日に金融政策決定会合で、長短金利操作のYCC(イールドカーブ・コントロール)を修正。長期金利の変動幅をこれまでの「0.5%程度」から、事実上「1%程度」まで引き上げました。
マイナス金利の撤廃や金融緩和政策の変更ほどのインパクトはないもののが、事前には「7月会合では現状維持」との見方も出ていたため、市場ではサプライズとして受け止められました。
この長期金利の上昇により、金融機関の収益が改善するとの見方から金融株が買われ、7月31日には、三井住友フィナンシャルグループ<8316>、三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306>などのメガバンクのほか、ふくおかフィナンシャルグループ<8354>、京都銀行<8369>などの主だった地銀が軒並み年初来高値を更新しています。
また、金利引き上げで将来的にリース収入が伸びるとみられる東京センチュリー<8439>などのリース業、収益環境が改善されるとの期待に加えて株価に出遅れ感のある野村ホールディングス<8604>などの証券株も、同じく31日に年初来高値を上回りました。
四半期決算を終えて苦境を迎えた銘柄も
7月中旬からは4~6月期決算がスタートしています。好決算を受けて内容が評価され買われる企業もある一方で、業績が振るわない企業の株は投資家から厳しい反応を示されています。
「ウマ娘」などのスマホゲームやネット広告代理店のサイバーエージェント<4751>は、7月26日の四半期決算発表で今期(2023年9月期)の通期業績予想を下方修正しました。「ウマ娘 プリティーダービー」など収益性の高いゲームの収益が落ち込んでいることが影響しました。
株価は2022年から下落トレンドが続いていましたが、7月28日に年初来安値884.4円を付け、見切り売りが出ています(8月に入って、さらに安値更新)。
通信電波の計測器などを手がけるのアンリツ<6754>も、7月28日に発表した4〜6月期決算が大幅な減益となったことから、株価は31日に年初来安値1105円を更新しました(こちらも、8月になってからも安値更新中)。
主力の5Gスマートフォンが、通信キャリア・端末メーカーの開発投資が落ち込んでいる影響で、受注が低迷しています。ひところは次世代の5G通信関連銘柄として買われていた時期もありましたが、近年では株価は下落が続いています。
また、乳酸菌飲料などのヤクルト本社<2267>も決算発表後に急落し、株価は7月31日に年初来安値7867円を付け、8月に入っても安値更新するなど弱い動きです。5月に年初来高値10430円を付けていただけに、短期筋の見切り売りも出ていると思われます。
7月28日に発表した4~6月期決算は増収増益でしたが、営業利益などは市場予想に届かず、失望売りに押された形です。上海や北京などの拠点で乳製品の「ヤクルト」の販売が伸び悩んでいることも、売り材料となりました。
インバウンドだけじゃない鉄道株
インバウンド(訪日外国人)や旅行需要の回復、さらに、テレワークから出社への回帰の動きも広がり、鉄道株が高値更新の動きとなっています。
富士山周辺の鉄道・バスや「富士急ハイランド」などのテーマパーク・リゾート運営の富士急行<9010>は、7月31日年初来高値5730円を付けました。その後、8月に入ってさらに高値を更新。
東京から訪れやすい距離のため、富士山麓エリアでは訪日外国人の間でビュースポットがSNSの話題となるなど、インバウンドが賑わいを見せています。バーベキューやグランピング、ゴルフコースや遊覧船など富士山麓エリア全体で集客を増やしています。
JR東海(東海旅客鉄道)<9022>は、JRの上場4会社の中で唯一7月31日に年初来高値を更新しました。28日に発表した東海道新幹線・東京駅の7月の輸送量は、前年同月比32%増。伸び率自体は昨年から落ち着いているものの、それでもなお3割の伸びとなっています。
また、お盆の指定席予約状況(7月27日発表)は、新幹線で114万席とコロナ禍前の2019年度と比べて95%の水準まで回復しています、
重厚長大産業にも脚光
自動車関連株も盛り上がりを見せています。昨年までのコロナによる生産への影響が一巡し、ボトルネックになっていた半導体不足も解消に向かっていることから、自動車メーカーは生産が回復しています。
マツダ<7261>は7月25日に年初来高値1461円を付けました。日産自動車<7201>も同日も年初来高値を上回っており、さらにトヨタ自動車<7203>、デンソー<6902>なども高値更新まであと一歩まで迫っています。
鉄鋼株も、値上げの影響などで業績が上向いています、
電炉大手の東京製鐵<5423>は7月21日に今期(2024年3月期)の業績予想を上方修正し、市場予想を上回ったことから27日に年初来高値1748円を付けました。原料の鉄スクラップ価格が値下がりしており、採算の改善につながりました。
鉄鋼大手のJFEホールディングス<5411>、神戸製鋼所<5406>も31日に年初来高値を更新するなど、鉄鋼株全体が買われる動きが続いています。