M&Aで企業価値は上がるのか? 個人投資家が知っておくべきメリットとデメリット

朋川雅紀
2025年6月14日 12時00分
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M&Aによる企業価値創造

M&A(Mergers and Acquisitions=合併・買収)は、買収後の企業のキャッシュフローが、買収しなかった場合のキャッシュフローより大きい場合において、価値を創造します。

目的に適ったM&Aは売り手側・買い手側の双方にとってメリットをもたらすものです。

狭義のM&Aは「企業や事業の経営権を移転させること」を意味し、合併や、株式譲渡(譲受)、事業譲渡(譲受)など買収による企業統合を指します。

一方、広義では「経営権を完全に掌握しないまでも何らかの協力関係を構築すること」も含まれており、資本業務提携、JV(ジョイントベンチャー)設立などの手法があります。

このように、ひとくちにM&Aといってもその手法は数多くありますが、いずれにしても、すでに完成された状態の企業と提携関係を深めることで、買い手側に多くのメリットをもたらします。

アメリカを代表する企業であるGAFAM(グーグル、アップル、メタ、アマゾン、マイクロソフト)などは積極的にM&Aを活用して成長しています。

M&Aのメリット

合理的なM&Aは売り手側・買い手側の双方にメリットとシナジーをもたらします。

・取引網・店舗網の拡大による「規模の経済性」

買収対象企業が保有する不動産や設備といった有形の資産はもちろんのこと、技術、ノウハウ、取引先、顧客基盤、流通網などといった無形の資産を取り込むことで、買い手側の企業は事業規模の拡大を図ることができます。

持続的な成長を維持するためにも、事業拡大は重要な経営課題です。事業の規模が大きいというのは、それだけで大きなアドバンテージです。

一般的に、取引量が大きくなることで取引先に対する交渉力が強化され、様々な仕入コストを引き下げることができ、メーカーであれば設備の稼働率を引き上げることが出来ます。また、小売業やサービス業であれば、知名度やブランド力の向上は集客力に大きく寄与することでしょう。

取引先を一から開拓するのは容易ではありません。その点、M&Aであれば、買収対象企業がすでに構築した取引先やマーケットをそのまま取り込むため、一気に事業拡大を図ることができます。

・事業の多角化

事業環境が厳しくなる中、収益源を安定的に確保するためには事業の多角化が必要とされることもあります。

業種や事業内容の異なる企業をM&Aによって買収することで、これまで自社にはなかった分野への参入や川上から川下へのバリューチェーンの拡大が図れます。

・新規事業参入

自社で一から新規事業に参入しようとすると、さまざまなリスクがつきまといます。上記の事業多角化とも関連しますが、M&Aによってすでにある分野で実績を上げている企業を買収することで、新規事業参入へのリスクを軽減できます。

・技術力向上(既存事業の強化)

新規事業だけではなく、自社の既存事業の強化を図るためにM&Aで他社の技術を取り込む事例もあります。

・事業成長に必要な時間を買う

新規事業を立ち上げるにはマーケティングや技術開発、従業員の教育まで多くの時間やコストがかかります。

一方、M&Aですでに出来上がっている状態の事業や企業を買収すれば、こうしたコストや時間を削減できます。企業買収には多額の資金が必要となりますが、こうした事業を育てるための時間やコストを削減できるという点で、「時間を買う」というメリットがあるのです。

買い手にとってのメリットはさまざまですが、M&Aは経営に必要な経営資源(ヒト・モノ・カネ)がある程度そろった状態で企業を買収するため、時間と労力を大幅に削減することが可能になります。

M&Aのデメリット(留意事項)

M&Aにはさまざまなメリットがある一方で、残念ながら企業統合によるシナジーを発揮することができず、不発に終わってしまうケースもあります。

・売り手企業との融合がうまくいかない

社風や従業員への待遇が異なる企業同士が統合することで、文化の違いが露呈し、融合までに時間がかかる可能性があります。

・想定していたシナジーが生まれない

両社間の溝が解消されなかった結果、もともと所属していた企業ごとに派閥が生まれ対立するなど、想定していたシナジー効果が発揮できないこともあります。

・優秀な人材の流出

統合後の労働条件の変更や、統合による派閥争い、社内のいざこざなどによって、優秀な人材が外部に流出してしまう可能性があります。

買収対象企業でエースとして活躍している人材やキーパーソンに今後の活躍を期待する場合は、早めにコンタクトをとり、買収後の待遇や将来的なビジョンについてきちんと話し合いなどをしておくことが大切になります。

・簿外債務・偶発債務

買収交渉後に貸借対照表上に記載されていない簿外債務が発覚してもめるケースがあります。訴訟などにより、今後発生する可能性がある債務を偶発債務といいますが、これら買収先企業の財務リスクを事前に把握することがM&Aの基本となります。

このようにM&Aには不確定要素もあり、想定通りに進まない可能性もあります。

近年、日本企業でもM&Aが積極的に行われ、株式市場ではポジティブに受け取られることも多く、それが株価に影響を与えるケースもあります。それが企業としての飛躍のきっかけになることもある一方で、必ずしもすべてがうまくいくわけではないことを念頭に入れておきましょう。

[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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