意外と身近な「テンバガー」 大化けする銘柄の傾向を見抜く
第二のユニクロを探せ!
「テンバガー(10倍株)を見つけるには、まず自分の家の近くから始めることだ」——これは、アメリカの伝説的なファンド・マネージャー、ピーター・リンチの言葉です。投じたお金が10倍に膨れ上がるなんて、投資家なら一度は夢見るでしょう。
でも実は、身近なところにこそ「テンバガーの卵」が隠れているのです。
誰もが知っているテンバガーたち
日本を代表するテンバガーといえば、「ユニクロ」のファーストリテイリング<9983>です。1998年11月28日のユニクロ原宿店オープン当日、筆者は開店前の大行列に並んだひとりでした。
当時のユニクロを象徴する「フリース」が、オープンと同時に飛ぶように売れていきました。ひとり2枚や3枚は当たり前といった様子で、次々に買い物カゴに放り込まれていく様子を見て「ものすごい会社だ!」と驚いたことを、いまでも鮮明に覚えています。
と同時に、こんな悔恨の声が頭の中に聞こえてきます。「あのとき、ユニクロ株を買っておけば……」。同社の株価は、1998年の安値から、2015年7月には約236倍に上昇しました(本記事ではすべて株式分割・統合など調整後の株価で算出しています)。
ほかにも、ヤフー<4689>、ニトリ<9843>、「すき家」を展開するゼンショー<7550>など、いまでは誰でも知る企業も80倍を超えるテンバガーとなりました。このことからも、テンバガーは必ずしも「大穴」ではないことがわかります。
10倍に「大化け」する株
「テンバガー(ten bagger)」とは、株価が10倍に跳ね上がる株(10倍株)を指します。もともとは野球用語で、「1試合で通算10塁打」という大記録を達成することを意味していました。それが、ウォール街で「株価が10倍に大化けした株」という意味で使われるようになったと言います。
この言葉を世に広めたのは、先のピーター・リンチ。米大手運用会社フィディリティの「マゼランファンド」を1977年から13年間運用し、2000万ドルだった資産を140億ドルへと育て上げた伝説のファンド・マネージャーです。
過去5年のテンバガーは46銘柄
下の表は、日本で過去5年間にテンバガーとなった銘柄のリストです。実に、46銘柄がテンバガーとなっています(2017年6月時点で集計。株式分割・統合など調整後の株価で算出)。
・テンバガーになる銘柄の傾向とは?
これら実際にテンバガーとなった銘柄を分析すると、次のような傾向があることがわかります。
- 時価総額が300億円以下の中小型株
- 上場から10年以内の企業
- 低い株価で推移していた低位株
- 新興の産業やベンチャー企業
- 旬のテーマや話題性のある企業
- 業績が急拡大、または急拡大が予想されるもの
業種としては、サービス業、インターネット通信業、IT関連企業に多いと言えます。
・時価総額300億円以下の中小型株を狙え!
企業のサイズ(時価総額)は株価の動きに大きく影響します。時価総額は「株価」に「発行済株数」をかけて算出します。
時価総額が大きいとあまり値動きがなく、小さいほど値動きは大きくなります。このことは、時価総額が20兆円を超えるトヨタ自動車<7203>の株価が、いきなり2倍、3倍にはならないことを考えれば理解できるでしょう。
特に小型株は、「浮動株(市場に幅広く流通して常に売買されている株)」が比較的少なく、大型株よりも上昇する可能性が大きくなります。市場に流通している株数が少ないために、株価上昇につながる材料があると一気に品薄状態となり、株価が10倍、20倍と大きく膨れ上がるためです。
そのためテンバガーを狙うなら、東証1部上場銘柄ではなく、東証2部やマザーズ、ジャスダックに上場している中小企業で探すことをお勧めします。
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ではここからは、実際にテンバガーとなった銘柄を例に、大化けしやすい傾向について詳しくひもといていきます。
テンバガーの探し方
時代のトレンドを捉えた急成長企業
ディップ<2379>は、アルバイト求人サイト「バイトル・ドットコム」を展開している企業です。国民的アイドルを使った広告戦略などを武器に業績を拡大し、2004年に東証マザーズへ上場、2013年に東証1部上場を果たしました。
アベノミクスで打ち出された「一億総活躍社会」というテーマによって、人材サービス関連株は飛躍的に上昇しました。なかでもディップは、ユーザーの仕事探しがスマホに移行したことが追い風となって業績面も裏付けされ、2013年初頭の安値から2016年7月にかけて、株価は60倍以上の驚異的な上昇を遂げました。
このように時代のトレンドやテーマ性を持った急成長株は、業績も年率2ケタを超える成長を見せ、テンバガーを超えた「大出世銘柄」となることがあります。
話題性があり業績が急拡大している企業
ピーター・リンチは、タコスチェーンのタコ・ベルやダンキンドーナツに自ら足を運んで、常に消費者目線を忘れないリサーチを行なっていたと言われています。
ペッパーフードサービス<3053>は、「ペッパーランチ」などのレストランを展開する企業です。2009年には、O-157による食中毒が全国に広がったことで業績が悪化しました。しかし様々な改善策によって2012年には業績が底打ちし、2013年に展開を始めた「いきなりステーキ」も話題となって快進撃を続けました。株価も、2012年から現在にかけて20倍以上の大幅上昇となっています。
多店舗展開というビジネスモデルで急成長する企業は、小売業に多く見られます。「磯丸水産」で知られるクリエイト・レストランツHLD<3387>や、東北でドラックストアを展開する薬王堂<3385>もテンバガーとなっています。
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企業の成長によるテンバガーがある一方で、短期資金の流入によるテンバガーもあります。テンバガーといえば、こちらのイメージのほうが強い方もいらっしゃるかもしれません。次に紹介するのは、そんなテンバガーの例です。
旬なテーマがある企業
「旬のテーマ」はテンバガーの重要な手がかりです。テーマはその時々で変化していきます。
たとえば、リミックスポイント<3825>。電力事業を中心に展開する会社ですが、2016年、新規事業として仮想通貨取引業を行う「BITPoint」を設立しました。ビットコインなど仮想通貨への注目度の高まりとともに、ビットコイン関連銘柄として資金が流入し、足元の株価は暴騰しています。
過去には、インバウンド銘柄が注目を浴びたときに、ドンキホーテ<7532>、ラオックス<8202>などの株価が大きく上昇しました。2016年にはフィンテック銘柄として、さくらインターネット<3778>、マイナンバー銘柄では、ITbook<3742>などがテンバガーとなっています。
業績拡大が期待できる材料がある
ミクシィ<2121>は国内SNS「ミクシィ」を運営していますが、収益の柱は2013年10月に投入したスマホゲーム「モンスターストライク」です。この大ヒットによって、2015年3月期の営業利益は対前年比110倍近くとなり、株価も大きく値上がりしました。
その後はやや低迷しましたが、現在は主力の「モンスト」の大型アップデートで復調し、大きく株価を回復させています。
ミクシィやガンホー・オンライン・エンターテイメント<3765>、コロプラ<3668>などスマホ関連のゲーム開発企業は、大ヒット作が出ると業績に与えるインパクトが非常に大きくなります。そのため、業績拡大への期待感から資金が流入し、テンバガーになる可能性が高くなるのです。
テンバガーを見つけたら
夢のような時間は案外短い
テンバガーの株価チャートには、特徴的なパターンがあります。それは、次のような形です。
低位で横ばいに推移していた株価が → サプライズによって投資資金が流入 → 出来高急増を伴う急激な株価上昇 → 利益確定の売り → 急激な下落
たとえば、ガンホー・オンライン・エンターテイメント<3765>は、スマホゲーム「パズル&ドラゴンズ」の大ヒットによって、低位横ばいで推移していた株価が急騰しました。このとき、出来高急増を伴って株価が大幅に上昇していることがチャートから見て取れます。
しかしその後、増益率の低下や次のヒット作が見当たらないことから、株価は急落します。このように急激に上昇した株というのは、成長性の鈍化や、投資家の関心が次のテーマに移ることで、急激に下落する傾向にあるのです。
せっかく見つけたテンバガーも、利益確定をしないと意味がありません。「もう少し持っていればもっと上昇するかも」などと売り時を逃さないよう、株価動向を注意深く見守ることが肝要です。
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偶然もなければ、絶対もない
ピーター・リンチは著書の中で、「11銘柄のうち1銘柄でも当たれば(テンバガーになれば)、たとえ残り10銘柄に損をするものが出ても、全体として投資に成功したことになる公算が大きい」と述べています。
テンバガーは偶発的に生まれるものではありません。ここで紹介した「テンバガーになりやすい傾向」を持った銘柄を見つけたら、少額ずつ投資してみるのも良いでしょう。ただし、すべての傾向に当てはまるからといって“必ず”テンバガーになるわけではない、という点をお忘れなく。
投資家の夢といわれる「テンバガー」も、実は意外なほど数が多く、しかも身近なところに存在しています。重要なのは、ひとつの銘柄に大きく“賭ける”ことではなく、伝説のファンド・マネージャーが言うように「1勝10敗」でも全体として利益が出るようにすることです。