経済指標はなぜ重要なのか? 投資家心理と株式市場に与える影響を知る

朋川雅紀
2024年5月10日 8時00分

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経済指標と株式市場

 ニュースは株式市場を動かします。

 戦争(テロ)、政変、自然災害などのニュースが届くタイミングは、ほとんど予知できません。それに対して、経済指標のようなニュースは、事前に決められた日時に発表されます。ほとんどの指標が経済成長やインフレに関するものであり、株式市場を大きく動かす可能性を秘めています。

 経済指標は、投資家の経済に対する見方を形成するだけではなく、中央銀行の金融政策に対する期待にも影響を与えます。堅調な経済成長やインフレの悪化は、中央銀行が金融を引き締めるか、あるいは金融緩和をやめる可能性を高めるのです。

市場の反応

 市場(マーケット)は、発表された数値そのものに直接反応するのではなく、市場参加者の予測値と実際に発表された数値との違いに反応します。ニュースそのものが経済にとって良いか悪いかは、あまり重要ではありません。

 たとえば市場で、先月は30万人の雇用が失われたと予想されていて、実際の発表では20万人しか失業していなければ、これは金融市場にとって期待以上のニュースと見なされます。市場が20万人の雇用増加を期待していたときに30万人の雇用増加が発表されたのと同じような効果を持つことになるのです。

 市場が予測と実際の数値の違いだけに反応する理由は、期待される情報が株価にすでに〝織り込まれて〟いるからです。

 企業業績に関しても、厳密には経済指標ではありませんが、ある企業が業績悪化を発表すると予想されているならば、市場はこの悪材料をすでに株価に織り込んでいます。したがって、もし業績が予想されたほど悪くなければ、株価は業績発表を受けて上昇するでしょう。

 市場がなぜそのように動くかを理解するには、発表される経済指標に対する市場の期待を判断しなければなりません。

 市場の期待は、しばしばコンセンサスと呼ばれます。経済学者やアナリスト、ファンドマネージャーなどの市場参加者に、政府の発表あるいは民間企業の発表に関する予想を聞き、そのアンケート調査の結果を集計したものが、コンセンサスということです。

経済成長と株価

 強い経済成長を裏付ける指標の発表によって株価が下落した場合、一般大衆だけでなく金融関連のメディアでさえ意外に思うかもしれません。しかしながら、急速な経済成長は株式市場にとって2つの重要な意味を持ち、それぞれが市場を正反対の方向に動かします。

 強い経済成長は将来の企業業績を高めますので、株式市場にとっては好材料になるはずです。その一方で、強い経済は金利を上昇させる要因にもなりますので、割引率が上昇することになり、将来の業績(キャッシュフロー)の現在価値を減少させてしまいます。

 同様に、弱い経済成長は、企業業績に対する期待を低下させることになりますが、将来の業績を割り引いて計算する際の金利も低下しますので、株価は上昇する可能性があります。

 資産価格という点から考えると、それは、将来のキャッシュフローをもたらす分子と、キャッシュフローを割り引く分母との間の綱引きになるのわけです。

 金利への影響と企業業績への影響では、一体どちらの影響のほうが大きいでしょうか。実際にはケースバイケースですので、「答えはこうである」と断言するのは難しいですが、与える影響が大きい、つまり、より重要な要素が影響を受けるのはどちらか、ということです。

 金利が激しく上昇しているときには、株価は企業業績よりも金利を見て反応するでしょうし、景気後退に陥っているときには、金利よりも企業業績に注目するでしょう。景気の拡大期でも、インフレが脅威になるときには、金利の影響のほうが大きくなります。

 結局のところ、大幅な景気拡大は金利を上昇させますが、金利の上昇と企業業績の改善のどちらが強いかによって、株価への影響はまちまちということです。

 株式投資家の多くが、債券市場の動きに注目しながら売買の方針を決めています。金利や期待収益率をベースに株式と債券の配分を見直し、積極的に配分を決定する運用担当者の場合は、特にそうです。

 弱い経済指標が発表されて金利が下がると、株式と債券の間の相対的な魅力度で株式が有利になりますので、こうした投資家は株式の配分を増やすかどうかの検討を行います。一方で、雇用統計の悪化が企業業績の悪化を意味すると考える投資家は、株式の配分を減らすかもしれません。

 このように、金利や企業業績に対して経済指標の意味するところを投資家はかみ砕こうとしますので、その発表日には株式市場が乱高下することが多くあるのです。

金融政策

 金融政策は金融市場にとって、極めて重要です。実際、金融環境、特に、金利動向とFRBの政策は、株式市場の大きな流れを決定する支配的な要因になります。

 中央銀行が金融緩和を実施すると、企業の将来のキャッシュフローの割引率を引き下げ、需要を刺激し、それによって将来の企業業績が改善します。株価があまり反応しないのは、中央銀行が過度に金融緩和をするときだけで、この場合、市場はインフレを警戒します。

 しかしながら、中央銀行が過度に金融緩和を実行すれば、インフレによって債券が大きな打撃を受けることになりますので、投資家は債券よりも株式を選好するかもしれません。

経済指標と個人投資家

 経済指標の発表は、将来の金利や経済、最終的には株価の方向性に関する投資家の期待に影響を与えます。

 様々な経済指標が日々発表されますが、それを巡って市場参加者・投資家たちの思惑がどのように交錯するか。ある一面からだけで判断するのではなく、多面的な視点からの見方を考慮することで、市場というものへの理解が深まることにもつながるでしょう。

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[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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