株式投資で考えるべき本当のリスクは「損をする確率」ではない

朋川雅紀
2024年1月29日 12時00分

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投資家にとって本当のリスクとは

投資家にとっての「リスク」とは何でしょうか。

リスクに関する通説に従うとするなら、リスクとは、「保有している株式の価値が望ましいと思われる水準を下回ってしまい、その結果、より低いリターンしか得られない状況になること」ではないでしょうか。

これに加えて、「株価変動リスクをどこまでなら許容できるか」という点についての誤解から、多くの投資家は市場タイミングを取って変動をなるべく抑えようとします。

実はこのことが、低く長期的なリターンにつながりやすいのです。というのも、市場の変動に合わせてうまくタイミングを捉えることは、かなり難しい作業だからです。

リターンを向上させる最も効果的な方法のひとつは、市場全体の変動が投資家にどんな影響を及ぼすのかを正しく理解して、「自身が許容しうる最大限の変動率」を組み込んだポートフォリオを選択することです。その結果、そうしたリスク水準を前提として、最大のリターンを確保することができるのです。

この「適切なリスク水準」がわかっていないと、市場変動の影響をどうしても過大に考えがちになってしまいます。

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リターンの変動幅を考えるという間違い

自分のポートフォリオのリスクを「リターンの変動幅」として考えることは、変動幅の大きさがなぜ問題なのか必ずしも理解されていない、という点から大きな問題です。

身近な例として、天気について考えてみましょう。私たちのほとんどは、農業従事者でも船乗りでもなく、野外スポーツの関係者でもなければ登山家でもありませんので、天気が大きく変わっても、日常生活に大きな影響を受けることはありません。

このことからわかるのは、変動幅というものは、それが天気であれ、ポートフォリオのリターンであれ、ひとつの統計的な確率を表すものに過ぎない、ということです。

変動幅が変わることで結果にどのような影響が生じるかが示されなければ、変動幅という数値自体には何の意味もありません。確率というものは、「何の確率か」が示されていなければ無意味だということです。

ポートフォリオの構築で最も重要なのは、「損失が生じた場合の影響」であって、これは、「損失が生じる確率」よりもはるかに重要なのです。

ポートフォリオ最大のリスクとは

それでは、私たちが関心をもつべき影響とは、果たして何なのでしょうか。

ポートフォリオを保有する「最大のリスク」は、その保有期間中あるいは保有期間終了後に、様々な支払いに充てるために必要な資金が不足する、ということです。

つまり投資家は、究極的には「ポートフォリオをお金に換えることで将来使うことのできる金額」に関心があるのです。

キャッシュフローに対するニーズ

結論を言えば、投資家にとってのリスクとは、「支払いに必要なキャッシュが足りなくなる危険性」です。

通常、リスクの指標として用いられる「リターンの変動幅」は、投資家の資産を現金化したときの上下の幅を示すものです。しかしながらこの指標は、投資家側の今後の「支払いニーズ」については全く考慮していません。

たとえ株式のようにリターンの変動幅が大きい資産を持っていたとしても、ある程度分散されたポートフォリオであれば、その価値は時間とともに増加する傾向にあります。これは、理論的にも歴史的にも言えることです。

したがって投資家は、自分の「将来のキャッシュ・ニーズ」を前提として、どこまでなら変動幅を受け入れることができるかを考えればいい、ということになります。

キャッシュ・ニーズの重要性

どこまでリスクを許容するかという決定は、投資家自身が行うべきです。

支払いに関する決定(将来必要となるキャッシュの額)は、資産管理の中でも投資家自身のコントロール下にある変数のひとつなのです。過去の消費行動を振り返って、将来どのくらいのキャッシュが必要になるのかを考え、計画を立てるのは、投資家の務めではないでしょうか。

「老後2000万円問題」や「億り人」なる言葉に振り回されて、老後に備えて何が何でも2000万円作らなければならないとか、金融資産1億円あれば怖いものなしのような、間違った解釈が世の中に出回っています。

しかしながら、キャッシュのニーズは人によって違うので、一律で決められるものではありません。老後の資金に2000万円も必要ではない人もいるでしょうし、1億円あっても足りない人もいるでしょう。

「キャッシュ・ニーズ」をもとにポートフォリオの構築を行うことで、投資家は将来の支出の計画をより真剣に考えるようになるでしょう。そして、そのキャッシュ・ニーズのもとで最大のリターンを確保するための、よい明確で賢い資産配分方針や銘柄選択基準を立て、維持するようになるでしょう。

リスクを単なる「リターンの変動幅」と捉えると、きわめて画一的となり、投資家自身がそのリスク選択に対して責任を取れなくなってしまうことが、何よりの問題ではないでしょうか。

[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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