初心者じゃなくても知っておきたい有価証券報告書の見方・使い方

佐々木達也
2019年10月9日 8時00分

使っていますか、有価証券報告書

企業や証券取引所のホームページには、投資家向けのさまざまな書類が公開されています。なかでも「有価証券報告書」は、投資家に必要な情報を提供するために企業が開示しなければならない書類です。事業年度が終了後、3カ月以内に証券取引所や財務局長に提出することが義務づけられています。

似たような書類に「決算短信」がありますが、これは決算の速報を投資家に周知するための書類で、掲載されている情報は必要最低限です。通常は決算日から45日以内に開示します。また決算短信は取引所に任意で提出するため、厳密には作成の義務はありません。

それ対して有価証券報告書は、金融商品取引法で規定されている報告書類で、上場企業が年度ごとに作成する義務があり、掲載されている情報も段違いに多くなります。投資判断の精度を高めるために、企業の状況を細かく把握できる貴重なツールとなります。

有価証券報告書には何が書かれているのか

そんな有価証券報告書には一体なにが書かれているのでしょうか。ここで取り上げるのは、富士フイルムホールディングス<4901>の2019年3月期の有価証券報告書です。公式ホームページから全文をPDFでダウンロードすることができます。

富士フイルムホールディングス公式サイトより)

目次を見ると、第一部の「企業情報」と第二部の「提出会社の保証会社等の情報」、そして「監査報告書」に分かれていますが、内容としてはほぼ企業情報がメインであることがわかります。

企業情報は、さらにいくつかの項目に分かれています。

  1. 企業の概況……主要な経営指標等の推移、 沿革、 事業の内容、 関係会社の状況など
  2. 事業の状況……業績等の概要、 生産・受注及び販売の状況、経営方針、経営環境及び対処すべき課題、リスク、経営上の重要な契約等、研究開発活動など
  3. 設備の状況……設備投資等の概要、主要な設備の状況、設備の新設、除却等の計画など
  4. 提出会社の状況……株式等の状況、自己株式の取得等の状況、配当政策、株価の推移、役員の状況、コーポレートガバナンスの状況など
  5. 経理の状況……連結財務諸表・キャッシュフロー計算書など
  6. 提出会社の株式事務の概要……決算期や単元株数、株主優待など
  7. 提出会社の参考情報……親会社等の参考情報など

必ず見ておきたい項目をチェック

目次だけでひるんでしまうかもしれませんが、実際、有価証券報告書は数十ページから、企業によっては100ページ以上にわたる場合も多く、すべてを読みこなすのはとても大変です。そこで、有価証券報告書を見る上で外せない項目をチェックしましょう。

1.主要な経営指標等の推移

この項目では、売上高や純利益などの業績、株価収益率(PER)などの投資指標、キャッシュフローや現金残高などの現金に関する項目などの推移がどうなっているかが、ひとめでわかります(富士フイルムホールディングスの有価証券報告書では2ページ)。

富士フイルムホールディングス公式サイトより)

  • 売上高や純利益は伸びているか?……企業の業績の基点となる売上高や株主に帰属する利益である純利益が伸びているか、減っているかのおおまかなトレンドをつかむ
  • 株主資本当期純利益率(ROE)は改善しているか?……ROEは株主のお金である株主資本を効率的に活用して経営出来ているかどうかを示す経営指標。ROEが改善傾向であれば、経営効率性や企業の競争力が増していると判断できる
  • 株価収益率(PER)はどんなレンジで推移しているか?……株価収益率は1株あたりの純利益に対して株価が何倍まで買われているかを表す、いわば株の人気度を示す指標。過去数年分のPERのレンジを確認することで、長期での高値・安値のめどをつけやすくなる
  • 現金の収支は改善しているか?……事業の結果として生み出された現金をあらわす営業キャッシュフローがプラスであるかどうか。さらに、営業キャッシュフローと投資キャッシュフローを合計したフリーキャッシュフローがプラスになっているかどうか。フリーキャッシュフローがプラスであれば、事業で稼いだ現金で将来の投資もまかなうことができているということになり、事業は健全なサイクルにあることがわかる

2.事業等のリスク

決算短信や説明会資料には載っていないため、有価証券報告書でチェックすべき情報として「事業等のリスク」があります。ここには企業の潜在的なリスクについて細かく記載されています。

富士フイルムの場合、経済情勢・為替変動による業績への影響が事業リスクに挙げられています。同社は世界のさまざまな地域で製品やサービスを提供しており、為替レートの変動によって影響を及ぼす可能性があることも記載されています(同15ページ)。

輸出企業であれば、円安で増益、円高で減益となることは何となくイメージしやすいところですが、企業によっては為替ヘッジや円建ての取引などを行っている場合もあります。この項目を確認することにより、為替リスクなどをより細かく確認することができます。

他にも、市場の競争環境や特許、規制に関するリスクなど、企業が考えているリスクが詳しく書かれています。

3.経営者、取締役の経歴

有価証券報告書には、取締役など経営陣の経歴も開示されています。

富士フイルムホールディングスの経営陣はほぼ生え抜きですが(同93〜95ページ)、銀行と関係が深い企業などでは経営陣の出自がメインバンクであったり、新興企業では他の大企業からの転身であったりと、経歴も様々です。企業の系列や社風などを把握するのに役立ちそうです。

4.経営方針、経営環境及び対処すべき課題等

いま現在、企業の経営陣が事業の環境をどのようにとらえており、対処すべき課題が何なのかを把握することができます。たとえば富士フイルムでは、対処すべき課題として「ヘルスケア・高機能材料領域の事業成長の強化」と「ドキュメント事業の抜本的強化」を掲げています(同12〜14ページ)。

この項目をチェックすることで、企業が成長に向けて注力しているセグメントはどれか、再構築を進めているセグメントはどれかなど、企業を取り巻く事業環境の概況を把握することができます。

意外な発見を楽しみに

有価証券報告書は、決算短信など比べるとページ数も多いので、一見とっつきづらさを感じるかもしれません。しかし、掲載項目は決まっていますので、慣れてくれば、どこに何が書かれているかをすぐに探すことができるようになります。

企業が任意で作成する決算説明資料などに比べて、リスクや対処すべき課題などネガティブな情報も細かく載っているため、投資判断の肝になる情報が見つかることもあるでしょう。株を保有している企業やよく知っている企業の有価証券報告書をのぞいてみれば、企業の新たな一面が見つかるかもしれません。

[執筆者]佐々木達也
佐々木達也
[ささき・たつや]金融機関で債券畑を経験後、証券アナリストとして株式の調査に携わる。市場動向や株式を中心としたリサーチやレポート執筆などを業務としている。ファイナンシャルプランナー資格も取得し、現在はライターとしても活動中。株式個別銘柄、市況など個人向けのテーマを中心にわかりやすさを心がけた記事を執筆。
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