オリンピックで株価は上がる? 日本選手の活躍で期待される銘柄とは

岡田禎子
2021年7月15日 8時00分

オリンピックと株価の関係

2016年のリオデジャネイロ・オリンピック。競泳男子400m個人メドレーで萩野公介選手が見事な優勝を果たし、この大会の日本選手団で一番乗りとなる金メダルを獲得しました。表彰台で金メダルを首から下げた萩野選手の右胸には、大きなアシックス<7936>のロゴが。

そして翌営業日、東京市場でアシックスの株価は7.5%も上昇したのです。

1年の延期を経て、いよいよ東京2020オリンピック・パラリンピックが開催されます。開催地である東京に4度目となる緊急事態宣言が発令されている中での開催であり、なおかつ大半の会場で無観客開催となるなど異例尽くしのオリンピックですが、果たしてどんな大会になるでしょうか。

株式市場では、オリンピックの開催をネガティブ視する局面もありました。しかしながら、実際に開幕してしまえば日本人選手の活躍によってムードも一変するのでは、という期待の声も多く聞かれるようになり、それにともなってオリンピック関連銘柄への経済効果について見直す動きも出てきています。

オリンピックの開催で株価は上がる?

株式市場では「夏のオリンピック開催地の株価はよく上がる」というアノマリーがあります。

リオ、ロンドン、北京という直近の3大会において、オリンピック期間中にそれぞれの開催国の主要株式指数がどうだったかを見てみましょう。

大 会 主要株式指数 騰落率
2016リオデジャネイロ ブラジル・ボベスパ指数 +0.3%
2012ロンドン イギリス・FTSE100種総合株価指数
(FTSE100指数)
+4.6%
2008北京 中国・上海総合指数 −11.5%

北京では大きく下がったものの、この2008年はリーマン・ショックが起きた年。それを入れても2勝1敗で勝ち越しているのは、オリンピックの開催によってヒト・モノ・カネが大きく動くことで、堅調になりやすいといえるのかもしれません。

〈参考記事〉オリンピックで株価はどうなる? スポーツの祭典が相場に与える影響とは

日本選手の活躍で株価は上がる?

オリンピックにおける日本選手団の獲得メダル数と日経平均株価の関係はどうなっているでしょうか。同じく直近の3大会で見てみましょう。

大 会 日本選手のメダル獲得数 日経平均株価の騰落率
2016リオデジャネイロ 41個 +2.1%
2012ロンドン 38個 +5.2%
2008北京 25個 −1.9%

やはり北京の年は下がっていますね。ただ、メダル獲得数が14個と少なかったアトランタ(1996年)は−2.3%、同じくソウル(1988年)は−1.2%だったことを考えると、日本選手が活躍してより多くのメダルを獲得すると、ある程度は株価はプラスになりやすいのかも、といえる結果になっています。

ただし、選手たちの活躍による影響は、日経平均株価よりも個別銘柄のほうで大きく出ているようです。冒頭のアシックスのように、大会期間中に活躍した選手に関連する企業などの株価が直後から急騰する、いわゆる「ご祝儀相場」がよく見られるからです。

メダル獲得ならずとも、多くの人の心に刺さる感動ストーリーが誕生したような場合には、ご祝儀相場が発動することも大いにあるのが株式相場というものなのです。「株価を動かすのは人の心」であることが、このことからもよくわかります。

オリンピックで盛り上がる銘柄は?

それでは、具体的にどんな銘柄の株価がオリンピックによって急騰しやすいのでしょうか? オリンピックの開催期間中に株価の値上がりが期待できる銘柄としては、次のような銘柄が考えられます。

  • オリンピックのスポンサー企業
  • 選手が所属している企業やスポンサー企業
  • 選手の活躍によって連想される銘柄

・オリンピックのスポンサー企業

オリンピック期間中は、オリンピックのスポンサー企業のCMがテレビで繰り返し放映されるほか、あらゆるところで露出が増えます。すると当然、その企業や商品への関心が高まり、需要が拡大すると期待できます。

東京大会では、最上位スポンサーに属するトヨタ自動車<7203>やブリヂストン<5108>のほか、それに準じるスポンサーであるアシックス<7936>、アサヒビール(アサヒグループホールディングス<2502>)、キヤノン<7751>などの企業がマーケットで注目される可能性があります。

(参考)スポンサー一覧|東京2020オリンピック競技大会公式ウェブサイト

・選手が所属している企業やスポンサー企業

オリンピックに出場する選手が所属する企業やスポンサー企業にも注目が集まるでしょう。

所属選手が多い企業としては、ALSOK<2331>、トヨタ自動車<7203>、富士通<6702>、イトマン東進(ナガセ<9733>)、セントラルスポーツ<4801>などが挙げられます。

メダルの期待がかかる選手で見てみると、卓球・石川佳純選手のスポンサーであるアシックス<7936>や、競泳・入江陵介選手が所属するイトマン東進の親会社ナガセ<9733>(予備校の「東進ハイスクール」も展開)、バドミントン・桃田賢斗選手のNTT東日本(日本電信電話<9432>)などがあります。

不屈の精神で病から復帰した競泳・池江瑠花子選手が所属するルネサンス<2378>や、兄妹出場で注目される柔道・阿部一二三選手のパーク24<4666>(妹の詩選手は日本体育大学)など、話題性の高い選手に関連する企業もチェックしておきたいところです。

ちなみに、今大会の目玉のひとりとも言えるテニスの大坂なおみ選手は、ヨネックス<7906>や日清食品ホールディングス<2897>などとスポンサー契約を結んでいます。

・選手の活躍によって連想される銘柄

大舞台で輝く選手を見ると、自分もあの選手みたいになりたい!と思うもの。ラグビーW杯で日本代表の桜のジャージが人気となってメーカーであるゴールドウイン<8111>が注目されたように、選手のウェアや道具だけでなく、選手が好む飲料や食品などにも人気が集まることがあります。

たとえば、卓球・伊藤美誠選手や野球選手にも愛用者が多い医療用磁気ネックレスを手がけるコラントッテ<7792>や、テニス・大坂なおみ選手が着けているシチズン<7762>の腕時計などが注目されるかもしれません。

子供たちの間で水泳教室や体操教室がブームとなったり、大人の中にもアスリートのようなカッコいい肉体を目指す人が増えたりといった需要拡大への期待から、スポーツジム系の銘柄や用具メーカー、スポーツ飲料を手がける企業なども物色される可能性があります。

・アシックス<7936>

本記事でもすでに何度も名前が挙がっているように、オリンピック関連銘柄の代表のひとつがアシックス<7936>です。

世界的な大手スポーツメーカーであり、東京2020大会のゴールドパートナーでもあるアシックスは、大会スタッフのユニフォームを手がけているほか、公式ライセンス商品も販売しています。

アシックスは、海外における販売拡大が好調に推移したことから、2021年5月に今期の業績予想を上方修正しました(営業利益予想を70億〜110億円から115億〜135億円に。ちなみに前期は赤字)。急速な収益回復を好感して株価は急伸し、年初来高値を更新しています。

アシックスでは、オリンピックの無観客開催が決定したことを受けて、それでも業績予想に変更はないと発表しています。

東京2020で注目すべき関連銘柄

株式相場では「連想ゲーム」をどこまで広げられるかが鍵を握るため、思わぬ競技からスターが生まれたときに「どんなご祝儀相場が発生するか?」という視点で、あれこれと妄想を膨らませてみるのも面白いでしょう。

そんななか、2021年の東京オリンピックで特に注目されそうなテーマといえば「巣ごもり観戦」です。

大半の競技会場で無観客開催となることやパブリックビューイングが禁止となったことで、東京2020大会は自宅での観戦がメイン。そこで、中食やテイクアウト、デリバリー、飲料などの消費拡大が期待されることから、それらの関連銘柄が人気化しそうです。

フライドチキンの日本KFCホールディングス<9873>や「スシロー」などを手がけるFOOD & LIFE COMPANIES<3563>、デリバリー大手の出前館<2484>、それに、大会公式ビールを手がけるアサヒグループホールディングス<2502>などが挙げられるでしょう。

スポーツテックやセキュリティにも注目

その他にも、世界最大のスポーツの祭典であるオリンピックならではの話題として、競技や選手を陰で支える先端技術、いわゆる「スポーツテック」にも注目が集まりそうです。

体操選手が目にも止まらぬ速さで繰り出す高難易度の技をAIで判定する自動採点システムのほか、サッカーやテニスの判定にもテクノロジーが活用されています。そうした技術を手がける関連銘柄としては、富士通<6702>やソニー<6758>があります。

国際的に注目度の高いイベントはサイバーテロの標的にもなりやすいから、トレンドマイクロ<4704>やラック<3857>といったサイバーセキュリティ対策の関連銘柄が物色されるかもしれません。

〈参考記事〉フィンテックだけじゃない。教育から法律、不動産まで、いま注目される「テック株」とは

オリンピック後もスポーツ市場が熱い!

さらに、中長期的な視点で考えると、東京オリンピック終了後のスポーツ関連銘柄にも注目です。

来年2022年5月には、世界最大級の生涯スポーツの祭典であるワールドマスターズゲームズ2021関西が予定されています。さらに、2025年には全世界におけるスポーツ製品市場が75兆円(2020年は56兆円)、スポーツテックの市場規模は15兆円以上にまで拡大すると見られているのです。

このように「追い風市場」となっているスポーツ関連銘柄は、東京オリンピックが終わっても注目し続けたいところです。

応援は熱く、投資はクールに。

異例づくしで伝説の大会になりそうな東京2020オリンピック。

出場する選手たちにとっては一世一代の晴れの舞台ですが、投資家にとっては4年に一度のチャンスの場でもあります。さまざまな連想を巡らせて事前に仕込んでおけば、選手たちの活躍に胸を躍らせると同時に株価の値上がりも期待できる、という非常にオイシイ2週間を過ごせるでしょう。

ただし、いわゆる「ご祝儀銘柄」の場合、瞬間的に株価が急騰した後すぐに急落するケースも多くあるため、注意が必要です。所属選手が活躍したといった理由だけでは、あっと言う間に「材料出尽くし」となってしまうからです。

熱い声援を送りつつも、投資判断は冷静に下すことが肝要。もしも、良さそうな関連銘柄を連想できなかったり、事前にうまく仕込むことができなったりしたような場合には、無理に参戦しようとはせずに、純粋にオリンピック観戦を楽しむのもいいのではないでしょうか。

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[執筆者]岡田禎子
岡田禎子
[おかだ・さちこ]証券会社、資産運用会社を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。資産運用の観点から「投資は面白い」をモットーに、投資の素晴らしさ、楽しさを一人でも多くの方に伝えていけるよう活動中。個人投資家としては20年以上の経験があり、特に個別株投資については特別な思い入れがある。さまざまなメディアに執筆するほか、セミナー講師も務める。テレビ東京系列ドラマ「インベスターZ」の脚本協力も務める。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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