「損切りは早く、利食いは遅く」 10倍株に出会えない投資家が見逃していること

朋川雅紀
2022年9月9日 12時00分

InsideCreativeHouse/Adobe Stock

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メンタル・アカウントとは?

メンタル・アカウント」という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか。

「人はいくつかの『メンタル・アカウント(心理勘定)』を持っていて、それらを別々に管理し、統合しない」という傾向があると言われています。これは、本来価値には差がないはずのお金を、収入の名目や使い道などで別々に評価することを意味します。

たとえば、月給を使って高級イタリアンを食べるのは贅沢だと思っても、ボーナスを使って食べるなら贅沢ではない、と思うことはありませんか?

お金自体に「月給」や「ボーナス」の区別はありません。知らず知らずのうちに、月給は「普段の生活に必要なものに充てるお金」、ボーナスは「余分のお金なので贅沢してもよいお金」というように分けて考えているのです。

冷静に考えれば、高級イタリアンを食べたければ、ボーナスが支給される前に食べてもいいのです。お金を区別することなく、すべてをトータルで管理すればいいのです。

なぜ、お金を色分けするのか?

苦労して得たお金は慎重に使おうとしますが、投資やギャンブルで儲けた利益は「あぶく銭」と考えて簡単に使ってしまうのも同じことです。

このように、論理的には「お金の価値」は同じはずなのに、収入の名目などによって「心の中の会計科目」が違うかのごとく処理されることがよくあります。

お金を全体としてとらえるのではなく、自分の心の勘定科目によって色分けし、その勘定科目の範囲の中で損得を判断するため、時に不合理な選択をする傾向があるということです。

では、なぜ人は複数のメンタル・アカウント(心理勘定)を持っていて、それらを別々に管理するのでしょうか。 

いろいろな理由があると思いますが、先述した高級イタリアンの例は、「自己管理」の難しさを知っていて、それに備えた行動と言えます。ルールを作らなければ歯止めが利かなくなってしまうわけです。

贅沢はよくないことだと認識しているので、贅沢はボーナスの範囲内にとどめておけば、月給まで手を付ける贅沢はしないという歯止めになります。

含み損と実現損、どちらが正解?

投資で言うなら、「含み損」と「実現損」を区別するのもメンタル・アカウントによるものです。含み損であろうと実現損であろうと、その銘柄の現在の価値は同じです。違いは、株式としてまだ保有しているか、現金化してしまったか、だけです。実質的な価値に差はありません。

ただし、実質的な価値に違いがなくても、ひとつ非常に大きな違いがあります。それは、含み損を抱えている(まだ損を実現していない)銘柄には、持っていれば、いつかは株価が回復して含み損が解消される可能性があることです。含み損が解消されるだけではなく、含み益に変わる可能性すらあるのです。

もちろん、あくまでも可能性にしか過ぎません。しかし、完全に売ってしまうということは、その可能性とも決別することを意味します。売って損を実現してしまうと、株価が戻った場合、「売らなければよかった」と後悔します。そういう後悔をしたくないという気持ちが、損の実現を躊躇させるのです。

このようなことから、投資家には「含み益を抱えている銘柄の利食いは早めに行い、含み損を抱えている銘柄の損切りは先延ばしにしてしまう」傾向があります。

損切りは“遅く”、利食いは“早く”?

たとえば、一般的な投資家は、1000円で買った株が900円に値下がりしたような状態では、客観的にその株式がそれほど有望と思えなくても、元本を回復する可能性に対する価値評価が高いため、「何とか1000円に回復してほしい。そうしたら売りたい」といった気持ちになって売却が遅れがちです。         

トレーディング(短期売買)の格言に、「損切りは早く、利食いは遅く」があります。

ただ、頭の中ではそのことをわかっていても、ついつい逆の行動をしてしまうことが多いものです。少しでも株価が上昇すると、すぐに売ってしまいます。反対に、含み損を抱えた銘柄が損益ぎりぎりの水準まで戻ろうものなら、これ幸いと焦って売ってしまいます。

長期投資(ポートフォリオ運用)の場合でも、同様のことが起こります。

長期保有するつもりでスタートしたのに、利益が出ればすぐに売ってしまいます。つまり、利益が出ている銘柄は短期投資になってしまうわけです。その一方で、損失の確定を避けようとするため、含み損を抱えている銘柄は長期投資になります。いわゆる「塩漬け」です。

あなたが10倍株に出会えない理由

こうした行動をとる投資家には、「ある銘柄の含み損を別の銘柄の含み益と通算する」という発想がありません。

5%や10%儲かれば売ってしまい、損を抱えた銘柄はそのまま放置して、保有しているのは含み損を抱えた銘柄のみ……という個人投資家をよく見かけます。これは、森(ポートフォリオ/資産全体)を見ないで、木(個別銘柄)だけを見ている行動です。

こういうことをしてしまうと、10倍株(テンバガー)のような大化け銘柄と巡り合うチャンスを自ら放棄しているようなものです。

個々の銘柄と資産全体の両方をバランスよく見て、投資行動を決めなければなりません。

[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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